企業が自社の製品を自ら使用する「ドッグフーディング(Dogfooding)」には、幾つかの利点がありますが、その一方でさまざまな問題点やリスクも内包しています。本記事では、企業が自社製品を使用する際に直面し得る負の側面に焦点を当て、その影響を深く掘り下げていきます。
1. バイアスの影響
ドッグフーディングを行う際の最大の問題の一つは、「バイアス」がかかる可能性が高いことです。自社製品を使用している従業員や関係者は、その製品に対して特別な感情や期待を抱いている場合が多く、これが客観的な評価を妨げる原因となります。製品に対して愛着や信念が強くなるあまり、欠陥や問題点を見逃してしまうことがあるのです。

特に、開発者やプロダクトチームが自社製品を日常的に使用することで、「良い製品であるべきだ」という無意識の前提が生まれ、実際にはユーザーが経験するであろう問題に気づきにくくなります。このようなバイアスは、ユーザビリティテストやフィードバックが必要な場面でも、それを正しく活かすことを困難にします。
2. 内部の視点に偏りがち
ドッグフーディングでは、主に社内の従業員やその近しい関係者が製品を使用することになりますが、これが製品の評価に偏りを生む原因になります。社内の従業員は製品の背景や開発意図に精通しているため、一般の消費者が直面するであろう問題に敏感でない場合が多いです。
消費者は製品に対して直感的に使用感を求め、使いやすさやデザインなど、単純で即効性のあるフィードバックを提供します。しかし、開発者は製品に対する深い知識を持っているため、ユーザーが直面する可能性のある複雑な問題や隠れた使いづらさに対して鈍感になりがちです。このため、製品が市場に投入された際に実際の顧客の反応が予測と大きく異なることがあります。
3. ユーザー視点の欠如
ドッグフーディングを通じて得られるフィードバックは、往々にして社内の視点からのものであり、実際の消費者の視点を反映したものではありません。特に、多様なユーザー層をターゲットにしている場合、社内の従業員が抱えるニーズと消費者のニーズは大きく異なることが多いです。
例えば、特定の地域や年齢層に特化した製品の場合、社内の従業員がそのターゲット層と同じ条件で製品を使用しているとは限りません。このため、ドッグフーディングだけでは、製品が実際の市場でどのように受け入れられるか、消費者がどのような課題に直面するかを正確に把握することは難しくなります。
4. 組織内部での意見の対立
ドッグフーディングを行うことで、製品に対する社内の意見が一致しない場合があります。開発チーム、マーケティングチーム、営業チームなど、異なる部門の人々が製品を使用することで、それぞれの視点に基づくフィードバックが集まり、場合によっては意見が対立することもあります。
例えば、マーケティングチームは製品の魅力を強調したいと考え、営業チームは顧客にとって最も売れる特徴を強調したいと考えるかもしれません。一方で、開発チームは製品の機能や技術的な優位性に重点を置きたいと思うでしょう。このような意見の食い違いが生じることで、最終的に製品の方向性が定まらず、内部での協力関係が壊れるリスクも高まります。
5. リソースの無駄遣い
ドッグフーディングを進める上で、開発者や社内の従業員が実際に製品を使用するためのリソースが必要です。製品の開発だけでなく、その使用に関するサポートやフィードバック収集も重要な作業となります。しかし、このプロセスに時間やリソースを多く割くことは、場合によっては無駄になることがあります。
ドッグフーディングにおいて集まったフィードバックは貴重ではありますが、それを実際の製品改善に活かすためには、継続的なテストと分析が必要です。製品のバージョンアップに向けた修正を行う際に、フィードバックをどこまで取り入れるか、またどの程度の変更が必要かを決定するための追加的なリソースが求められます。このプロセスが効率的でなければ、リソースの無駄遣いにつながり、製品開発が遅延する原因にもなり得ます。
6. 外部のユーザーの信頼性への影響
ドッグフーディングを行っている企業が、その成果を市場に公開する際に、外部のユーザーから信頼されなくなるリスクもあります。自社製品を使用していることを宣伝することで、消費者から「内部の人々が製品を使っているからこそ、その製品には欠点が少ない」といった期待をかけられることがあります。しかし、実際の使用感が消費者の期待に沿わない場合、信頼性が損なわれる可能性があります。
加えて、外部のユーザーがドッグフーディングの結果として得られる製品を購入した際に、自社従業員が体験したものと同じ成果を得られないことがあれば、その企業への信頼は著しく低下します。このような問題が積み重なることで、ブランドイメージに悪影響を与え、最終的には売上や企業の評判に重大な影響を及ぼすことになります。
結論
企業が自社の製品を使用してそのフィードバックを集める「ドッグフーディング」は、一見すると有益な戦略に見えるかもしれません。しかし、その背後には、バイアスの影響や内部視点の偏り、リソースの無駄遣いなど、数多くの負の側面が潜んでいます。企業が自社製品を外部ユーザーに提供する前に、ドッグフーディングの限界を十分に理解し、実際の消費者の視点を重視した改善作業を行うことが、製品の成功には欠かせません。