アジソン病(副腎不全)は、副腎が十分なホルモンを分泌できなくなる疾患であり、特にコルチゾールとアルドステロンの分泌不足が特徴です。副腎は体内で重要なホルモンを分泌する臓器で、これらのホルモンは血圧の調整やストレスへの対応、代謝の調整などに関与しています。アジソン病はその症状が非常に多様であり、初期には症状が非常に軽微で見過ごされがちですが、早期に診断し治療を開始することが重要です。以下に、アジソン病の主な症状について詳述します。
1. 疲労感と倦怠感
アジソン病の最も一般的な症状の一つは、慢性的な疲労感です。患者は日常的に体がだるく、エネルギーが不足していると感じることが多く、普段の活動をこなすことが困難になることがあります。これは、コルチゾールというホルモンがストレスに対する身体の反応を助け、エネルギー代謝に重要な役割を果たしているためです。コルチゾールが不足すると、身体はストレスに対する適切な反応を示せなくなり、慢性的な疲労感が生じます。

2. 体重減少と食欲不振
アジソン病の患者はしばしば体重が減少します。これは、代謝の低下とともに、食欲の低下が影響しているためです。食欲不振は、特にアジソン病の初期段階で見られることがあります。また、体重減少の原因としては、体内のナトリウムや水分の保持能力が低下することが関与している場合もあります。
3. 低血圧
アジソン病の典型的な症状の一つは低血圧(血圧の低下)です。副腎がアルドステロンを分泌しなくなると、ナトリウムと水分の保持が不十分となり、血液量が減少します。このため、立ち上がるときや急に動き出したときに、めまいや立ちくらみが生じやすくなります。低血圧はまた、倦怠感や脱力感を悪化させることがあります。
4. 皮膚の色素沈着(褐色斑)
アジソン病では、皮膚の色素沈着が見られることがあります。特に、手のひらや足の裏、口の中、さらには関節の曲げ目などが暗くなることがあります。この症状は、アジソン病の患者がコルチゾールと関連するホルモンであるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)のレベルが異常に高くなることに関連しています。ACTHは、色素生成を促すメラニンの分泌を増加させるため、皮膚が暗く見えるのです。
5. 食塩の渇望
アジソン病患者はしばしば食塩を強く渇望します。これは、アルドステロンの分泌不足によって体内のナトリウムの保持が不十分になるためです。体内のナトリウムが不足すると、身体はその補充を求め、食塩を多く摂取しようとする傾向が強くなります。食塩を摂ることで、一時的に症状が改善することもあります。
6. 筋肉の弱さ
アジソン病に伴う筋肉の弱さは、コルチゾールとアルドステロンの不足によるものです。コルチゾールは筋肉のエネルギー供給に関与しており、アルドステロンは電解質のバランスを調整します。これらが正常に機能しないと、筋肉が疲れやすくなり、力が入りにくくなることがあります。
7. 吐き気や嘔吐
アジソン病の患者はしばしば吐き気や嘔吐を経験することがあります。これもホルモンの不均衡に起因する症状であり、消化器系への影響として現れることがあります。特に、食欲不振や体重減少とも関連しています。
8. 血糖値の低下(低血糖)
アジソン病は、血糖値の低下を引き起こすことがあります。コルチゾールは血糖値を上げる働きがあるため、その不足により低血糖が引き起こされることがあります。低血糖は、震え、発汗、めまい、倦怠感、集中力の低下などを引き起こし、時には意識を失うこともあります。
9. 精神的な変化
アジソン病では、精神的な症状が現れることがあります。コルチゾールが精神状態の安定にも重要な役割を果たしているため、その不足により、不安感、抑うつ、集中力の低下などが現れることがあります。これらの症状は、身体的な疲れや体調不良とも相まって、精神的なストレスを増加させることがあります。
10. 感染症への感受性の増加
アジソン病の患者は、免疫系の働きが低下しているため、感染症にかかりやすくなります。コルチゾールは免疫反応を調整する役割を果たしており、その不足によって免疫力が低下します。その結果、風邪やインフルエンザ、その他の感染症にかかるリスクが高くなります。
11. アジソン危機
アジソン病の最も深刻な合併症は、「アジソン危機」と呼ばれる状態です。これは、急激なコルチゾールの不足により生命を脅かす状態になります。アジソン危機では、極度の低血圧、ショック、脱水、重度の嘔吐、下痢、意識障害などが急速に進行し、緊急の治療が必要です。アジソン危機は、ストレスや感染症、手術などが引き金となることが多いです。
診断と治療
アジソン病の診断には、血液検査やホルモン検査が必要です。血液中のコルチゾールやACTHのレベル、電解質のバランスを測定することで、診断が確定します。治療には、副腎ホルモンの補充療法が行われ、コルチゾールとアルドステロンの代わりとなる薬剤を服用します。また、アジソン病の患者は、ストレスや感染症の際に薬の調整が必要となることがあります。
結論
アジソン病は、初期段階では症状が軽微であるため見過ごされがちですが、早期に診断し治療を開始することが非常に重要です。日常生活においては、体調の変化に敏感になり、必要な治療を受けることが患者の健康維持に繋がります。また、アジソン危機のような緊急事態を予防するためにも、適切な医療のサポートが欠かせません。