イラクはその豊かな歴史と多様な文化で知られていますが、宗教的にも非常に多様な国です。イラクにはさまざまな宗教が存在し、各宗教はイラクの社会構造や歴史に深く影響を与えてきました。イラクの主要な宗教はイスラム教であり、その中でもシーア派とスンニ派が大きな割合を占めています。また、少数派としてはキリスト教、ヤズィディ教、ユダヤ教なども存在します。以下では、イラクにおける主要な宗教とその特徴について詳しく説明します。
1. イスラム教(シーア派とスンニ派)
イラクで最も信仰されている宗教はイスラム教で、イラクの人口の大多数(約95%)がイスラム教徒です。イスラム教はシーア派とスンニ派という2つの主要な宗派に分かれています。イラクではシーア派が多数派を占めており、特に南部のバスラやナジャフ、カーディムヤなどがシーア派の聖地として知られています。一方、スンニ派は主にイラクの北部や西部に集中しており、特にモスルやアンサール地方で多く見られます。
シーア派
シーア派は、イスラム教の創始者ムハンマドの後継者(カリフ)としてアリーを認める一派です。シーア派の信者はイラクにおいて最大の宗派を形成し、特にアリーの子孫を尊崇しています。ナジャフにはシーア派の最も重要な聖地があり、毎年ここには多くの巡礼者が訪れます。シーア派の教義には、イマーム(宗教的指導者)の存在が重視され、イマームたちは宗教的な権威を持ちます。イラクのシーア派は、イスラム革命やイランとの関係にも深い関わりがあります。
スンニ派
スンニ派は、イスラム教の創始者ムハンマドの後継者として、選挙で決定されたカリフを認める宗派です。スンニ派はイラクの全体の人口の約30%を占めています。スンニ派の信者は、通常はイラクの北部や西部に多く、サマッラーやモスルなどの都市に集住しています。スンニ派はイラク政府と長年にわたり政治的な対立を抱えてきましたが、イラク戦争後の混乱の中でシーア派主導の政府と対立することが多くなりました。
2. キリスト教
イラクにおけるキリスト教徒は少数派であり、全人口の約1%を占めています。イラクのキリスト教徒は、主にアッシリア人やアルメニア人が多く、イラク北部やモスル周辺に住んでいます。イラクにはいくつかのキリスト教の教派が存在しますが、特にアッシリア東方教会、カトリック、そしてプロテスタントが信仰されています。イラクのキリスト教徒は、長い歴史を持つ宗教共同体であり、イラクの宗教的多様性の一翼を担ってきましたが、近年は迫害や戦争の影響を受けて数が減少しています。
3. ヤズィディ教
ヤズィディ教は、イラクのクルド人を中心に信仰されている宗教で、イラク北部のモスルやシンジャール山地に住むヤズィディ人によって信仰されています。ヤズィディ教は非常に古い宗教であり、その起源はペルシャ帝国時代に遡ると言われています。ヤズィディ教徒は、悪魔(シャイタン)を崇拝すると誤解されることが多いですが、実際には独自の神学を持ち、神々の中で最高位にある神を崇拝しています。ヤズィディ教徒は、イラクの宗教的迫害の対象となることが多く、特に2014年のISISの侵攻では多数のヤズィディ人が殺害され、強制的に移住させられました。
4. ユダヤ教
ユダヤ教は、イラクの歴史の中で重要な位置を占めていましたが、現在ではほとんど信者がいません。イラクにはかつて大きなユダヤ人コミュニティが存在し、バグダッドには有名なユダヤ教のシナゴーグがいくつかありました。しかし、1948年にイスラエルが建国されてから、イラクにおけるユダヤ人は迫害や差別を受け、1950年代にはほとんどが国外へ移住しました。現在ではイラク国内に残るユダヤ人は非常に少数派となっており、ユダヤ教の信仰はほぼ消失しています。
5. その他の宗教
イラクには他にも少数派の宗教が存在しますが、これらの宗教の信者は非常に少ないです。例えば、サバイ教(マンダイ教)はイラクの南部に住む少数派に信仰されています。この宗教は、古代の宗教であり、アブラハムの宗教とは異なる独自の神話や儀式を持っています。
結論
イラクは、宗教的な多様性と歴史的背景を持つ国であり、イスラム教が主流を占める一方で、キリスト教やヤズィディ教、ユダヤ教などの少数派も存在しています。シーア派とスンニ派は長年にわたる対立と共存を繰り返してきましたが、イラクの宗教的な風景は絶えず変化しています。宗教的な自由や共存が求められる中、イラクは宗教的な多様性を尊重し、平和的な共存を目指す道を模索しています。
