キルショフの法則は、電気回路における重要な基本法則であり、電流と電圧の関係を理解するために欠かせないものです。この法則は、二つの主要な法則、すなわちキルショフの電流法則(KCL)とキルショフの電圧法則(KVL)から成り立っています。これらの法則は、複雑な回路においても電流や電圧を求めるための基本的なツールとして広く使用されています。
1. キルショフの電流法則(KCL)
キルショフの電流法則(Kirchhoff’s Current Law, KCL)は、任意の回路内の任意の節点(接続点)における電流の総和がゼロであることを示しています。言い換えれば、ある節点に流れ込む電流の合計は、その節点から流れ出す電流の合計と等しくなければならないというものです。

この法則の背景には、電荷が保存されるという物理法則があります。回路内で電流が分岐しても、電荷の保存が成り立つため、電流はどのように分けられたとしても、全体で流れ込む電流と流れ出る電流は同じでなければなりません。
KCLの数学的表現:
節点 A における電流の総和は次のように表せます。
∑I流入=∑I流出
ここで、流入する電流の総和は流出する電流の総和に等しいことが分かります。
2. キルショフの電圧法則(KVL)
キルショフの電圧法則(Kirchhoff’s Voltage Law, KVL)は、任意の閉じた回路において、その回路を構成するすべての要素における電圧の総和がゼロであるという法則です。これもまたエネルギー保存の法則に基づいています。電圧の合計は、回路内で供給されるエネルギーと消費されるエネルギーが釣り合うことを意味します。
この法則の重要な点は、回路内の任意のループを通る電圧の合計がゼロになることです。もし電源が回路にエネルギーを供給しているなら、そのエネルギーは負荷(抵抗など)によって消費され、結果として、回路全体でエネルギーのバランスが取れることになります。
KVLの数学的表現:
閉じたループ L における電圧の総和は次のように表されます。
∑V供給−∑V消費=0
ここで、供給された電圧と消費された電圧の合計がゼロになることが示されています。
3. キルショフの法則の応用
キルショフの法則は、非常に複雑な回路においても電流や電圧を求めるための強力なツールです。例えば、直列回路や並列回路だけでなく、複数の電源や抵抗が組み合わさった回路にも適用できます。特に、回路内で分岐点がある場合や、異なる電源が接続されている場合などに有用です。
例:直列回路の解析
直列回路では、電流は回路内を一方向に流れます。この場合、キルショフの電圧法則(KVL)を使って、回路内の各抵抗で消費される電圧を求めることができます。例えば、抵抗 R1 と R2 が直列に接続された回路では、電源から供給される電圧がそれぞれの抵抗に分配されます。このとき、KVLに従って次のような関係が成り立ちます:
V供給=VR1+VR2
例:並列回路の解析
並列回路では、電圧は回路内のすべての枝で同じですが、電流は分岐します。キルショフの電流法則(KCL)を使って、各枝に流れる電流を求めることができます。例えば、並列接続された抵抗 R1 と R2 において、流れ込む電流がそれぞれの抵抗に分けられます。このとき、KCLを使うと次のような関係が成り立ちます:
I供給=IR1+IR2
4. キルショフの法則を用いた回路解析の手順
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回路を確認する
回路に含まれるすべての抵抗、電源、および接続点を確認し、各要素に適切なラベルを付けます。 -
方程式を立てる
キルショフの電流法則(KCL)とキルショフの電圧法則(KVL)を用いて、回路内の各節点やループに関する方程式を立てます。 -
連立方程式を解く
立てた方程式を連立させて、回路内の電流や電圧を求めます。 -
結果を確認する
計算結果が物理的に適切かどうかを確認し、もし不整合があれば計算を再確認します。
5. キルショフの法則の限界
キルショフの法則は理論的には非常に強力ですが、現実の回路では注意が必要な点もあります。例えば、非常に高い周波数の信号が流れる回路では、伝送線路効果やインダクタンス、キャパシタンスの影響が無視できなくなり、キルショフの法則が厳密には適用できない場合があります。これらの効果を考慮するためには、より高度な解析が必要となります。
結論
キルショフの法則は、電気回路の解析において基本的かつ重要な法則であり、電流と電圧の関係を明確にするための強力なツールです。これを理解し活用することで、複雑な回路においても適切な電流や電圧を計算することができ、電気工学のさまざまな分野で役立つ知識となります。