エジプトの民俗芸術の種類
エジプトの民俗芸術は、数千年にわたる歴史と多様な文化の影響を受けながら発展してきた。ファラオ時代から現代に至るまで、エジプトは独自の芸術的表現を持ち続け、その伝統は現在もなお人々の生活に根付いている。本稿では、エジプトの代表的な民俗芸術の種類について詳細に解説する。
1. エジプトの伝統工芸
1.1 カイロの銅細工(ナハス工芸)
カイロの旧市街では、銅細工が伝統工芸として知られている。銅や真鍮を用いて、壺や皿、ランプ、装飾品などが作られ、美しいアラビア書道の刻印や幾何学模様が施される。

1.2 木製インレイ細工(アラバスク)
木製の家具や装飾品に貝殻や象牙、銀のインレイを施す技術。モスクや宮殿の装飾にも使われ、イスラム芸術の特徴を色濃く反映している。
1.3 絨毯・キリム織り
エジプトには多くの織物産業があり、カイロやシワ・オアシスでは手織りの絨毯やキリムが生産される。幾何学模様や自然をモチーフにしたデザインが多い。
1.4 フェッザーンの陶芸
ナイル川沿いの村では、素朴なデザインの陶器が作られる。水差しや食器、装飾品などが手作りされ、地元の市場で販売されている。
2. エジプトの伝統音楽と舞踊
2.1 サイーディ音楽(ナイル川上流地方の音楽)
エジプト南部(ルクソールやアスワン)で発展した伝統音楽で、リズミカルなダルブッカ(太鼓)やラバーバ(弦楽器)が特徴。男性の剣舞とともに演奏されることも多い。
2.2 バラディ音楽
都市部で広まった民俗音楽で、アコーディオンやナイ(笛)が使われる。ベリーダンス(ラクス・シャルキ)の伴奏としても有名。
2.3 ズィクル音楽
イスラム神秘主義(スーフィズム)に関連する宗教的な音楽。太鼓やシンバルを用いて、リズミカルに「アッラー」の名を唱えながら踊る。
2.4 タンヌーラ(旋回舞踊)
スーフィー教徒による伝統舞踊で、色鮮やかな衣装をまとった踊り手が回転し続けることで、精神的な高揚を得る。観光客向けのショーとしても人気がある。
3. エジプトの伝統的な視覚芸術
3.1 フレスコ画と壁画
エジプトの古代遺跡には、多くの壁画が残されており、ファラオ時代の信仰や日常生活が描かれている。現代でも村の壁に民族的なモチーフを描く風習がある。
3.2 ガラスモザイク
エジプトのモスクや宮殿では、美しいガラスモザイクが使われる。特に、カイロのモスクには、青や緑を基調とした装飾が施されている。
3.3 書道(アラビア書道)
アラビア書道は、エジプトの宗教芸術に深く根付いており、コーランの美しい書写や建築物の装飾に用いられる。
4. エジプトの口承文化と民話
4.1 エジプトの民話と伝説
エジプトには、何世代にもわたって語り継がれてきた民話や伝説がある。例えば、「アブ・ズィード・アル・ヒラリー」の物語は、英雄が冒険する叙事詩として有名。
4.2 カイロの物語詩人(ハキワティ)
かつてカフェや市場では、語り部が物語を語る「ハキワティ」の伝統があった。現在も、一部の伝統的なカフェでその文化が残っている。
4.3 ナイル川と神話
ナイル川にまつわる伝説も多く、ナイルの恵みを祈る儀式などが民間信仰として残っている。
5. エジプトの伝統的な祝祭と芸能
5.1 モーリッド(聖人祭)
イスラムの聖人の命日を祝う祭りで、街中で音楽や踊りが行われ、スーフィーダンスや詩の朗読が披露される。
5.2 シャンム・ナスィーム(春の祭り)
古代エジプトから続く春の祝祭で、特別な食べ物(塩漬け魚や玉ねぎ)を食べ、家族でピクニックを楽しむ習慣がある。
5.3 ラマダンのフェスティバル
ラマダン月には、通りがランプや装飾で彩られ、伝統音楽や影絵芝居(カラグーズ)が披露される。
6. エジプトの影絵芝居と人形劇
6.1 カラグーズ(影絵芝居)
オスマン帝国時代に広まった影絵芝居で、皮で作られた人形を使って物語が演じられる。社会風刺やユーモアを交えた演目が多い。
6.2 アラゴーズ(人形劇)
エジプト独自の人形劇で、伝統的なパペット(操り人形)を使い、庶民の生活を描いた喜劇が上演される。
結論
エジプトの民俗芸術は、古代から現代に至るまで、生活のあらゆる場面で表現され続けてきた。伝統工芸、音楽、舞踊、視覚芸術、口承文化、祝祭、影絵芝居といった多様なジャンルがあり、それぞれがエジプトの歴史と文化の奥深さを反映している。現在でも、これらの芸術は観光産業と結びつき、国内外の人々に愛され続けている。