世界中

スウェーデンの断食時間

スウェーデンにおける断食時間(ラマダン中のサウム)は、世界でも特に長時間になることで知られており、その長さは季節、地域、緯度によって大きく異なる。特にスウェーデンの北部に位置する地域では、夏至の前後には日照時間が極端に長くなり、夜がほとんど訪れない日もあるため、イスラム教徒にとって断食時間は非常に過酷なものとなる。本稿では、スウェーデンにおける断食時間の長さ、地域差、宗教的対応、地理的・天文学的背景、イスラム法(シャリーア)による配慮、スウェーデン政府の姿勢、そして地元コミュニティの対応までを包括的に論じる。


スウェーデンの地理的条件と断食時間への影響

スウェーデンはヨーロッパの北端に位置し、北緯55度から北緯69度の範囲に広がる。これはすなわち、同国の最北部は北極圏に入り、白夜や極夜という極端な天文現象が発生する地域を含むということである。夏季には太陽がほとんど沈まない「白夜」が、冬季には太陽がほとんど昇らない「極夜」が起こる。

このような天文学的な状況は、ラマダン月が春から夏にかけて巡ってくる際に、断食の開始(ファジュル=夜明け)と終了(マグリブ=日没)の時刻を非常に離れたものにしてしまう。例えば、ストックホルム(スウェーデンの首都)では、夏至に近い日には断食時間が20時間以上になる。さらに北にあるキルナ(Kiruna)などでは、太陽が沈まない日もあるため、日没が存在しないという状況さえ生じる。


ラマダン中の具体的な断食時間の例

以下の表は、スウェーデンのいくつかの主要都市におけるラマダン中の断食時間の目安を示したものである(年によってラマダンの開始日は変動するが、2025年4月頃の想定に基づく)。

都市名 日の出(断食開始) 日没(断食終了) 断食時間
ストックホルム 03:40頃 20:20頃 約16時間40分
ヨーテボリ 04:00頃 20:30頃 約16時間30分
マルメ 04:10頃 20:35頃 約16時間25分
ウメオ 03:10頃 20:50頃 約17時間40分
キルナ 太陽が沈まない 太陽が沈まない 計測不可能(代替措置が必要)

地域差とイスラム法による対応

上述のように、北極圏近くでは日没も夜明けも存在しないため、断食の正確な時間設定が不可能となる。このような極端な地域に住むムスリムのために、イスラム学者たちはいくつかの代替手段を提案している。

  1. 最も近い通常地域の時間に従う:たとえば、日没のある最寄りの都市(例えばストックホルム)に従う。

  2. メッカやマディーナの時間に従う:聖地の時間に基づいて断食するという意見も存在する。

  3. 特定の固定時間(例えば18時間以内)に制限する:身体的な安全と健康の観点から、最大断食時間を制限する考え方もある。

このような措置は、イスラム法の柔軟性と「困難に対して宗法が軽減される(الضرورات تبيح المحظورات)」という原則に基づいている。


ムスリムコミュニティの対応と支援体制

スウェーデンには約80万人のムスリムが存在し、そのうちの多くはアラブ系、トルコ系、ボスニア系、ソマリア系など多様な民族から構成されている。各地域のモスクやイスラム文化センターでは、断食時間のガイドラインやタイムテーブルが配布され、地域の事情に応じた時間設定が提供される。

また、ラマダン月にはイフタール(断食明けの食事)の共同開催、夜の礼拝(タラウィーフ)、寄付活動、貧困者への食料提供など、多くの宗教的・社会的活動が行われており、断食を通して信仰と連帯を強める機会にもなっている。


スウェーデン政府と社会の姿勢

スウェーデン政府や地方自治体は、宗教的自由を保障する立場から、イスラム教徒の断食を妨げるような法的制限を設けていない。企業や学校でも、柔軟な対応が行われることがあり、たとえば試験時間や勤務スケジュールの調整などが認められる場合がある。

とはいえ、全ての職場で理解が得られるわけではなく、一部では断食中のパフォーマンス低下に対する偏見や誤解が存在する。これに対して、イスラム団体や人権団体が啓発活動を行い、文化的理解の促進を図っている。


健康面と医療的配慮

極端な長時間の断食は、特に高齢者、糖尿病患者、妊娠中の女性、授乳中の母親、持病を持つ人々にとって危険を伴うことがある。イスラム法では、これらの人々には断食の免除または代替(後日断食または慈善的支出)が認められている。

スウェーデンの医療機関では、ラマダン期間中の健康指導や栄養指導を行う施設も増えており、信仰と健康の両立ができるよう支援が進んでいる。


学術的・宗教的研究と未来の議論

近年、スウェーデンを含む北欧諸国における断食時間の過酷さをめぐって、世界各地のウラマー(イスラム学者)たちの間で議論が進んでいる。特に、「科学的根拠に基づいた断食時間の短縮案」や「地球の緯度に応じた時間配分モデル」などが提案されている。

将来的には、国際的なイスラム法学会などで共通のガイドラインが策定され、極端な地域における断食実施方法が統一される可能性もある。


結論

スウェーデンにおける断食時間は、その地理的・天文学的条件により、非常に長時間または不可能な状況に陥る場合がある。これに対して、イスラム法は柔軟な対応を認め、地域社会は実践的な工夫と支援で信仰生活を支えている。今後も科学と信仰の対話を通じて、より人道的で実践的な方法が模索されるだろう。


参考文献

  1. European Council for Fatwa and Research(ECFR). Fatwas on fasting in high-latitude regions.

  2. Sveriges Muslimska Råd(スウェーデン・イスラム評議会). 「ラマダン時間表2025」.

  3. Sveriges Radio. “Ramadan fasting challenges in the Arctic Circle.”

  4. World Health Organization. Fasting and health in the 21st century.

  5. The Islamic Foundation of Sweden. Guidance for Muslims in Scandinavia.

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