乾燥パスタや生パスタとして世界中で親しまれている「パスタ(日本語では一般的に“スパゲッティ”などの種類名でも呼ばれる)」は、イタリア料理を代表する食品であり、その主な原材料と製造工程は科学的に緻密に設計されている。この記事では、パスタが何から作られているのか、どのようにして作られるのか、そしてその種類や栄養価、さらには近年注目されている代替材料による製造についても、包括的かつ詳細に解説する。
パスタの基本原材料
デュラム小麦のセモリナ粉
最も伝統的なパスタは、「デュラム小麦(Triticum durum)」から得られるセモリナ粉で作られる。セモリナ粉は、デュラム小麦を粗挽きにしたものであり、粒子がやや粗く、淡い黄色をしているのが特徴である。この粉はタンパク質(主にグルテン)とグルテン形成に不可欠なグリアジンとグルテニンが豊富に含まれており、弾力のあるコシの強いパスタの食感を生み出す。

水
パスタのもう一つの基本的な原材料は水である。セモリナ粉と水のみで構成された生地は、非常にシンプルながらも、パスタの基礎を成す。水は粉の粒子を結びつけ、生地に可塑性と伸展性を与える。使用される水の温度や硬度(カルシウムやマグネシウムの含有量)は、最終製品の品質に大きな影響を与える。
製造工程
混練(ミキシング)
粉と水を混ぜる工程では、原材料を均等に混ぜ、均質な生地を形成する必要がある。このときの混練時間や速度、温度管理が品質を左右する。伝統的な製法では手作業で混ぜる場合もあるが、現代の製造では機械化され、温度と湿度が厳密に管理される。
押し出し(エクストルージョン)
混練された生地は、特定の形状(スパゲッティ、ペンネ、マカロニなど)に成形するために「ダイ」と呼ばれる金型に押し出される。この際の圧力や速度、使用するダイの材質(金属かテフロンか)によって、パスタの表面のざらつきや艶が変化し、ソースとの絡みやすさに影響する。
乾燥
乾燥はパスタ製造において最も重要な工程の一つである。特に工場で作られる乾燥パスタでは、湿度と温度を段階的に変化させながらゆっくり乾燥させる必要がある。急速乾燥を行うと、パスタ表面にひび割れや変色が生じることがある。
乾燥工程では、以下のような段階が存在する:
段階名 | 温度範囲 | 湿度範囲 | 目的 |
---|---|---|---|
初期乾燥 | 40〜60°C | 90〜100% | 表面の水分を穏やかに蒸発させる |
中間乾燥 | 60〜80°C | 60〜80% | 内部の水分を徐々に除去する |
最終乾燥 | 80〜100°C | 20〜40% | 完全に水分を除去し保存性を高める |
乾燥後の水分含有量は約12〜13%が一般的で、これにより長期保存が可能となる。
生パスタと乾燥パスタの違い
特徴 | 生パスタ | 乾燥パスタ |
---|---|---|
原材料 | セモリナ粉+水+卵(ことが多い) | セモリナ粉+水 |
食感 | もちもち、柔らかい | 弾力があり、歯ごたえがある |
保存性 | 数日間(冷蔵保存) | 数ヶ月〜1年以上(常温保存) |
調理時間 | 短い(2〜4分) | やや長い(7〜12分) |
栄養価と健康面での評価
パスタは炭水化物が主成分であり、エネルギー源として非常に優れている。また、セモリナ粉に含まれるグルテンは、弾力性のある食感を生み出す一方で、グルテン不耐症の人には適さない。
100gあたりの標準的な栄養価(乾燥パスタ):
栄養素 | 含有量 |
---|---|
エネルギー | 約370 kcal |
タンパク質 | 約13 g |
炭水化物 | 約75 g |
脂質 | 約1.5 g |
食物繊維 | 約3 g |
近年の代替材料によるパスタ
健康志向やアレルギー対応、ビーガン需要の高まりにより、近年ではさまざまな原材料を用いたパスタが開発されている。
グルテンフリーパスタ
米粉、トウモロコシ粉、ひよこ豆粉などを使用することで、グルテン不耐症の人でも安心して食べられるパスタが誕生している。ただし、デュラム小麦のような弾力や粘りを再現するためには、増粘剤や特殊な製法が必要である。
野菜パスタ
ホウレンソウ、ニンジン、トマトなどの野菜を練り込んだパスタは、色鮮やかで栄養価も高く、子どもの食育や彩りを重視する料理に適している。
昆虫パスタや藻類パスタ
持続可能な食材として注目されている昆虫粉(コオロギ粉など)や藻類(スピルリナ)を混ぜ込んだパスタは、タンパク質やミネラルが豊富で、環境負荷の低減に寄与する可能性がある。
日本国内でのパスタ製造と消費
日本では戦後の洋風化によりパスタの消費が急増し、現在では国内でもセモリナ粉を使った本格的なパスタの製造が行われている。北海道産デュラム小麦を使用した製品や、うどんの技術を応用した独自の製品など、多様性に富んでいる。
農林水産省の統計によれば、日本人一人当たりのパスタ消費量は年間約6kg前後で、これは米やパンに次ぐ主食的な位置づけを示している。
結論
パスタは単なる炭水化物源ではなく、原材料の選定から製造工程に至るまで科学と技術の集約によって作られる食品である。デュラム小麦のセモリナ粉というシンプルな素材を用いながらも、その背後には複雑な物理的・化学的プロセスが存在し、食感・保存性・栄養価を決定づけている。また、現代ではグルテンフリーや高タンパク志向など、さまざまな消費者ニーズに応える形で多様な原材料が活用されており、今後も進化し続ける食品である。
出典:
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農林水産省「令和4年度 食品需給表」
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FAO(国際連合食糧農業機関)統計データベース
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“Technology of Pasta Production”, Cereal Chemistry Journal, 2018
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日本製粉協会パスタ製造マニュアル(第6版)