文化

エジプトのごみリサイクル現状

廃棄物リサイクルの現状と課題:エジプトにおける持続可能な資源管理の展望

エジプト・アラブ共和国は、その急速な都市化と人口増加に伴い、膨大な量の廃棄物を排出している。この現実は、環境、健康、経済、社会に多面的な影響を及ぼしており、廃棄物管理およびリサイクルは国家戦略の中でますます重要な課題として位置づけられている。この記事では、エジプトにおける廃棄物リサイクルの現状、制度、民間と公共部門の役割、課題、技術的発展、そして今後の展望について、科学的かつ包括的に分析する。


エジプトにおける廃棄物の現状

2020年代において、エジプトでは年間約2,500万〜3,000万トンの都市廃棄物が発生していると推定されている。このうち、家庭ごみ(有機性廃棄物を中心とする)が60%以上を占め、次いでプラスチック、金属、紙類、ガラス、建設廃材などが続く。以下に、主要な廃棄物種別の割合を示す表を掲載する。

廃棄物の種類 概算割合(%)
有機性廃棄物 55〜65
プラスチック 10〜15
紙・段ボール 8〜10
金属・非鉄金属 4〜6
ガラス 3〜5
建築・解体廃棄物 5〜7
危険廃棄物・医療廃棄物 1〜2

多くの都市では適切な分別収集が行われておらず、埋立地に直送されるか、非公式な方法で焼却・投棄されることが依然として一般的である。


廃棄物管理体制と制度的背景

エジプトでは、環境省(Ministry of Environment)および地方自治体が廃棄物管理の政策立案と実施を担っている。2019年には、新たに「統合廃棄物管理法」が施行され、リサイクルの推進、民間企業とのパートナーシップ強化、廃棄物収集の標準化などが規定された。この法律により、廃棄物の「発生→収集→運搬→処理→最終処分」のライフサイクル全体における規制とガイドラインが整備されつつある。


インフォーマルセクター(非公式部門)の役割

エジプトのリサイクル分野において特筆すべきは、インフォーマルセクター、特に「ズァッバーレーン」と呼ばれる廃棄物収集者コミュニティの存在である。彼らは主にカイロやギザにおいて、家庭からのごみを手作業で回収し、分類・再利用可能な資源を分別して販売している。ズァッバーレーンの活動は、全体の廃棄物の20〜30%のリサイクルに寄与しているとされ、その効果は国家機関の正式な収集システムを超える場合もある。

ただし、こうした活動は労働環境の安全性、公衆衛生、社会的ステータスの観点から多くの課題を孕んでおり、持続可能なモデルに移行するためには制度的統合が求められている。


公共および民間部門の取り組み

エジプト政府は、民間企業との協働によるリサイクル・プラント建設を推進している。たとえば、カイロ郊外の「廃棄物エネルギープラント」では、有機性廃棄物からバイオガスを生成し、電力として供給するプロジェクトが進行中である。また、プラスチックの回収・再生に特化したリサイクル企業も複数誕生している。

教育機関や市民団体も、リサイクル意識の向上、分別収集の啓発、リサイクル製品の販売促進に取り組んでおり、持続可能な経済循環の形成に寄与している。


技術革新と研究動向

エジプトの技術系大学や研究機関では、バイオマス発電、コンポスト技術、プラスチックの熱分解、廃ガラスの再利用に関する研究が進んでいる。以下のような技術が注目されている。

  • 嫌気性発酵技術:食品廃棄物からメタンガスを生成。

  • 廃プラスチック熱分解:低温での処理によって燃料油を生成。

  • スマート分別装置:AIによる画像認識を利用した自動選別システム。

研究と現場の連携が進めば、将来的に廃棄物からの資源回収率を大幅に向上させることが期待されている。


社会的・経済的課題

エジプトのリサイクル分野には、次のような社会経済的課題が存在する。

  1. 消費者の意識の欠如:分別への理解不足、リサイクル活動への関心の低さ。

  2. 制度の断片化:複数機関が関与するも明確な責任体系が確立していない。

  3. インフラの未整備:地方都市では収集・処理施設が欠如しており、焼却・投棄が主流。

  4. 投資不足:リサイクル施設への初期投資が大きく、民間企業の参入障壁が高い。

  5. 法執行の甘さ:ごみの不法投棄に対する罰則が形骸化しているケースがある。


成功事例と地域的取り組み

いくつかの地域では成功事例も報告されている。たとえば、カイロ郊外のマアディ地区では、住民と行政が協力して分別収集ステーションを運営し、月ごとの資源回収量を公開する透明性のあるモデルが導入されている。また、アレクサンドリアでは、女性主導の協同組合が廃紙を使って手工芸品を生産・販売するプロジェクトが立ち上げられており、ジェンダー平等の観点からも注目されている。


今後の展望と提言

持続可能な廃棄物リサイクルモデルを確立するためには、以下のような多面的なアプローチが必要である。

  • 法制度の強化:リサイクル率の法的義務化と罰則の適用。

  • 教育の充実:学校教育と市民啓発を通じたリサイクル文化の育成。

  • インフラ投資の促進:地方へのリサイクル施設の分散化。

  • 官民連携の推進:PPP(官民パートナーシップ)による資金調達と運営。

  • 技術移転と研究開発支援:大学・企業間の協業を制度的に支援。

また、国際機関との協力(例:UNEP、JICA、EU)を通じた技術支援や資金協力も、持続可能な資源管理を支える要素となる。


結論

エジプトにおける廃棄物リサイクルは、多くの課題を抱えつつも、制度改革・技術開発・市民参加を通じて新たな局面に入りつつある。経済成長と環境保全の両立を目指す上で、廃棄物リサイクルはもはや周縁的な問題ではなく、国家戦略の中心に据えるべき中核的課題である。21世紀の持続可能な社会を築くために、エジプトの挑戦は今後さらに重要性を増すだろう。


参考文献:

  • Egyptian Environmental Affairs Agency(EEAA)報告書 2023

  • Cairo University 廃棄物管理学部 研究論文集(2018–2024)

  • World Bank Report on Solid Waste Management in MENA(2022)

  • UN-Habitat Egypt: Solid Waste Management Strategy(2021)


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