一般外科

バウサイ治療法ガイド

痔核(いわゆる“いぼ痔”)の完全かつ包括的な治療ガイド:原因、症状、診断、保存療法から手術まで

痔核(じかく)、通称「いぼ痔」は、日本における肛門疾患の中で最も頻度が高いものである。成人の半数以上が生涯のうちに一度は経験するとされており、その罹患率は年齢とともに上昇する。多くの人が羞恥心から診察をためらうが、早期に適切な治療を受けることで、症状を軽減し、生活の質を向上させることが可能である。本稿では、痔核に関する最新の医学知見に基づき、その原因、症状、診断法、治療法、予防策までを徹底的に解説する。


痔核とは何か?

痔核は、肛門の内外に存在する静脈叢(じょうみゃくそう)が拡張・うっ血し、こぶ状になった状態を指す。内痔核(直腸粘膜の内側にできる)と外痔核(肛門の外にできる)の2つに大別される。内痔核は痛みが少ない一方で出血を伴いやすく、外痔核は強い痛みを伴うが出血は少ない傾向にある。


主な原因

  1. 排便習慣の乱れ

    長時間のいきみや便秘、下痢などが肛門への圧力を高め、静脈のうっ血を引き起こす。

  2. 長時間の座位

    デスクワークやトラック運転手など、長時間同じ姿勢で座ることが多い職業はリスクが高い。

  3. 妊娠・出産

    妊娠中はホルモンの影響で便秘が起きやすく、子宮が肛門周囲の静脈を圧迫することで痔核を助長する。

  4. 加齢

    年齢とともに肛門周囲の支持組織が弱くなり、静脈叢が拡張しやすくなる。

  5. 遺伝的要因

    家族歴がある人は、静脈の弾力性に問題があることが多い。


症状

症状 内痔核 外痔核
出血 ◎(排便時に鮮血) △(まれ)
痛み △(進行すれば痛む) ◎(特に血栓性外痔核)
脱出 ◎(重度で突出) ×
かゆみ
違和感

診断法

  1. 問診

    排便習慣、出血の有無、痛み、妊娠歴などを確認する。

  2. 視診および触診

    外痔核は視診で確認可能。内痔核は肛門鏡を用いて直視する。

  3. 肛門鏡検査

    小型の鏡を使って、内痔核の位置・大きさ・出血の有無を観察。

  4. 直腸指診

    医師が手袋をはめ、指で肛門内部を触れて確認する。

  5. 大腸内視鏡検査(必要に応じて)

    出血が続く場合や大腸がんとの鑑別のために行われる。


保存的治療(軽度〜中等度)

1. 食事療法

  • 食物繊維の摂取を増やし、便通を改善する(野菜、果物、全粒穀物など)。

  • 水分を一日1.5〜2L摂取することで、便を柔らかくする。

  • 香辛料やアルコール、カフェインは控える。

2. 排便習慣の改善

  • 長時間のいきみを避ける(排便時間は5分以内が理想)。

  • 毎日同じ時間にトイレに行く習慣をつける。

3. 入浴と温熱療法

  • 毎日の温浴(座浴)で血行を促進し、症状を緩和。

  • 清潔保持と同時に、肛門周囲の筋肉を弛緩させる効果がある。

4. 外用薬・内服薬

  • 外用薬:軟膏や坐薬(ヒドロコルチゾン、リドカインなど)が腫れや痛みを緩和。

  • 内服薬:止血剤や静脈還流を改善する薬(フラボノイドなど)が有効。


手術的治療(重度または保存療法無効時)

手術法 特徴 適応
結紮切除術(Milligan-Morgan法) 最も一般的。痔核を根本から切除。 内痔核3〜4度
ドップラーガイド下結紮術(HAL法) 動脈を結紮して血流を遮断。痛みが少ない。 中等度の内痔核
痔核硬化療法(ジオン注) 注射で痔核を萎縮させる。日帰り可。 内痔核1〜3度
ゴム輪結紮術(RBL) ゴムで痔核根部を締めて壊死させる。簡便。 内痔核1〜2度
レーザー治療 痔核を焼灼。痛み少、回復早。 一部の外痔核・小さな内痔核

術後管理と合併症の予防

  1. 痛み管理

    手術後の痛みには鎮痛剤(NSAIDsなど)を適切に使用。

  2. 排便コントロール

    術後の便秘予防には緩下剤(酸化マグネシウムなど)を処方。

  3. 出血対策

    特に術後2〜5日目に再出血のリスクが高いため、排便後の注意が必要。

  4. 感染予防

    肛門周囲は菌が多いため、感染予防に抗菌薬や洗浄を徹底。

  5. 再発予防

    食生活や運動習慣の見直しにより、再発率を大きく低減可能。


再発を防ぐ生活習慣

習慣 具体例
食事 食物繊維の摂取、適度な脂質、過度な辛味・刺激物の制限
排便 我慢しない、トイレでのスマホ禁止、便意に従う
運動 週3回以上の有酸素運動(ウォーキング、ストレッチ)
体重管理 肥満は腹圧を高め、痔核悪化の原因に
長時間の座位回避 デスクワーク中に定期的な立ち上がりやストレッチを

現代医療の動向と新技術

最新の医療技術では、従来の痛みを伴う切除術から、より低侵襲かつ日帰りでの治療が主流となってきている。特にジオン注やHAL法の普及により、入院を避けつつ高い治療効果を得られるようになっている。また、AIによる診断補助や個別化医療(パーソナライズドメディスン)も進行中であり、将来的にはより痛みの少ない治療が期待されている。


結語

痔核は恥ずかしい疾患と思われがちだが、実際には誰にでも起こりうる極めて一般的な病気である。早期発見・早期治療によって予後は非常に良好であり、適切な生活習慣の継続により再発も防げる。最も重要なのは、恥ずかしさに負けず、専門医に相談する勇気を持つことである。


参考文献

  • 日本大腸肛門病学会編『痔核診療ガイドライン2020』

  • 厚生労働省:肛門疾患に関する調査報告書(2023年)

  • S. Lohsiriwat. “Hemorrhoids: from basic pathophysiology to clinical management.” World J Gastroenterol. 2012 Jan 7;18(17):2009–17.

  • 高橋健太「最新の痔核治療と患者満足度」日本外科年報, 2021年


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