アルジェリアの歴代大統領に関する歴史は、国家の独立とともに始まり、その後の政治的、社会的、経済的な変遷を通じて複雑な軌跡を描いてきた。本記事では、アルジェリアの全ての大統領について、その在任期間、政治的背景、主な政策、ならびに国内外における影響力を詳細かつ体系的に検討する。1950年代末から現在に至るまでのアルジェリア大統領の歩みは、現代北アフリカ政治の縮図でもある。
アーメド・ベン・ベラ(1963年 – 1965年)

アルジェリア初代大統領であるアーメド・ベン・ベラは、アルジェリア独立戦争(1954年~1962年)を経て、1962年の独立後、臨時政府の首班を務め、1963年に正式な初代大統領に選出された。彼は社会主義的政策を掲げ、土地改革や国有化政策を進めたが、急進的な手法と権力集中が批判を招き、1965年には軍司令官であったウアリ・ブーメディエンによる無血クーデターにより失脚した。
ウアリ・ブーメディエン(1965年 – 1978年)
クーデター後、権力を掌握したブーメディエンは、軍と国家を強固に結びつけた支配体制を構築した。彼の時代は国家主導の経済開発、特に石油と天然ガスの国有化(1971年)によって特徴づけられる。また、非同盟運動に積極的に参加し、アフリカやアラブ諸国との連携を深めた。彼は1978年に病没するまで、絶対的な権力を維持した。
シャドリ・ベン・ジェディド(1979年 – 1992年)
ウアリ・ブーメディエンの死後、後継者として就任したベン・ジェディドは、経済の自由化や多党制導入など、政治的な開放に取り組んだ。1991年の総選挙ではイスラム主義政党が第一党となるが、軍はこれを受け入れず、翌1992年に選挙結果を無効とし、ベン・ジェディドも辞任に追い込まれる。これにより、アルジェリアは約10年に及ぶ内戦に突入する。
アリー・カフィ(1992年 – 1994年)
内戦初期の暫定大統領として就任したカフィは、国家高位安全評議会(HCE)の議長として実質的に国家を統治した。内戦を鎮圧するための強硬策を講じたが、暴力の激化を抑えきれず、政治的解決を模索しつつも任期を終えた。
リアム・ゼルオアル(1994年 – 1999年)
ゼルオアルもまた軍出身であり、和平と国民和解を掲げて就任したが、暴力は継続。彼は1995年に民選大統領として選ばれるが、政情不安は続き、1999年に辞任を表明。ゼルオアルの任期中には、政治的包摂を図る動きとともに、反政府武装勢力との断続的な交渉が行われた。
アブデルアジズ・ブーテフリカ(1999年 – 2019年)
ブーテフリカは、内戦後の平和構築に尽力した大統領として長期政権を築いた。彼の主導で「国民和解憲章」が採択され、多くの反政府勢力が武装解除した。また、石油収入による経済成長が見られた時期もあったが、長期政権の弊害も顕在化。2013年の脳卒中以降は健康問題が深刻化し、2019年の抗議運動「ヒラック」により辞任に追い込まれた。
アブデルカデル・ベンサラー(2019年)
ブーテフリカ辞任後の暫定大統領として短期間政権を担ったベンサラーは、12月の大統領選挙実施に向けた移行期の安定を確保するために起用された。政治的正統性に欠けるとの批判を受けつつも、選挙プロセスを進めた。
アブデルマジド・テブン(2019年 – 現在)
テブンは2019年12月の選挙で選出された現職大統領であり、ブーテフリカ時代の首相経験を持つ。彼は政治改革、経済の多角化、腐敗撲滅を公約とし、ヒラック運動の余波の中で厳しい政治的課題に直面している。COVID-19パンデミック対応や、国家財政の健全化に取り組みつつ、国内外における信頼回復を模索している。
アルジェリア歴代大統領一覧表
名前 | 在任期間 | 主な特徴・実績 |
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アーメド・ベン・ベラ | 1963年~1965年 | 初代大統領、社会主義的改革、軍による失脚 |
ウアリ・ブーメディエン | 1965年~1978年 | 国家主導経済、国有化政策、非同盟運動 |
シャドリ・ベン・ジェディド | 1979年~1992年 | 政治開放、イスラム主義の台頭、辞任 |
アリー・カフィ | 1992年~1994年 | 暫定政権、内戦激化期の対応 |
リアム・ゼルオアル | 1994年~1999年 | 和解政策、民選大統領、辞任 |
アブデルアジズ・ブーテフリカ | 1999年~2019年 | 国民和解、長期政権、健康問題、ヒラックによる辞任 |
アブデルカデル・ベンサラー | 2019年 | 暫定大統領、選挙実施までの移行 |
アブデルマジド・テブン | 2019年~現在 | 政治改革、公約履行の課題、コロナ禍対応 |
このように、アルジェリアの大統領職は単なる国家元首という枠を超え、歴史的・地政学的状況に応じて多様な役割を果たしてきた。とりわけ、軍との関係、石油・ガス資源の統制、イスラム主義運動との対立・交渉、そして民主主義への移行プロセスは、各政権における根本的な課題であった。国家の独立以降、アルジェリアは幾度もの政変と改革を繰り返してきたが、いまだ安定的な民主主義体制の確立には至っていない。
現職大統領であるテブン政権もまた、改革の継続と社会の信頼回復に直面しており、その舵取りはアルジェリアの将来を大きく左右する。若者層の高い失業率、経済の原材料依存、対外関係における立ち位置の模索など、挑戦は多岐にわたる。過去の指導者たちが直面した教訓と過ちを踏まえ、アルジェリアは真に国民主体の政治を実現できるかどうか、今後の歩みが注目される。
参考文献:
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Entelis, John P. Algeria: The Revolution Institutionalized. Boulder, CO: Westview Press, 1986.
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Roberts, Hugh. The Battlefield Algeria 1988–2002: Studies in a Broken Polity. Verso, 2003.
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Martinez, Luis. The Algerian Civil War 1990–1998. Columbia University Press, 2000.
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International Crisis Group. Algeria’s Hirak: Young, Peaceful, Determined, Middle East and North Africa Report N°222, 2020.
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Official Website of the Presidency of Algeria(英語ページ翻訳情報)。
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