ほか

インターネット依存の克服法

インターネット依存症:定義、原因、影響、そして治療法

インターネットは現代社会において不可欠なインフラとなり、仕事、学習、娯楽、社会的つながりの手段として、私たちの生活のあらゆる側面に浸透している。しかし、その利便性と引き換えに、新たな問題も顕在化している。その代表的なものが「インターネット依存症(Internet Addiction)」である。本稿では、インターネット依存症の定義、発症の背景にある原因、精神的・身体的・社会的な影響、そして科学的に裏付けられた治療法と予防策について包括的に論じる。

インターネット依存症とは何か

インターネット依存症は、インターネットの使用を自分の意思で制御できなくなる行動嗜癖の一種であり、個人の生活に支障をきたすほど使用が過剰になっている状態を指す。精神医学的には、正式な診断名としてはDSM-5(アメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル)において「インターネット・ゲーミング障害(Internet Gaming Disorder)」が暫定的に挙げられているが、近年ではSNS依存、動画視聴依存、ネットショッピング依存など多様な形での依存が報告されている。

この依存症は、薬物依存やギャンブル依存と同様に、ドーパミン報酬系を介して快感を得るために反復行動が促進されるというメカニズムを持ち、精神的な離脱症状や耐性も見られることが多い。

主な原因と誘因

心理的要因

  1. 不安やうつ状態の緩和

     インターネットは一時的な現実逃避を可能にし、不安やストレスからの解放感を提供する。そのため、心理的苦痛を抱える人ほど依存しやすい傾向がある。

  2. 孤独感や社会的不適応

     リアルな人間関係に不安を抱える人が、SNSやゲーム内での仮想的なつながりを求めることで依存傾向が強まる。

  3. 自己肯定感の低さ

     オンライン上での承認(いいねやフォロワーの数など)によって一時的に自己価値を高めようとする行動が繰り返され、結果として依存状態に陥る。

環境的要因

  1. 家庭環境の影響

     親のスマホ依存や家庭内のコミュニケーション不足は、子どもにとっての模範行動となり、依存のリスクを高める。

  2. 教育機関や職場でのICT利用の増加

     学習や仕事におけるインターネットの使用が前提となっている現代では、利用時間の境界があいまいになりやすい。

  3. 夜型の生活習慣や睡眠障害

     インターネットの使用が深夜に及ぶことで睡眠の質が低下し、それがさらに依存の強化要因となる悪循環に陥る。

生物学的要因

脳科学の研究では、依存状態にある人々の脳内では、報酬系(特に腹側被蓋野と側坐核)の過剰な活性化が観察されている。また、前頭前皮質の機能低下も報告されており、衝動抑制能力が損なわれることで自己制御が困難になるとされている。

インターネット依存症の症状と影響

領域 主な症状・影響
精神 イライラ、不安感、うつ状態、強迫的行動
身体 睡眠障害、視力低下、首・肩の痛み、肥満、運動不足
社会 家族関係の悪化、成績低下、職場での評価低下、孤立
経済 ネットショッピングやゲーム課金による金銭問題

これらの症状は、時間とともに深刻化し、生活全体の質を著しく低下させる。特に思春期の青少年においては、脳の発達にも影響を与える可能性があり、早期介入が必要である。

治療法と介入方法

インターネット依存症の治療は、多角的なアプローチが求められる。以下に主要な治療法を示す。

心理療法

  1. 認知行動療法(CBT)

     インターネット使用に対する歪んだ認知を修正し、代替行動を構築するための代表的な療法である。特にトリガーの特定と回避、使用時間の管理、感情の自己調整スキルの習得が重要とされている。

  2. 動機づけ面接法(MI)

     患者の内的動機を引き出し、変化への自発的な行動を促す対話的アプローチである。特に治療に抵抗のある若年層に有効。

  3. 集団療法・家族療法

     家族との関係性の修復や、同じ問題を抱える人々との交流を通じて自己洞察を深め、行動変容を支援する。

薬物療法

現在、インターネット依存症そのものに対する特効薬は存在しないが、併存するうつ病や不安障害に対して抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがある。また、ドーパミンの過剰分泌に関連する衝動性への対処として、衝動制御に効果があるとされる薬剤の使用が研究されている。

デジタルデトックス

一定期間、意図的にインターネットから距離を取ることによって、自律神経や睡眠リズム、思考の明瞭さを回復させる。デジタルデトックスの一環として以下が推奨される。

  • スマホの通知をオフにする

  • SNSの使用時間に制限を設けるアプリを活用する

  • 夜間はスクリーンタイムをゼロにする「デジタルカットオフ」時間を設ける

  • リアルな人間関係や自然と触れ合う時間を意図的に増やす

教育的・社会的対策

政府や教育機関による啓発活動や、学校カリキュラムにおける情報リテラシー教育の充実も不可欠である。具体的には以下のような施策が挙げられる。

  • 小中学校での「インターネットとの正しい付き合い方」教育

  • 親を対象としたスマホ教育セミナーの実施

  • 地域レベルでのサポートグループの設立と運営

  • 労働環境におけるオンライン疲労への配慮(リモート勤務者に対する「目の休憩時間」の推奨など)

予防のための生活習慣とセルフケア

  • 規則正しい生活リズムの維持(就寝前のスクリーン使用制限)

  • 趣味や運動、読書など、インターネット以外の充実した余暇活動の確保

  • 日記やマインドフルネス瞑想による内省習慣の育成

  • 家族やパートナーと一緒に「ノースマホタイム」を設ける取り組み

おわりに

インターネット依存症は、現代の情報社会において避けて通れない新たな精神衛生の課題である。単なる個人の意志の問題と片付けることはできず、心理・社会・生物学的な多因子的背景を持つ複雑な現象である。そのため、専門的な支援と社会全体の意識改革が同時に求められている。日本においても、今後さらにこの問題への取り組みが重要性を増すであろう。


参考文献

  1. Young, K. S. (1998). Internet addiction: The emergence of a new clinical disorder. CyberPsychology & Behavior.

  2. Beard, K. W., & Wolf, E. M. (2001). Modification in the proposed diagnostic criteria for Internet addiction.

  3. 日本精神神経学会「インターネット依存の現状と対策」報告書(2023年版)

  4. 厚生労働省「インターネット依存対策に関するガイドライン」

  5. 杉浦義典「スマホ脳とインターネット依存」講談社、2021年

本記事の内容は、日本人読者の知的水準と社会的関心に応えることを目指し、科学的知見に基づいて記述されている。

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