パルメニデス(Parmenides)は、古代ギリシャの哲学者であり、西洋哲学の中でも特に重要な人物の一人です。彼は、存在と非存在に関する理論を提唱し、後の哲学的な思考に多大な影響を与えました。パルメニデスの思想は、彼の著作『存在について』(「Περὶ φύσεως」または「On Nature」)を中心に展開されており、この作品は、彼の形而上学的な見解を理解するための重要な手がかりとなっています。
パルメニデスの生涯と時代背景
パルメニデスは、紀元前5世紀のギリシャのエレア(現代のイタリア南部)で生まれ育ちました。エレアは、哲学的に非常に重要な都市であり、パルメニデスはその中で活動を行いました。この時代、ギリシャは戦争や政治的変動が激しい時期であり、同時期に活動していた他の哲学者にはヘラクレイトスやピタゴラスなどがいますが、パルメニデスの哲学はその中でも一際異彩を放っています。
彼が生きていた時期は、古代ギリシャの哲学的探求が深まる中で、自然界や存在に関する根本的な問いが提起されていた時代でした。パルメニデスもまた、この問いに答えるために、哲学的探求を行ったのです。
存在の理論
パルメニデスの最も重要な哲学的貢献は、「存在」についての理論です。彼は、存在がただ一つであるという立場を取ります。この考え方は、後の哲学者たちに強い影響を与えました。パルメニデスによれば、「存在するものは存在し、存在しないものは存在しない」とされています。つまり、何も存在しないものは決して存在し得ないというのが彼の立場です。
彼の存在の理論において、最も革新的だった点は、存在するものは変化せず、永遠不変であるという見解です。すなわち、物事の変化や動きは本質的に存在しないとされました。パルメニデスは、感覚的な世界では物事が変化しているように見えますが、それは実際には「幻影」であり、真の存在は常に不変であると主張しました。この点は、彼の思想を非常に難解で抽象的なものにしています。
「道の二つの道」
『存在について』というパルメニデスの作品には、彼の哲学的な思想が詩的に表現されています。この作品の中で、パルメニデスは「二つの道」という概念を提示しています。これは、思考の道筋を象徴的に示すもので、「道」とは真理を探求する方法を指しています。
一つは「存在の道」であり、この道は、存在するものがあるという絶対的な真理を追い求める道です。この道では、変化や無限の多様性を否定し、存在するものは一つであるとされます。この道を選ぶことによって、真理に到達できると考えられました。
もう一つは「非存在の道」であり、この道は無の状態、つまり存在しないものについての考え方を意味しています。パルメニデスによれば、この道は誤りであり、非存在を追求することは論理的に不可能であるとされています。存在しないものは語ることすらできないという立場を取るわけです。
パルメニデスとエレア学派
パルメニデスは、エレア学派の創設者とされています。この学派は、パルメニデスの考えに基づいて存在と非存在に関する理論をさらに発展させました。エレア学派の重要な思想家には、ゼノンがいます。ゼノンは、パルメニデスの「変化しない存在」という考えを支持し、その矛盾を論じるために「ゼノンの逆説」を提唱しました。ゼノンは、物理的世界の常識的な認識がいかに誤りであるかを示すために、様々な逆説的な論法を展開しました。
パルメニデスの影響
パルメニデスの思想は、後の哲学者たちに深い影響を与えました。特に、彼の「存在するものは変化しない」という考え方は、プラトンやアリストテレスの形而上学に大きな影響を与えました。プラトンは、パルメニデスの「存在は不変である」という考えを、彼の理想主義的な形而上学に取り入れました。また、アリストテレスも、存在論や形而上学においてパルメニデスの影響を受けつつ、独自の論理を展開しました。
さらに、近代の哲学者たちにもパルメニデスの影響は見られます。彼の「変化しない存在」という視点は、現代の実在論や形而上学的な議論にも色濃く残っています。
結論
パルメニデスは、存在に関する理論を提唱したことで、西洋哲学の歴史において重要な位置を占める人物です。彼の「存在は変わらない」という見解は、後の哲学的議論を引き起こし、数多くの思想家に影響を与えました。彼の思想は、その抽象性や難解さから理解するのが難しいこともありますが、同時にそれがパルメニデスの思想の魅力でもあります。彼の「二つの道」の概念や、存在に対する深い問いは、今なお現代哲学においても重要なテーマであり続けています。
