大腸がんの中でも「ステージⅣ(第4期)」に分類される状態は、がんが大腸の壁を越えて周囲の臓器やリンパ節、または遠隔の臓器(主に肝臓や肺)に転移している段階を指します。これは大腸がんの中で最も進行した状態であり、治療や予後、生活の質に大きな影響を及ぼす重要な段階です。この記事では、ステージⅣの大腸がんについて、医学的視点からその特徴、診断方法、治療戦略、予後、生活支援までを網羅的に解説し、日本の読者にとって信頼性が高く有用な情報を提供します。
ステージⅣの大腸がんとは
ステージⅣの大腸がんは、TNM分類で「M1(遠隔転移あり)」に該当するものです。がん細胞は原発巣(大腸)を超えて、肝臓、肺、腹膜、骨などに広がっている可能性があります。がんの進行によっては、複数の臓器に同時に転移していることもあります。

この段階では、がんは手術による完全切除が難しい場合が多く、根治よりも延命や症状緩和を目的とした治療戦略が重要になります。ただし、転移の部位や数、全身状態によっては積極的な手術が可能な例も存在し、治療方針の選択は極めて個別的です。
主な症状
ステージⅣの大腸がんにおける症状は、がんの局所的な広がりと遠隔転移によって多様化します。以下は一般的にみられる主な症状です:
症状カテゴリ | 主な症状例 |
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消化器系症状 | 腹痛、便秘または下痢、血便、腹部膨満 |
全身症状 | 倦怠感、体重減少、食欲不振 |
肝転移による症状 | 右上腹部痛、黄疸、肝腫大 |
肺転移による症状 | 咳、息切れ、胸痛 |
腹膜転移 | 腹水、強い腹痛、腸閉塞症状 |
これらの症状が進行すると、生活の質(QOL)の著しい低下を招くため、早期からの緩和ケアが非常に重要です。
診断方法
ステージⅣの大腸がんの診断には、以下のような複数の診断技術が活用されます。
1. 画像診断
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CT(コンピュータ断層撮影):胸部・腹部・骨盤を撮影し、遠隔転移の有無や範囲を把握。
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MRI:肝転移の詳細評価に有効。
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PET-CT:全身の転移病変の検索に用いられることがある。
2. 内視鏡検査
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大腸内視鏡検査:原発巣の位置と大きさ、病理検体の採取(生検)に用いられる。
3. 病理診断
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生検によって得られた組織を用いて、がんの種類、遺伝子変異(RAS、BRAFなど)、MSI(マイクロサテライト不安定性)の有無を調べる。
4. 腫瘍マーカー
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CEA(がん胎児性抗原)、CA19-9などが参考値として使われる。
治療戦略
ステージⅣの大腸がんでは、患者の年齢、全身状態、転移の部位と数、遺伝子変異の有無などを総合的に評価した上で、治療方針が決定されます。以下は代表的な治療方法です。
化学療法(抗がん剤治療)
化学療法は、ステージⅣ大腸がんにおける基本治療となります。以下のようなレジメンが使用されます:
レジメン名 | 主成分 | 特徴 |
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FOLFOX | フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン | 初回治療として広く使用される |
FOLFIRI | フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン | FOLFOXと並ぶ標準的治療 |
CAPOX(XELOX) | カペシタビン+オキサリプラチン | 経口薬を含むため通院治療が可能 |
また、分子標的薬(アバスチン、アービタックス、ベクティビックスなど)を併用することで、治療効果を高めることができます。
手術療法(選択的)
肝転移や肺転移が限局的で、切除可能な場合には、転移巣および原発巣の切除手術が選択されることがあります。このような症例では、**治癒切除(R0切除)**が可能となり、長期生存や再発の遅延が期待されます。
放射線治療
直腸がんの場合や、局所的な痛み・出血の緩和目的で放射線治療が行われることもあります。特に骨転移や脳転移への対症療法として活用されるケースも増えています。
緩和ケア
治癒が見込めない場合でも、痛みの緩和、腸閉塞の解除、腹水の処置、精神的支援などを含む緩和ケアが重要です。患者のQOLを最優先にした医療が求められます。
遺伝子診断と個別化医療
近年、大腸がんの治療は遺伝子診断をもとにした「個別化医療」が中心となっています。以下のマーカーは、治療方針の決定に極めて重要です。
遺伝子変異 | 治療への影響 |
---|---|
RAS変異 | 抗EGFR抗体薬(アービタックスなど)が無効 |
BRAF変異 | 予後不良とされ、特異的な併用療法が必要 |
MSI-High | 免疫チェックポイント阻害薬が有効 |
これらの情報に基づいて、より効果的かつ副作用の少ない治療を目指します。
予後と生存率
ステージⅣ大腸がんの5年生存率は、統計的には約15~20%程度とされています(国立がん研究センター、2019年データ)。ただし、肝転移が1か所のみで切除可能な場合などは、5年生存率が40%を超える症例もあります。
個別の予後は、次のような因子に影響されます:
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年齢と全身状態(PS)
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転移の数と部位(肝・肺・腹膜など)
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遺伝子変異の有無
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初回治療の反応性
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緩和ケアの充実度
社会的・心理的サポート
ステージⅣのがん患者にとって、医療的支援に加えて、心理的・社会的支援も欠かせません。日本では次のような制度が活用可能です。
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高額療養費制度:治療費の自己負担を軽減。
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障害者手帳の交付:通院費用や生活費支援。
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がん相談支援センター:各がん拠点病院に設置。
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緩和ケア病棟・在宅緩和医療:終末期ケアの提供。
精神的なケアとしては、がん専門の心理士(サイコオンコロジスト)との面談、患者会の参加、宗教的支援などが効果を発揮することがあります。
今後の展望
大腸がんのステージⅣに対しても、近年では免疫療法の進歩、AIによる治療効果予測、微小環境に着目した新薬の開発など、治療の可能性が急速に広がっています。特に、MSI-High症例に対する免疫チェックポイント阻害剤は、従来の抗がん剤とは異なる作用機序で長期寛解を実現しており、今後の標準治療の一つとして注目されています。
参考文献
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国立がん研究センター「がん情報サービス」https://ganjoho.jp/
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日本臨床腫瘍学会編『大腸がん診療ガイドライン 2023年版』
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NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology – Colon Cancer, Version 4.2023
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GLOBOCAN 2020: Colorectal Cancer Fact Sheet, IARC
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Van Cutsem E, Cervantes A, Adam R, et al. ESMO consensus guidelines for the management of patients with metastatic colorectal cancer.
本記事は、日本の医療制度に基づいた最新の知見を反映し、患者本人とその家族、また医療従事者にとっても有益な内容となるよう構成しました。科学的な根拠と実用的な視点の両方を備えた本記事が、がんと共に生きる人々の助けとなることを心から願います。