アスカリス(Ascaris)とは、ヒトの腸に寄生する寄生虫で、世界中で最も一般的な寄生虫の一つです。この寄生虫は、アスカリス・ルンブリコイデス(Ascaris lumbricoides)という学名で知られ、特に発展途上国において、衛生状態が不十分な地域でよく見られます。アスカリスによる感染症は「アスカリス症」と呼ばれ、消化器系や肺に影響を与えることがあります。この記事では、アスカリスの生態、感染経路、症状、診断方法、治療法、予防方法について詳しく解説します。
アスカリスの生態
アスカリスは、非常に大きな体を持つ線状の寄生虫で、成虫は長さが30センチメートルから40センチメートルに達することがあります。オスとメスは異なる特徴を持ち、メスはオスよりも大きいです。アスカリスは腸内で成長し、卵を産みます。これらの卵は非常に耐久性が高く、環境中で数年にわたって生存することができます。卵は未処理の水や不衛生な食物を通じて人間に感染します。

感染経路
アスカリスの感染は、主に口から卵を摂取することによって始まります。これらの卵は、感染した人の糞便に含まれており、未処理の水や食物、または汚染された手によって広がります。感染した人が糞便を処理せずに食物を摂取したり、水を飲んだりすると、卵が体内に入り、腸内で孵化して幼虫となります。その後、幼虫は腸壁を通って血流に入り、肺に到達します。肺でさらに成長した後、再び腸に戻り、成虫となります。このサイクルは数ヶ月続き、感染者の体内で繁殖を繰り返します。
アスカリス症の症状
アスカリス症の症状は、感染の進行度や感染者の健康状態によって異なります。軽度の感染では、症状が現れない場合もあります。しかし、重度の感染では次のような症状が見られることがあります:
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腹痛や不快感
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吐き気や嘔吐
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下痢または便秘
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食欲不振
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体重減少
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腹部膨満感
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呼吸困難や咳(肺に達した幼虫による)
また、非常に高い感染者では、アスカリスの成虫が腸内で詰まりを引き起こすことがあり、これが腸閉塞や腸管の損傷を引き起こすことがあります。まれに、虫が腸を越えて他の臓器に達し、重篤な合併症を引き起こすこともあります。
診断方法
アスカリス感染症の診断は、主に便検査によって行われます。感染者の便中にアスカリスの卵が存在するかどうかを確認するため、顕微鏡を用いて便のサンプルを調べます。場合によっては、血液検査や胸部X線検査が必要となることもあります。肺に達した幼虫が原因で咳や呼吸困難が発生した場合、X線で異常が確認されることがあります。
治療方法
アスカリスの治療は、主に駆虫薬を使用することによって行います。最も一般的に使用される薬はアルベンダゾールやメベンダゾールなどで、これらの薬は腸内のアスカリスを駆除する効果があります。治療は通常、1回の投与で効果を発揮しますが、感染が重度の場合には追加の治療が必要となることもあります。
また、治療中にアスカリスが腸内で移動することによって痛みを感じることがあるため、症状を和らげるために鎮痛薬が使用されることがあります。腹部膨満や腸閉塞が見られる場合には、手術が必要となることがあります。
予防方法
アスカリス症を予防するためには、以下の衛生習慣を守ることが重要です:
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手洗い: 食事前やトイレの後には必ず手を洗いましょう。特に、汚染された水や食物に触れた場合には徹底した手洗いが必要です。
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水の安全性: 未処理の水を飲まないようにし、浄水された水を使用することが推奨されます。
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食べ物の衛生管理: 野菜や果物は十分に洗浄し、加熱が必要な食物はしっかりと加熱して食べるようにしましょう。
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衛生的なトイレの使用: 公共のトイレを使用した後は、必ず手を洗い、衛生状態を保つように心がけましょう。
まとめ
アスカリスは世界中で広く見られる寄生虫であり、特に衛生状態が不十分な地域で問題となります。感染症を予防するためには、日常的な衛生管理と食物・水の安全に気を付けることが重要です。アスカリス症は、適切な駆虫薬の使用によって治療が可能であり、早期に診断し、治療することが重症化を防ぐために重要です。