ビタミンとミネラル

ビタミンB5の美肌効果

ビタミンB5(パントテン酸)は、水溶性ビタミン群のひとつであり、エネルギー代謝や脂質合成、ホルモン産生など、身体の多くの重要な生理機能に関与している栄養素である。その中でも特に注目されているのが「皮膚」への多面的な効果である。化粧品やスキンケア製品にも頻繁に使用されるこのビタミンは、外用・内服の両面から美容や皮膚の健康維持に大きな価値を持つ。本稿では、ビタミンB5が皮膚にもたらす利点を、科学的根拠に基づいて網羅的に解説する。


1. 肌のバリア機能の強化

ビタミンB5は、皮膚のバリア機能を保護し、外部刺激からのダメージを軽減する作用を持つ。特に「デキスパンテノール(プロビタミンB5)」として外用されることで、角質層の保湿能力が高まり、皮膚が乾燥や外的環境から守られるようになる。研究では、ビタミンB5が皮膚の脂質合成を促進し、セラミドの生成を助けることが確認されている。セラミドは角質層に存在する脂質の一種であり、皮膚の水分保持能力と密接に関わっている。


2. 保湿効果と乾燥肌の改善

ビタミンB5の最も広く認識されている作用の一つが、保湿である。パントテン酸は親水性を持つため、水分を皮膚表面に保持する能力が高く、皮膚の乾燥を防ぐ。さらに、皮膚表面の水分蒸発を抑制することで、長時間にわたり潤いを維持する。乾燥性皮膚炎やアトピー性皮膚炎など、水分不足が関係する疾患において、デキスパンテノールを含む外用薬が保湿目的で頻繁に使用される。


3. 創傷治癒の促進

パントテン酸は、細胞増殖を促進し、線維芽細胞の活性化を通じて、創傷治癒を早める働きがある。これにより、擦り傷や軽度の切り傷、さらには美容施術後の皮膚の回復を助ける。動物実験および臨床研究では、デキスパンテノールを塗布した部位での上皮再生速度が有意に速くなることが示されている。

以下の表は、ビタミンB5の創傷治癒における作用機序を要約したものである。

作用機序 詳細
細胞分裂の促進 表皮細胞および線維芽細胞の増殖を促す
コラーゲン合成の活性化 傷跡の修復を助け、皮膚の弾力を回復
抗炎症作用 炎症性サイトカインの分泌を抑制し、腫れや赤みを軽減

4. 抗炎症作用とニキビの軽減

ビタミンB5には抗炎症特性があり、ニキビや吹き出物などの炎症性皮膚疾患の緩和に役立つ。実際、パントテン酸のサプリメントを服用することで、過剰な皮脂分泌が抑えられ、毛穴の詰まりが改善されるという報告がある。これは、ビタミンB5が脂質代謝を調整し、皮脂腺の活動をコントロールすることに起因する。また、抗菌作用もわずかに認められており、アクネ菌の増殖を抑制することが期待されている。


5. 肌の弾力性と老化防止

ビタミンB5は、皮膚の弾力性を保つためにも重要な栄養素である。コラーゲンやエラスチンなど、真皮に存在する構造タンパク質の合成を助け、皮膚のたるみや小じわの予防に寄与する。加齢とともに減少するこれらの成分の維持には、継続的なビタミンB5の摂取が推奨される。

老化の主要な要因の一つである酸化ストレスに対しても、パントテン酸は間接的に抗酸化作用を示す。これは、グルタチオンや補酵素Aなどの合成をサポートすることによるもので、これらの物質は細胞をフリーラジカルから保護する重要な役割を担う。


6. 色素沈着の緩和と肌トーンの均一化

パントテン酸は、皮膚のターンオーバーを正常化し、過剰なメラニンの蓄積を抑えることで、色素沈着の軽減にも役立つ。シミやくすみなどの原因となる表皮メラニンの分解を促進し、肌のトーンを均一に整えることができる。この効果は、特に美白製品に配合されたビタミンB5によって明確に見られる。


7. 紫外線によるダメージからの保護

近年の研究では、ビタミンB5が紫外線による皮膚ダメージを緩和する可能性が示唆されている。特にUVBによる皮膚細胞の損傷に対して、デキスパンテノールがDNA損傷の修復や細胞死の抑制に関与するというデータも存在する。これにより、日焼け後の皮膚回復を促すアフターサンケア製品に、ビタミンB5が配合されることが増えている。


8. 肌の敏感性とアレルギー反応の抑制

ビタミンB5には、皮膚の過敏反応を緩和する働きもある。敏感肌やアレルギー性皮膚炎の患者に対して、デキスパンテノール含有の保湿剤を使用することで、刺激反応が著しく減少したとする報告もある。これは、皮膚のバリア機能が回復することによって、アレルゲンの侵入を防ぎ、ヒスタミンなどのアレルギー物質の放出を抑えるためである。


9. ビタミンB5の効果的な摂取方法

皮膚への効果を最大限に引き出すには、ビタミンB5を「内側」と「外側」から取り入れることが望ましい。

外用による摂取:

  • デキスパンテノール入りクリーム・ローション

  • 保湿ジェルやスプレー製品

  • 美容液(セラム)

経口摂取による補給源:

食品 含有量(mg/100g)
レバー(鶏・豚) 6.8〜10.1
卵黄 5.0
アボカド 1.4
サーモン 1.2
きのこ類 1.5
落花生 1.8

成人における1日の推奨摂取量は5mg程度とされており、通常の食事で十分に補える。しかし、皮膚トラブルが頻発する場合やストレスが多い状況下では、サプリメントによる補助も検討される。


10. 安全性と副作用

ビタミンB5は水溶性であるため、過剰摂取した場合でも尿として排出され、体内に蓄積しにくいという特徴がある。そのため、比較的安全性が高いとされているが、非常に高用量の摂取では下痢や軽度の胃腸障害を引き起こす可能性がある。また、外用製品に関しても、極めてまれに接触性皮膚炎などの過敏症が報告されているため、初めて使用する製品ではパッチテストを行うことが推奨される。


参考文献

  • Ebner, F., Heller, A., Rippke, F., & Tausch, I. (2002). Topical use of dexpanthenol in skin disorders. American Journal of Clinical Dermatology, 3(6), 427–433.

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  • Shalbaf, M., Yazdanparast, T., Nasiri, S., et al. (2014). The effect of oral pantothenic acid supplementation on facial acne lesion: A randomized, double-blind, placebo-controlled study. Dermatology and Therapy, 4(2), 179–186.


ビタミンB5は単なる栄養素にとどまらず、肌の健康と美しさを支える「戦略的成分」として再評価されつつある。化粧品、医薬部外品、サプリメントといった多様な形での応用が進んでおり、今後もさらなる研究が期待される分野である。皮膚トラブルの予防や改善、老化防止を目指すすべての人々にとって、ビタミンB5の恩恵は計り知れない。

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