各国の経済と政治

世界で最も健康な国々

世界で最も健康的な国々を評価する際には、単なる医療制度の充実度だけでなく、国民の平均寿命、生活習慣、栄養状態、運動習慣、公衆衛生政策、精神的健康、社会的な結束力など、さまざまな指標を総合的に考慮する必要がある。以下に挙げる10カ国は、世界中のさまざまな研究機関、保健機関、ならびに国際的な健康指標ランキング(たとえばブルームバーグ・グローバル・ヘルス指数、WHO、OECD、ハーバード大学の公衆衛生研究など)で一貫して高い評価を得ており、健康的な国家の代表例として広く知られている。


1. スペイン

スペインは、2023年時点で平均寿命が83.5歳を超え、世界で最も長寿な国の一つとされている。その背景には、地中海式食生活がある。オリーブオイル、魚、野菜、ナッツ、果物が中心で、加工食品や飽和脂肪の摂取が少ない。このバランスの取れた栄養摂取が、心臓病や糖尿病の発症リスクを低下させている。また、スペインの医療制度は公的保険制度が整備されており、国民は低コストで高品質な医療サービスを受けることが可能である。

さらに、日常生活における「シエスタ(昼寝)」の文化や、家族や地域との密接な関係が、精神的な健康維持にも貢献している。ストレスの少ないライフスタイルも見逃せない要素である。


2. イタリア

イタリアもまた地中海式食生活を基盤とする国であり、特に高齢者の健康水準が非常に高い。平均寿命は約83.2歳で、がんや心疾患の罹患率が低く抑えられている。家族中心の社会構造と、日々の生活における穏やかなリズムが、メンタルヘルスを支えている。

また、イタリアの地方自治体では、公園やウォーキングロードの整備が進んでおり、住民が自然と運動する習慣を維持できるような都市設計が行われている点も注目される。


3. 日本

日本は平均寿命84.3歳と、世界でも群を抜いて長寿国である。特筆すべきは、単なる寿命の長さではなく、「健康寿命(介護や医療を必要とせずに自立して生活できる期間)」も非常に長いことである。これは、伝統的な和食(魚、大豆製品、発酵食品、野菜が豊富)と、生活全体に組み込まれた歩行文化の影響が大きい。

また、日本の国民皆保険制度は質の高い医療をすべての国民に提供しており、予防医療の面でも優れている。定期的な健康診断の普及、保健師による地域支援、学校における保健教育も、全体的な健康水準を高めている。


4. アイスランド

アイスランドは自然と共に暮らす文化が根強く、国民は新鮮な魚介類、牧草飼育の羊肉、乳製品、野菜など、栄養価の高い食品を日常的に摂取している。人口規模が小さいにもかかわらず、医療制度は非常に整備されており、予防医療の意識も高い。

特に注目されるのは、精神的健康の水準の高さである。政府による若者向けのアルコール・薬物予防プログラムは成功を収めており、自殺率も欧州の中では低水準を維持している。


5. スウェーデン

スウェーデンは、福祉国家としての制度が非常に整っており、医療アクセスの公平性が高い。また、国民の健康意識も高く、喫煙率が低く、日常的に運動する人の割合も多い。自転車通勤が盛んな都市も多く、気候の厳しい北欧の中でもアクティブな生活が実現されている。

さらに、政府は「健康都市計画」に基づき、自然と調和した都市設計、歩行者優先の街づくりを推進している。メンタルヘルスのサポート体制も充実しており、心理カウンセリングへのアクセスが広く開かれている。


6. シンガポール

アジアで最も健康な国の一つとされるシンガポールは、平均寿命が83歳以上であり、感染症の管理や非感染性疾患の予防において非常に成功している。厳格な健康政策と、清潔な都市環境、計画的な都市構造が国民の健康を支えている。

医療制度も公私混合型で整備されており、国家主導で健康増進キャンペーン(たとえば「Healthy Living Master Plan」など)を実施している。学校教育にも健康教育が組み込まれ、幼少期からの予防意識が高められている。


7. スイス

スイスは医療保険制度が充実しており、すべての市民が質の高い医療を受けることが可能である。高水準の医療技術、清潔な生活環境、安定した社会システムが、総合的な健康水準の向上に寄与している。

また、国民の栄養に対する関心も高く、加工食品の摂取が少なく、オーガニック食品の消費が普及している。アルプスの大自然に囲まれた環境は、ハイキングやスキーなどのアウトドア活動を可能にし、運動不足を防いでいる。


8. ノルウェー

ノルウェーは医療福祉の分野で世界でも最高水準を誇り、全ての市民に対して包括的な健康サービスが提供されている。自然との距離が近く、フィヨルドや森林、山岳地帯を利用したレジャー活動が盛んで、運動習慣が自然と根付いている。

また、教育制度と健康教育が連携しており、若年層から高齢者まで健康リテラシーが高いのも特徴である。生活水準が高く、栄養バランスの取れた食事と安定した生活リズムが、非感染性疾患の発症を抑えている。


9. オーストラリア

オーストラリアは広大な自然と高い教育水準を持ち、健康的なライフスタイルを享受できる国である。平均寿命は82.9歳で、特に心臓病、脳卒中、がんといった主要死因に対する予防対策が進んでいる。

医療アクセスの面でも、公立病院と私立病院のバランスが取れており、住民は柔軟に医療サービスを選択できる。さらに、国民のフィットネス意識が高く、スポーツクラブやジムへの参加率が他国と比べて高い。


10. イスラエル

イスラエルは近年、健康分野で急速な発展を遂げている。平均寿命は82.8歳で、予防医学の研究が盛んであると同時に、最先端の医療技術と研究施設を備えている。国民皆保険制度が整っており、健康診断やワクチン接種などの公衆衛生活動も普及している。

食生活の面では、オリーブオイル、野菜、全粒穀物、魚を中心とした中東型の食事が定着しており、心血管疾患のリスクを低下させている。精神的な側面においても、宗教的・社会的つながりが強く、孤独やストレスに対するバッファーとして機能している。


以下の表は、これら10カ国の主な健康指標をまとめたものである。

国名 平均寿命(歳) 主な健康的特徴 医療制度の充実度
スペイン 83.5 地中海式食生活、公共医療制度、低ストレス 非常に高い
イタリア 83.2 和やかなライフスタイル、家族重視、地中海式食事 高い
日本 84.3 和食、健康寿命の長さ、予防医療の普及 非常に高い
アイスランド 83.0 自然との共生、低薬物使用率 高い
スウェーデン 82.8 運動習慣、都市計画、メンタルケア 非常に高い
シンガポール 83.1 清潔な都市、健康キャンペーン 非常に高い
スイス 83.4 オーガニック志向、高医療技術 高い
ノルウェー 82.9 健康教育の徹底、自然運動 高い
オーストラリア 82.9 スポーツ文化、医療選択の自由 高い
イスラエル 82.8 予防医学、社会的連帯 高い

これらの国々に共通するポイントは、以下の通りである。

  • 栄養バランスの取れた伝統的な食文化

  • 医療制度の普遍性と予防重視の政策

  • 日常的な身体活動が生活の一部であること

  • 精神的健康への配慮と社会的な支援体制

  • 公共空間の整備と健康志向の都市設計

このような社会構造と文化の融合が、世界的に見ても極めて高い健康水準を支えている。日本においても、これらの国々の政策やライフスタイルを参考にすることで、さらなる健康寿命の延伸や医療費の抑制につながる可能性がある。

参考文献:

  • Bloomberg Healthiest Country Index (2023)

  • World Health Organization (WHO)

  • OECD Health Statistics

  • The Lancet Public Health

  • Harvard School of Public Health

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