ウィルソン病(Wilson病)は、銅の代謝異常により、体内に銅が過剰に蓄積する遺伝性の疾患です。正常な代謝では、銅は食物から吸収され、肝臓で処理されて必要な分が体内で利用されますが、ウィルソン病では肝臓で銅を適切に処理することができません。その結果、銅が肝臓、脳、腎臓、角膜などに蓄積し、さまざまな症状を引き起こします。
症状
ウィルソン病の症状は多岐にわたりますが、特に初期の段階では非特異的なものが多いため、診断が遅れることがあります。症状は通常、2つの主要なカテゴリーに分類できます:肝臓症状と神経・精神症状です。
肝臓症状
肝臓への銅の蓄積により、肝炎、肝硬変、さらには肝不全を引き起こすことがあります。肝臓の障害は、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、腹水(腹部に液体が溜まる)、肝腫大などの症状を引き起こします。急性の肝不全を呈することもあり、これは非常に危険な状態です。
神経・精神症状
神経系への影響はウィルソン病の特徴的な症状の一つです。患者は運動失調(身体の調整が難しくなる)、震え、筋肉のこわばり、動作の遅れを示すことがあります。また、精神症状も顕著で、うつ病、行動の異常、人格の変化などが現れることがあります。進行すると、認知症や精神病を引き起こすこともあります。
角膜のケルリング環
ウィルソン病の特徴的な所見の一つに、角膜に現れる「ケルリング環(銅環)」があります。これは、眼の虹彩の周辺に現れる銅の沈着物で、患者の眼科検査で発見されることがあります。この環はしばしば患者の眼で確認できますが、症状が進行している場合でも見られないこともあります。
診断
ウィルソン病の診断は、血液検査、尿検査、遺伝子検査、肝生検などを通じて行われます。
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血液検査:血液中の銅の量や、銅を運ぶタンパク質であるセラルポラスチン(ceruloplasmin)のレベルが低下していることが診断の手がかりになります。
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尿検査:尿中の銅排泄量が異常に高い場合、ウィルソン病を疑います。
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肝生検:肝臓の組織から銅の蓄積を確認するために、肝生検が行われることがあります。
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遺伝子検査:ウィルソン病は常染色体劣性遺伝形式で遺伝するため、遺伝子検査で特定の遺伝子変異を確認することができます。
また、角膜のケルリング環も診断に役立つ視覚的な手がかりとなります。
治療
ウィルソン病の治療は、銅の蓄積を防ぐことを目的としており、銅の排泄を促進する薬剤や銅の吸収を抑制する薬剤が使用されます。
1. 薬物療法
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キレート剤:ペニシラミンやトライメタジオンなどのキレート剤は、体内の銅を排出するために使用されます。これらの薬剤は、銅と結びついて体外に排出させる働きがあります。
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亜鉛:亜鉛は腸での銅の吸収を抑制する作用があり、ウィルソン病の管理において重要な役割を果たします。
2. 食事管理
銅の摂取を減らすことが有効です。特に、銅を多く含む食べ物(ナッツ、レバー、シーフードなど)は避けるべきです。食事の管理は、薬物療法と併用して行うことが推奨されます。
3. 肝移植
ウィルソン病によって肝不全が進行した場合、肝移植が必要になることがあります。肝移植により、新しい肝臓が正常に銅を処理できるようになるため、病気の進行を防ぐことができます。
予後と生活の質
ウィルソン病は早期に診断され、適切に治療が行われれば、患者は正常な生活を送ることが可能です。しかし、治療が遅れると神経障害が進行し、回復が難しくなることがあります。早期に発見し、治療を始めることが重要です。
また、治療を開始しても、定期的な検査や治療の継続が必要です。患者は定期的なフォローアップを受け、症状の進行を防ぐために薬剤の調整が行われることが一般的です。
結論
ウィルソン病は、銅の代謝異常によって引き起こされる遺伝性の疾患であり、肝臓、神経系、精神状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、早期に診断し、適切な治療を行うことで、病気の進行を防ぐことができます。治療には、薬物療法、食事管理、場合によっては肝移植が含まれます。ウィルソン病に関する知識の向上と早期発見が、患者の予後を改善する鍵となります。
