各国の経済と政治

トルコ歴代大統領一覧

トルコ共和国の歴代大統領:完全かつ包括的な記録

1923年に建国されたトルコ共和国は、それ以前のオスマン帝国とは異なり、近代的な世俗国家としての道を歩み始めた。この共和国の象徴的な存在であり、国家の最高権威を担うのが大統領(Cumhurbaşkanı)である。本記事では、初代大統領から現職大統領まで、全てのトルコ大統領について、在任期間、政治的背景、業績や批判、歴史的意義を時系列に沿って徹底的に記録する。


1. ムスタファ・ケマル・アタテュルク(Mustafa Kemal Atatürk)

在任期間:1923年10月29日 〜 1938年11月10日

政党:共和人民党(CHP)

概要:トルコ共和国の建国者。オスマン帝国の崩壊後、アンカラに臨時政府を樹立し、トルコ独立戦争を勝利に導いた。共和制の導入、カリフ制の廃止、アルファベット改革、世俗主義の徹底など、近代化を推進した。彼の政策は「ケマリズム」と呼ばれ、今なおトルコ政治の基盤に影響を与えている。


2. イスメト・イノニュ(İsmet İnönü)

在任期間:1938年11月11日 〜 1950年5月22日

政党:共和人民党(CHP)

概要:アタテュルク亡き後、第二代大統領に就任。第二次世界大戦中は中立政策を貫き、戦争回避に努めた。戦後、複数政党制への移行を容認し、1950年の選挙で与党の座を失う。


3. メンデレス時代の変革を導いた:メフメト・ジェラール・バヤール(Celal Bayar)

在任期間:1950年5月22日 〜 1960年5月27日

政党:民主党(DP)

概要:多党制選挙で民主党が勝利したことで大統領に就任。経済自由化と親米政策を推進。しかし、野党への抑圧や権威主義的傾向が強まり、1960年に軍事クーデターが発生し失脚。軍法会議にかけられ終身刑となるが後に恩赦された。


4. 軍政下の大統領:ジェマル・ギュルセル(Cemal Gürsel)

在任期間:1961年10月27日 〜 1966年3月28日

政治背景:軍人(無所属)

概要:1960年クーデター後、国家元首として就任。新憲法の制定と文民政権への移行を指導。病気により任期途中で辞任。


5. 革命の中で国家の安定を模索:ジャーヒト・スナイ(Cevdet Sunay)

在任期間:1966年3月28日 〜 1973年3月28日

政治背景:軍人(無所属)

概要:ギュルセルの後任として軍部出身ながら文民移行を重視。政治的不安が続く中、軍の影響力を保持しつつも民主制度を維持。


6. 石油危機と冷戦下の混乱:ファフリ・コルテュルク(Fahri Korutürk)

在任期間:1973年4月6日 〜 1980年4月6日

政治背景:軍人・外交官(無所属)

概要:経済危機とテロの頻発する時期に在任。軍と議会のバランスを取ろうとしながらも、安定した統治は困難だった。


7. 軍政による権力掌握:ケナン・エヴレン(Kenan Evren)

在任期間:1982年11月7日 〜 1989年11月9日

政治背景:軍人(無所属)

概要:1980年の軍事クーデターを主導。1982年憲法に基づき自らを大統領とし、国家体制の再編を進める。反体制派の弾圧や拷問、言論弾圧で国内外から批判を受けた。


8. 民主政治への復帰:トゥルグト・オザル(Turgut Özal)

在任期間:1989年11月9日 〜 1993年4月17日

政党:公正発展党の前身である「祖国党」(ANAP)

概要:首相として市場経済を導入し、成長を牽引。大統領就任後も経済自由化を推進。中央アジアとの関係強化やイスラム圏との連携を模索。任期中に急逝。


9. 文民政治の回帰:スレイマン・デミレル(Süleyman Demirel)

在任期間:1993年5月16日 〜 2000年5月16日

政党:正道党(DYP)

概要:トルコ政界の大物として首相経験多数。大統領としても政治的バランスを意識し、クルド問題への対応にも一定の貢献をした。


10. 危機の中の穏健主義者:アフメト・ネジデト・セゼル(Ahmet Necdet Sezer)

在任期間:2000年5月16日 〜 2007年8月28日

政治背景:司法出身(無所属)

概要:憲法裁判所長官出身の法治主義者。世俗主義を守る立場から与党との対立も多く、特にイスラム色の強い政治家との摩擦が絶えなかった。


11. イスラム系政治の国家元首:アブドゥラ・ギュル(Abdullah Gül)

在任期間:2007年8月28日 〜 2014年8月28日

政党:公正発展党(AKP)

概要:エルドアン首相の下で外相・副首相を務め、大統領に選出。イスラム系政党出身者として初の大統領であり、トルコ社会に新たな宗教的議論を引き起こす。欧州連合との交渉促進にも尽力。


12. 権限集中と新体制の創出:レジェップ・タイイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdoğan)

在任期間:2014年8月28日 〜 現在(2025年現在)

政党:公正発展党(AKP)

概要:首相を長く務めた後、大統領に就任。2017年の国民投票により議院内閣制を廃止し、大統領制に移行。強権的な手法と長期政権が国内外で賛否を呼ぶ。軍クーデター未遂(2016年)後の非常事態宣言や、報道・言論の抑圧なども問題視されるが、一方で経済や外交では積極的な動きを見せている。


大統領制移行とその影響

2017年の国民投票で憲法が改正され、議院内閣制から大統領制へと完全移行。これにより大統領の行政権限が飛躍的に拡大し、首相職が廃止された。この体制変更はエルドアン政権下で行われ、批判の声も多いが、一方で迅速な意思決定が可能になるとして一定の支持も得ている。

大統領名 在任期間 出身政党 主な特徴
アタテュルク 1923〜1938 CHP トルコ共和国建国者、近代化推進
イノニュ 1938〜1950 CHP 中立外交、民主化の端緒
バヤール 1950〜1960 DP 経済自由化、クーデターで失脚
ギュルセル 1961〜1966 無所属 軍政後の体制整備
スナイ 1966〜1973 無所属 政治混乱下の調整役
コルテュルク 1973〜1980 無所属 冷戦下の内政安定化
エヴレン 1982〜1989 無所属 軍政権、大統領制強化
オザル 1989〜1993 ANAP 経済自由化、外向外交
デミレル 1993〜2000 DYP 老練な政治家、調整型
セゼル 2000〜2007 無所属 法治主義、世俗主義の擁護
ギュル 2007〜2014 AKP イスラム系初の大統領
エルドアン 2014〜現在 AKP 大統領制導入、強権型リーダー

結論:トルコ大統領職の変遷と将来展望

トルコの大統領職は、アタテュルクの時代には象徴的な役割を担っていたが、徐々に実権を持つ行政の頂点へと変化してきた。特にエルドアン政権下での制度改正は、国家運営の在り方そのものを変える大転換だった。今後、権力の集中が民主主義にどう影響するのか、またトルコがEU加盟やNATO内での役割をどう調整していくのかが注目される。

参考文献:

  • Zürcher, E. J. (2004). Turkey: A Modern History. I.B.Tauris.

  • Ahmad, Feroz. (1993). The Making of Modern Turkey. Routledge.

  • トルコ大統領府公式サイト:tccb.gov.tr(2025年4月時点)

  • トルコ大国民議会アーカイブ資料

ご希望であれば、大統領ごとの政策比較表や写真付きの歴史年表も作成可能です。

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