食品製品

シアバターの原料と効能

シアバター(英語ではShea Butter)は、西アフリカを中心に生育する「シアの木(Vitellaria paradoxa)」の種子から抽出される植物性脂肪であり、スキンケア、ヘアケア、薬用、食品、さらには工業的利用にまで至るまで、非常に広範囲に使用されている天然素材である。その栄養的、機能的価値の高さから「アフリカの黄金」とも称されており、今日では世界中の化粧品や自然派製品の中心的な原料となっている。

本稿では、シアバターの原料、製造方法、成分構成、種類、用途、栄養・薬理効果、安全性、経済的重要性、エシカル調達の観点などについて、科学的かつ網羅的に解説する。


原料:シアバターは何から作られているのか?

シアバターは「シアの木」として知られる落葉高木の種子から作られる。この木はサハラ以南のアフリカ、特にマリ、ブルキナファソ、ガーナ、ナイジェリアなどの地域に自生しており、成熟するまでに15〜20年かかり、寿命は200年を超えることもある。

木になる果実の中に含まれているのが「シアナッツ(Shea Nuts)」と呼ばれる種子であり、これがシアバターの原料となる。1本の木からは年間に約15〜30kgの果実が収穫可能で、その中から約4〜6kgのシアバターが抽出できる。


製造方法:伝統的手法から現代技術まで

シアバターの製造工程は主に以下のステップに分けられる:

1. 収穫と洗浄

熟した果実を収穫し、果肉を取り除いた後、種子を天日干しして保存。

2. 乾燥と破砕

十分に乾燥させたシアナッツをハンマーや機械で砕いて、内部の仁(仁核)を取り出す。

3. 焙煎

仁核をローストすることで脂肪の抽出効率を高め、風味と香りを引き出す。

4. 粉砕と練り

ローストされた仁をすり潰し、ペースト状にし、少量の水とともに練る。

5. 油脂の分離

加熱または水を加えて撹拌することで、油分が浮き上がる。この脂肪分を取り出して冷却・凝固させることで、シアバターが得られる。

6. 濾過と精製(場合による)

市場に流通する際には、異物や不純物を除去するための濾過や脱臭、脱色などの精製工程が施されることもある。


成分構成と栄養特性

シアバターは主に以下の脂肪酸で構成されている:

脂肪酸名 含有割合(%)の目安 特性
ステアリン酸 約20〜50% 固形性、保湿力に優れる
オレイン酸 約30〜60% 柔軟性を高める、酸化安定性
パルミチン酸 約3〜10% 肌なじみが良い
リノール酸 約3〜11% 必須脂肪酸、抗炎症作用
アラキジン酸 〜1% 硬化剤的性質

また、シアバターには脂溶性ビタミンが豊富に含まれており、特に以下の栄養素が注目される:

  • ビタミンA(レチノール):皮膚のターンオーバーを促進

  • ビタミンE(トコフェロール):抗酸化作用、老化防止

  • カロテノイド類:抗炎症、紫外線防御効果

  • フィトステロール:鎮静、抗炎症作用


シアバターの種類

市場に出回っているシアバターには以下のような分類がある:

未精製シアバター(Raw Shea Butter)

伝統的手法で製造され、香りと色が濃く、栄養成分が豊富に残る。色は黄褐色からアイボリーに近い。

精製シアバター(Refined Shea Butter)

工業的に精製されたもので、色や香りがほとんどなく、安定性が高いが、ビタミンや有効成分が減少していることが多い。

グレード分け(A〜E)

アメリカ薬局方(USP)などでは品質に応じてグレード分類されており、「Grade A」が最も高品質とされている。


主な用途と応用

スキンケア

  • 保湿クリームやボディバター

  • 日焼け後のケアや乾燥肌対策

  • アトピー性皮膚炎、湿疹、かゆみの緩和

ヘアケア

  • 頭皮の乾燥を防ぎ、毛髪を柔らかくする

  • ドライヘアの補修、縮毛対策

医療分野

  • 傷や火傷の回復促進

  • 炎症や筋肉痛の緩和

  • 伝統医学では鎮痛・抗菌目的で使用

食品

西アフリカでは食用油やチョコレートの代替脂肪(カカオバターの代替)としても利用。

工業・技術応用

  • キャンドル、石鹸、軟膏、潤滑剤などの原料


医学的・皮膚科学的効果

近年の研究では、シアバターが以下のような生物活性を持つことが明らかになっている:

  • 抗炎症作用:シアバターに含まれるルペオールやカンペステロールが、皮膚の炎症反応を抑制

  • 抗酸化作用:トコフェロールにより、活性酸素を除去し、老化の進行を抑制

  • 創傷治癒促進:組織の再生を早め、傷の回復を促す

  • 抗菌作用:一部の細菌や真菌に対して成長を抑制する報告もある


シアバターの安全性とアレルギーリスク

シアバターは一般にアレルギー性が低く、非常に肌にやさしいとされている。ただし、以下のような注意点もある:

  • ナッツアレルギーとの関連:理論上、ナッツ由来の製品であるが、タンパク質含有量が極めて低いため、通常は問題にならない。

  • 酸化の可能性:高温・多湿では酸化しやすく、劣化した製品は刺激の原因となるため、冷暗所保存が望ましい。


経済的重要性とエシカル調達

シアバターは多くのアフリカ諸国において、女性の経済的自立を支える産業である。伝統的に女性が主体となってシアナッツの収穫・加工を行うことが多く、「フェアトレード」や「女性支援プロジェクト」と結びついていることも少なくない。

フェアトレードの観点からの意義:

  • 労働搾取の回避

  • 適正な賃金の支払い

  • 持続可能な森林保全

  • 地域コミュニティへの再投資


おわりに

シアバターは、単なるスキンケア製品の一素材にとどまらず、植物科学、栄養学、医学、環境保護、経済支援など多方面において極めて重要な役割を果たしている天然資源である。その製造には伝統的知識と科学的アプローチが融合しており、自然からの恩恵と人間の知恵の結晶といえる。今後は、より持続可能かつ倫理的な方法での利用と、生産地の生活向上への支援が求められている。


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