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バグダードの面積と都市構造

バグダード(Baghdad)は、イラク共和国の首都であり、同国の政治・経済・文化の中心地として知られている。チグリス川の両岸に広がるこの都市は、数千年にわたる歴史と豊かな文明遺産を有しており、今日に至るまで中東における重要な都市の一つとされている。本稿では、バグダードの面積に焦点を当てつつ、その地理的・行政的特徴、都市構造、拡張の歴史、人口密度との関係、そして都市計画と環境問題について包括的に論じる。


バグダードの地理的概要と面積

バグダードは、イラク中部に位置し、北緯33度20分、東経44度23分付近に広がっている。チグリス川を挟んで東西に展開するこの都市の総面積は、おおよそ 673平方キロメートル(約260平方マイル)である。この数値は、都市全体(都市圏)の広がりを含んでおり、行政区画としての「バグダード県(ムハーファザ)」全体の面積とは区別される必要がある。

イラクにおいては、県(ムハーファザ)と市(マディーナ)の区分があり、バグダード県全体の面積は 4,555平方キロメートルに達する。これは東京都のおよそ2倍の広さに相当し、都市域だけでなく周辺の農村部、工業地域、軍事施設なども含まれている。


行政区画と構造

バグダード市は、9つの行政区に分割されている。主な行政区は以下の通りである。

行政区名(日本語表記) 特徴
カルフ区 西バグダードの中心地区
ラスファ区 政治的機関が集中する地区
サドル・シティ 東側の高人口密集地域
マンスール区 高級住宅街・大使館地区
カーザミヤ区 シーア派の聖地を含む
アッダウラ区 農業地帯と工業地域
アルジャディーダ区 新興の都市開発地域
アルカルアー区 住宅地域と行政機関が混在
アルシャアブ区 労働者階級が多く住む地域

これらの行政区はそれぞれに固有の特徴を持ち、都市構造の複雑性と多様性を反映している。


面積の拡張と都市化の歴史

バグダードの面積は、建設当初から大幅に拡張されてきた。8世紀にアッバース朝カリフ、アブー・ジャアファル・アル=マンスールによって建設された当時の都市は、円形都市として知られ、「ラウンド・シティ(円形都市)」という形態をとっていた。直径2キロメートルほどのコンパクトな設計で、面積はわずか3.1平方キロメートルに過ぎなかった。

しかしその後、人口増加とともに都市は外側へと広がり、特に20世紀以降の近代化と経済発展によって著しい拡張を遂げた。1950年代から1970年代にかけては、石油収入によって都市インフラの整備が進み、郊外の宅地化が急速に進行した。特に1970年代の都市再開発計画により、都市の面積は2倍以上に膨張した。


人口密度と面積の関係

バグダードはイラク国内で最も人口が集中する都市であり、2024年時点における推定人口は約900万人に達している。この数字を都市面積(673平方キロメートル)で割ると、おおよその人口密度は約13,370人/平方キロメートルとなる。これは、東京23区の平均人口密度(約15,000人/平方キロメートル)に匹敵する高密度である。

行政区ごとに見ると、サドル・シティやアルシャアブ区のような東側の住宅地において特に人口密度が高い。これは住宅が密集して建てられ、また一世帯あたりの家族人数が多いという社会的特徴にも起因している。一方で、西側のマンスール区やカーザミヤ区などは人口密度が比較的低く、緑地や広大な敷地の建築物が多い。


都市計画と空間利用

バグダードの都市計画は、たびたび政権交代や戦争によって中断・修正されてきたが、21世紀に入り、より体系的な開発指針が求められるようになってきた。都市の拡張に伴い、以下のような空間利用の課題が顕在化している。

  • 無計画なスプロール化:人口増加に対応するために郊外へ無秩序に住宅が広がる。

  • 緑地の喪失:都市面積が拡大する一方で、公園や緑地の確保が遅れている。

  • インフラの過負荷:特に交通インフラと上下水道は、人口密度に対して対応が追いついていない。

  • 都市の防災力の脆弱性:洪水対策や耐震設計が不十分である。

これらの課題を克服するため、イラク政府および国際支援機関は、持続可能な都市開発戦略の構築を目指している。国連人間居住計画(UN-HABITAT)もバグダードにおける都市再建プロジェクトを推進しており、都市面積の適正な管理と空間効率の改善が急務とされている。


環境的影響と都市の将来

都市面積の拡張は、自然環境や生態系にも影響を及ぼしている。特にバグダードでは、以下のような環境課題が深刻化している。

  • ヒートアイランド現象の拡大

  • 大気汚染(PM2.5、NOx濃度の上昇)

  • 地下水の枯渇と水質汚染

  • 建設によるチグリス川沿岸の生態系破壊

都市が抱えるこれらの環境リスクは、面積の拡張と密接に関係している。面積拡大が都市の許容限界を超える場合、生活の質が著しく損なわれる可能性がある。そのため、スマート・グロース(Smart Growth)やコンパクト・シティといった現代都市理論を応用した都市再編が求められる。


結論

バグダードの面積は、都市そのものとしては約673平方キロメートル、広域的には4,555平方キロメートルという広がりを持ち、歴史と共に変容を遂げてきた。その面積の変化は、人口増加、都市化、社会的変動、戦争、そして環境要因といった複数の要因によって影響されてきた。今後のバグダードの都市計画には、面積拡張と空間利用の最適化、環境負荷の軽減、インフラ整備のバランスが強く求められる。持続可能で調和の取れた都市形成の実現こそが、バグダードの将来にとって不可欠である。


参考文献

  1. Central Statistical Organization, Iraq. “Annual Statistical Abstract.” バグダード統計データ(2023年版)

  2. United Nations Human Settlements Programme (UN-HABITAT), “Baghdad Urban Profile,” 2022年報告書

  3. Al-Azzawi, S. “Urban Expansion and Sustainability in Baghdad,” Middle East Urban Studies, 2021

  4. World Bank Group, “Baghdad Urban Resilience Project: Strategic Urban Development,” 2023年

  5. Ministry of Planning, Republic of Iraq. “National Development Plan 2021–2025”

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