子供

小児チフスの症状

腸チフス(チフス熱)は、**サルモネラ・タイフィ(Salmonella Typhi)**という細菌によって引き起こされる感染症であり、特に衛生状態の悪い地域で深刻な健康問題となっています。子どもは免疫力が成人に比べて低く、また衛生管理が未熟な場合が多いため、腸チフスに感染しやすい傾向があります。本記事では、小児における腸チフスの症状について、医学的根拠に基づいて包括的に解説し、併せて診断や予防、治療に関連する知識にも触れます。


腸チフスの感染経路と発症の背景

腸チフスは主に経口感染により広がります。感染者の便や尿に排出されたサルモネラ・タイフィが、汚染された水や食べ物を介して口から体内に入り、小腸に定着・増殖して全身に感染を広げます。

特に子どもは以下のような要因により感染しやすくなります:

  • 手洗いや衛生習慣の不十分さ

  • 汚染された食べ物や飲料水の摂取

  • 学校や家庭内での感染者との密接な接触


子どもに見られる腸チフスの主要な症状

腸チフスの症状は感染初期には風邪や他のウイルス性疾患と類似しており、見逃されやすいのが特徴です。しかし、進行とともに典型的な症状が現れてきます。

初期症状(感染後1週間以内)

症状 説明
微熱〜高熱 徐々に体温が上昇し、最終的に39〜40℃の高熱に達する
倦怠感・だるさ 子どもが異常に眠たがる、活動量が減る
食欲不振 食べ物を拒否し、水分すら取りたがらないこともある
頭痛 特に学童期の子どもに多く見られる
腹部不快感 胃のむかつきや軽い腹痛、ガスが溜まる感覚

進行期の症状(感染後1〜2週間)

症状 説明
持続する高熱 日内変動が少なく、解熱剤で下がってもすぐに再上昇する
腹痛 特に右下腹部や臍周囲に痛みを訴える場合が多い
下痢または便秘 初期には便秘、その後は水様性下痢が見られることも
薄紅色の発疹(ローズスポット) 特に腹部や胸部に小さな淡い紅色の斑点が出現する
鼓腸(腹部膨満) 腸内ガスや炎症による腹部の膨らみ
咳嗽 軽い咳が続くことがある(上気道炎との混同に注意)

重症例に見られる症状

症状 説明
錯乱や譫妄(せんもう) 高熱による意識障害、落ち着きのない行動
出血傾向 鼻血や歯茎からの出血、血便など
腸穿孔 腸に穴が開くことで腹膜炎を起こし、生命の危険がある緊急状態

年齢別の症状の違い

年齢層 主な症状と特徴
乳幼児(0〜2歳) 症状が非特異的で発見が遅れやすい。持続する発熱、機嫌の悪さ、哺乳力の低下などが手がかり
幼児(3〜6歳) 発熱、腹痛、下痢、咽頭痛などがみられ、風邪や胃腸炎との鑑別が重要
学童(7〜12歳) より典型的な症状が現れやすく、高熱、倦怠感、ローズスポット、鼓腸などの出現率が高い

診断と検査方法

腸チフスは症状だけでは確定診断が困難であり、以下の検査が行われます:

  • 血液培養(血液検査):発熱初期に最も有効。菌を分離し確定診断するための最重要検査。

  • 便培養:感染が腸に及んだ段階で有用。

  • 尿培養:尿中に菌が排出されている場合。

  • Widal反応(抗体検査):抗体価の上昇を確認するが、地域差・偽陽性の可能性がある。

  • CRP・白血球数:炎症の指標として用いるが、特異性は低い。


合併症とリスク

腸チフスを放置すると重篤な合併症を引き起こすことがあります。特に子どもでは進行が早く、注意が必要です。

  • 腸穿孔と腹膜炎

  • 脳炎、意識障害

  • 心筋炎(まれだが致命的)

  • 貧血・血小板減少

  • 慢性キャリア状態(菌の持続排出)


治療法

腸チフスは細菌感染であるため、抗菌薬による治療が基本です。早期に適切な抗菌薬を投与することで、症状は1週間以内に改善することが多いです。

主な抗菌薬

抗菌薬名 用法と特徴
セフトリアキソン 静脈注射。入院治療に使用される。小児に安全
アジスロマイシン 経口投与が可能。耐性菌に有効
クロラムフェニコール 発展途上国では使用されるが、副作用に注意
シプロフロキサシン 効果的だが、小児使用は慎重を要する

支持療法

  • 水分と電解質補給

  • 解熱剤の使用(アセトアミノフェンが一般的)

  • 安静と高栄養食の摂取


予防策

腸チフスは予防が何よりも重要です。以下の方法により、子どもを腸チフスから守ることができます:

ワクチン接種

腸チフスには不活化ワクチンと経口生ワクチンがあり、リスク地域に住む子どもには定期接種または推奨接種されることがあります。

ワクチン名 種類 接種方法 接種年齢
Vi多糖体ワクチン 不活化 筋肉注射 2歳以上
Ty21a 生ワクチン 経口カプセル 6歳以上

衛生習慣の徹底

  • 食事前・トイレ後の手洗い

  • 安全な飲料水の使用(煮沸またはボトルウォーター)

  • 生野菜や果物はよく洗ってから食べる

  • 学校や保育施設での衛生教育


まとめ

腸チフスは子どもにとって生命を脅かす感染症であり、早期発見・早期治療が不可欠です。特に熱が数日間続く場合、安易に風邪と判断せず、専門医の診察と検査を受けることが重要です。ワクチンの活用や生活習慣の改善により、多くの症例は予防可能であり、家庭や地域社会全体での取り組みが求められます。


参考文献

  1. WHO. Typhoid fever fact sheet. World Health Organization.

  2. 日本小児科学会 感染症ガイドライン

  3. 厚生労働省 感染症発生動向調査(IDWR)

  4. Crump JA, Mintz ED. “Global trends in typhoid and paratyphoid fever.” Clin Infect Dis. 2010;50(2):241-246.

  5. 日本感染症学会 「腸チフス・パラチフス診療ガイドライン」

Back to top button