サラエヴォの危機（サラエヴォ危機）は、1990年代初頭に発生したボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の一部として、特に1992年から1995年の間にサラエヴォで展開された深刻な紛争と人道的危機を指します。この危機は、ボスニア・ヘルツェゴビナの独立を巡る政治的対立、民族間の緊張、そしてユーゴスラビアの崩壊という背景の中で発生しました。
背景と原因
サラエヴォ危機は、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国（以下、ユーゴスラビア）の解体過程で発生しました。ユーゴスラビアは、異なる民族グループが共存する多民族国家でしたが、1980年代末から90年代初頭にかけて、経済的な困難と民族的な対立が表面化しました。特にセルビア人、クロアチア人、ボスニア人（ムスリム）の間での緊張が高まり、最終的にボスニア・ヘルツェゴビナが独立を宣言すると、国内で内戦が勃発しました。
サラエヴォは、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都であり、政治的にも文化的にも重要な都市であったため、危機の中心となりました。ボスニア・ヘルツェゴビナの独立を支持するボスニア人と、セルビア人による分離を支持するセルビア人との間で対立が激化し、サラエヴォはその激しい戦闘の舞台となったのです。
サラエヴォ包囲戦
サラエヴォ危機の中で最も深刻な出来事の一つが、サラエヴォ包囲戦です。この包囲戦は、1992年4月5日に始まり、1996年2月29日まで続きました。ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の中で、セルビア人勢力がサラエヴォを包囲し、都市を何ヶ月にもわたって砲撃しました。包囲されたサラエヴォでは、食料や医薬品の不足、水や電気の供給が途絶え、何万人もの市民が困窮しました。
包囲中、サラエヴォ市民は厳しい生活条件に耐え、日常的に空爆や狙撃を受ける危険にさらされました。サラエヴォの市街地はほぼ完全に破壊され、都市のインフラも壊滅的なダメージを受けました。国際社会は、この都市での人道的危機を注視し、多くの援助団体が支援に乗り出しましたが、戦闘の激化と状況の悪化により、援助が十分に届かないこともありました。
戦争犯罪と人道的影響
サラエヴォ包囲戦では、戦争犯罪が数多く発生しました。セルビア人勢力は、市民に対する無差別な砲撃や狙撃を行い、数千人の民間人が犠牲になりました。また、戦争中には、民族浄化が行われ、多くのボスニア人が虐殺され、避難を余儀なくされました。特に、サラエヴォ包囲戦中には、女性や子供がターゲットになることも多く、暴力が深刻な人道的問題となりました。
国際社会は、これらの戦争犯罪を非難し、国際刑事裁判所（ICTY）による起訴が行われました。しかし、サラエヴォの市民にとっては、戦争の終結まで苦しみが続きました。
終息とその後
サラエヴォ包囲戦は、1995年のデイトン合意によって終息を迎えました。デイトン合意は、ボスニア・ヘルツェゴビナの独立を承認し、民族間の分割を試みた和平協定であり、この合意により、サラエヴォは再び平和を取り戻しました。
戦後、サラエヴォは復興を始め、インフラの再建や政治的な安定化が進められましたが、民族間の対立は依然として根強く残り、都市の住民の間には深い傷跡が残りました。サラエヴォ危機は、ボスニア・ヘルツェゴビナの歴史において重大な転機となり、その影響は現在に至るまで続いています。
結論
サラエヴォ危機は、ユーゴスラビアの崩壊とボスニア・ヘルツェゴビナ独立を巡る激しい民族間の対立の中で発生した深刻な人道的危機でした。サラエヴォ包囲戦は、都市を長期間にわたって絶望的な状況に追い込み、多くの命が失われました。その後の和平合意と復興の努力にもかかわらず、サラエヴォとボスニア・ヘルツェゴビナ全体には、戦争の痕跡が色濃く残っており、その歴史的な影響は今なお多くの人々の心に刻まれています。