文化

エルサレムの最古の名前

エルサレムという都市は、数千年にわたる複雑で多層的な歴史を持ち、人類文明の中でも最も古く、最も神聖視されている都市の一つである。この記事では、エルサレムの最古の名称とされる「ウルサレム」に焦点を当て、歴史的背景、考古学的証拠、言語的分析を通して、この名称の由来とその意味を包括的に考察する。


最古の名称:ウルサレム

現在「エルサレム」として知られるこの都市の最古の文献上の記録は、紀元前19世紀から14世紀にかけての中東地域で交わされた粘土板文書、いわゆる「アマルナ文書」に見ることができる。これらの記録には、「ウルサレム」という名が使用されており、これは今日の「エルサレム」の前身であると広く認識されている。

この「ウルサレム」という名称は、シュメール語およびアッカド語に由来する可能性がある。最も広く受け入れられている解釈によれば、「ウル」は都市を意味し、「サレム」は平和を意味する語根から来ている。つまり、「ウルサレム」は「平和の都市」という意味を持っていたとされる。


考古学的証拠

エルサレムの最古の遺跡は、紀元前3000年頃の新石器時代後期にさかのぼる。古代カナン人がこの地域に居住していたと考えられ、考古学的発掘では、古代の城壁、井戸、住居跡が発見されている。紀元前1800年頃には、この都市は既に要塞化されており、王によって統治されていた証拠がある。

アマルナ文書には、当時の都市国家「ウルサレム」の王であるアブディヘバという人物が登場し、彼がエジプトのファラオに援軍を要請する内容が記されている。これは、ウルサレムがすでに政治的・軍事的に重要な拠点であったことを示している。


言語学的分析

「ウルサレム」という名称の構成要素である「ウル」は、古代メソポタミアのシュメール語において「都市」を意味する語であり、他にも「ウル(Ur)」や「ウルク(Uruk)」などの都市名に見ることができる。

「サレム」は、平和や完全性を意味するセム語族に由来する語根「シャローム(Sh-l-m)」と関係が深いとされる。この語根はヘブライ語の「シャローム(平和)」やアラマイ語・フェニキア語における類似語とも共通する。

このため、「ウルサレム」という名称は、単なる地名ではなく、宗教的・象徴的な意味合いを含んでおり、「神の平和がある都市」あるいは「神に捧げられた平和の場所」とも解釈されている。


文献的伝承と宗教的背景

旧約聖書においても、エルサレムは特別な意味を持つ都市であり、ダビデ王がこの地を首都と定め、ソロモン王が神殿を建設したことで、宗教的な中心地となった。

しかし、聖書において「エルサレム」という名称が最初に登場するのは、比較的後の時代であり、創世記に登場する「サレム」という都市名が、ウルサレムと同一視されることがある。これは、アブラハムが出会う「サレムの王メルキゼデク」に由来する。

また、古代の他文献においても「ルシャリム」、「ウルサリム」など類似の名称が見られるが、いずれも「ウルサレム」の語形に近似しており、音韻変化を伴いながら現代の「エルサレム」へと進化していったと考えられる。


他文明との関係

エルサレムの古名は、エジプト文明やヒッタイト帝国の記録にも登場する。アマルナ文書に記されたウルサレムは、当時の国際政治において重要な地位を占めており、他の都市国家と同様、外交的書簡を通じて権力の均衡を維持しようとしていた。

また、後世のバビロニアやアッシリアの碑文においても、エルサレムは「ウルサリム」または「ウルシャリム」として登場し、征服の対象として記録されている。


歴史的変遷と名称の変化

ウルサレムという名称は、時代とともに様々な形で変化していった。以下の表は、その名称の変遷を時代ごとにまとめたものである。

時代 名称 使用言語 備考
紀元前19世紀頃 ウルサレム アッカド語 アマルナ文書に記録あり
紀元前14世紀頃 ウルシャリム ヒッタイト語 外交書簡に登場
紀元前10世紀頃 サレム ヘブライ語 創世記に登場(宗教的文脈)
紀元前7世紀頃 ルシャリム アッシリア語 アッシリア王の碑文
紀元前6世紀頃 イェルシャライム バビロニア語 捕囚時代に使用
現代 エルサレム ヘブライ語/日本語 現在の正式名称

結論

エルサレムの最古の名称「ウルサレム」は、単なる都市名以上の象徴性を持っており、その語源や言語的構造、考古学的証拠からは、古代人にとってこの都市が宗教的・政治的に極めて重要であったことが浮かび上がってくる。

数千年にわたり、多くの民族や宗教がこの都市に関わってきたが、「ウルサレム」という最初の呼称には、「平和の都市」という理想が既に込められていた可能性が高い。これは現代においても大きな示唆を与えるものであり、歴史を通じて繰り返される紛争の中にあってなお、エルサレムが象徴する「平和」という理念が、いかに深く根ざしていたかを物語っている。


参考文献

  1. Kenyon, K. M. Digging Up Jerusalem, London: Ernest Benn, 1974.

  2. Amarna Letters. Translated and Edited by W. Moran, Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 1992.

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  6. Millard, A. R. “Urusalim and Jebus”, Palestine Exploration Quarterly, 1985.

  7. Goren, Y., Finkelstein, I., Na’aman, N. Inscribed in Clay: Provenance Study of the Amarna Tablets, Tel Aviv University, 2004.

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