口腔と歯の健康

親知らず抜歯後の炎症

親知らず抜歯後の部位における炎症(抜歯窩炎)は、口腔外科的処置の後に起こりうる一般的な合併症の一つである。抜歯直後には、自然治癒の過程が開始されるが、時としてその治癒が妨げられることで、痛みや感染、腫脹などの症状が現れる。この状態は医学的に「ドライソケット(乾燥性抜歯窩)」とも呼ばれ、適切なケアがなされない場合には、さらに深刻な感染症に進展する可能性もある。以下に、抜歯後の炎症が起こる原因、症状、診断法、治療法、そして予防策について包括的に解説する。

抜歯部位の炎症が起こる原因

  1. 血餅の喪失(ドライソケット)

     通常、抜歯後には血餅(けっぺい)が形成され、それが創傷を保護し、組織再生を助ける役割を果たす。血餅が何らかの理由で失われると、骨が露出し、炎症が起こりやすくなる。

  2. 喫煙

     喫煙は血流を低下させるため、傷の治癒を妨げるほか、ニコチンが血餅を早期に溶かしてしまうことがある。

  3. 口腔内衛生の不備

     口腔内の清潔を保たなければ、細菌が繁殖しやすく、抜歯部位に感染を引き起こす。

  4. 抜歯操作の困難さ

     親知らずが骨の中に深く埋まっていたり、斜めに生えていたりする場合、外科的な処置が長時間に及び、組織への外傷が大きくなることで、炎症のリスクが高まる。

  5. 抗凝固剤の服用

     血液を固まりにくくする薬剤を使用している患者は、血餅の形成が不十分になりやすい。

抜歯後炎症の主な症状

症状 詳細説明
持続的な痛み 抜歯後2〜3日経っても続く、あるいは悪化する強い痛み
口臭 感染や腐敗した組織から発生する不快なにおい
腫れと発赤 抜歯部位やその周辺の歯肉が腫れ、赤くなる
発熱 体温が上昇することがあり、感染症の兆候である
開口障害 炎症が顎の筋肉に広がると、口を開けづらくなることがある
リンパ節の腫れ 下顎部や頸部のリンパ節が腫れる場合もある

診断方法

抜歯後に上記の症状が出た場合は、歯科医院を受診し、以下の方法で診断が行われる。

  • 視診:抜歯窩の状態を観察し、血餅の有無や膿の存在を確認する。

  • 触診:痛みや腫脹の程度、リンパ節の腫れをチェックする。

  • レントゲン撮影:骨の感染や骨膜炎の有無を確認するために行う。

治療方法

  1. 洗浄と消毒

     患部を生理食塩水や抗菌薬で洗浄することで、感染源を除去する。

  2. 鎮痛薬の使用

     非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬を処方し、痛みを緩和する。

  3. 抗生物質の投与

     感染が疑われる場合には、口腔内細菌に有効な抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシンなど)が処方される。

  4. 薬剤含有ガーゼの挿入

     ドライソケットの場合には、抗菌薬や鎮痛成分を含んだガーゼやジェルを抜歯窩に挿入して保護・治癒を促す。

  5. 再診と経過観察

     数日ごとに再診して、症状の変化や治癒の進行を確認する。

自宅でできる対処法

方法 効果
ぬるま湯でのうがい 優しく口腔内を清潔に保つ(抜歯24時間後から)
冷湿布の使用 初期の腫れや痛みの軽減に有効(抜歯後48時間まで)
柔らかい食事の摂取 傷口への刺激を避ける
水分補給を十分に行う 体内の回復を助ける
うつ伏せや片側を下にしない就寝姿勢 圧迫や腫れの悪化を防ぐ

抜歯後炎症の予防方法

  • 指示通りのアフターケアの実施:歯科医師の指導を必ず守る。

  • 喫煙・飲酒の回避:抜歯後少なくとも48時間は控える。

  • ストローの使用禁止:陰圧が血餅を吸い出すおそれがある。

  • 過度な口腔洗浄の回避:初期は強いうがいを避ける。

  • 十分な休息:身体の免疫力を保つことで、感染を防ぎやすくなる。

合併症の可能性と注意点

まれではあるが、炎症が顎の骨全体や深部組織に波及することがあり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や骨髄炎に進行するケースも報告されている。また、糖尿病や免疫抑制剤を使用している患者では、回復が遅れる傾向があるため、特に注意が必要である。

結論

親知らず抜歯後の炎症は、適切な予防策と迅速な対応によって、ほとんどの場合は短期間で回復する。一方で、初期のサインを見逃したり、口腔衛生を怠ったりすると、長引く痛みや深刻な感染につながる恐れがある。抜歯後には、定期的に歯科医の診察を受け、異常があればすぐに相談することが重要である。炎症の早期発見と対処によって、合併症のリスクを最小限に抑えることができる。

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