ビーツ(別名:ビートルート、テーブルビート、赤カブ)は、その深紅色の鮮やかな色合いと、土の香りが特徴の根菜であり、栄養価の高さからスーパーフードとしても注目されています。特にサラダや前菜、スムージー、漬物、スープ(ボルシチなど)として使用される際に、ビーツを茹でる、すなわち「ビーツを正しく、そして効率的に加熱する方法」は非常に重要です。本記事では、科学的根拠に基づいて、ビーツを完璧に茹でる方法、保存技術、栄養素の保持、注意点、さらには応用レシピまで、総合的に解説します。
ビーツを茹でる目的と利点
ビーツを加熱する最大の理由は、食感を柔らかくし、土臭さを和らげることです。生のままでは非常に硬いため、そのままスライスして食べるには適しません。また、加熱することでビーツ特有の甘みが引き出され、料理全体の風味が豊かになります。

さらに、ビーツに含まれるベタシアニン(赤紫色の色素成分)は抗酸化作用が強く、加熱後も比較的安定して残るため、健康面でも有益です。
ビーツの選び方と下処理
選び方のポイント:
観点 | 説明 |
---|---|
皮の状態 | 傷やシワのない滑らかな皮 |
色合い | 深い赤紫色で光沢のあるもの |
大きさ | 中程度(直径5〜7cm)で均一な形状がベスト |
葉の有無 | 葉が付いている場合は鮮やかでしおれていないこと |
下処理:
-
葉の切除:葉と茎は2〜3cmほど残して切る。完全に切り落とすと茹でる際に色素が流出しやすくなる。
-
泥落とし:皮を剥かず、流水でよく洗い、ブラシなどで表面の泥を落とす。皮は茹で上がってから手で簡単に剥けるため、最初はそのままにするのがベスト。
-
大きさの揃え:大きさが異なると茹で時間がバラバラになるため、サイズが異なる場合は分けて茹でるか、同じサイズに切り揃える。
茹で方の科学的アプローチ
ビーツを茹でる方法は複数ありますが、以下では3つの主要な方法を解説します。
方法①:鍋で茹でる(伝統的かつ一般的)
手順:
-
鍋にたっぷりの水を張り、塩を少量加える(風味を引き立てる)。
-
ビーツを皮付きのまま投入する。
-
強火で沸騰させ、その後中火にして蓋をし、30分〜50分ほど茹でる。
-
小さめのビーツ:約30分
-
中〜大サイズ:約45〜60分
-
-
竹串やナイフで中心を刺し、スッと通れば茹で上がり。
-
冷水に取って熱を止め、皮を指でこすると簡単に剥ける。
メリット:
-
手軽で特別な器具を必要としない
-
多くの量を同時に調理可能
デメリット:
-
色素や栄養素が水に流れ出る可能性がある
方法②:蒸し器を使う(栄養素保持に最適)
手順:
-
蒸し器に水を入れ、底が隠れる程度にする。
-
ビーツを蒸し器の上に並べ、蓋をする。
-
中火〜強火で約40〜60分蒸す。
-
茹で方と同様、竹串で柔らかさを確認し、冷水に取って皮を剥く。
メリット:
-
水に接触しないため、ベタシアニンやビタミンCなどの栄養素の損失が少ない
-
色も鮮やかに保たれる
デメリット:
-
茹でよりも時間がかかる
-
蒸し器が必要
方法③:圧力鍋を使用する(時短重視)
手順:
-
圧力鍋にビーツと1〜2カップの水を入れる。
-
高圧で約15〜20分加圧調理する。
-
自然に圧が抜けたら冷水に取り、皮を剥く。
メリット:
-
大幅な時間短縮が可能
-
水の使用量が少ないため、栄養流出が少ない
デメリット:
-
加圧しすぎるとビーツが崩れやすい
-
加圧調理器具の操作に慣れが必要
調理後の保存方法と応用
保存方法:
方法 | 期間 | ポイント |
---|---|---|
冷蔵保存(密閉容器) | 3〜5日 | 皮を剥いてカットし、水気を切って保存 |
冷凍保存 | 約3か月 | スライスまたはダイスカットしてラップ+ジップ袋で冷凍 |
酢漬け | 数週間〜数ヶ月 | 瓶詰めし、ピクルスとして保存可 |
応用例:
-
ビーツサラダ(フェタチーズやナッツとの相性抜群)
-
ビーツスムージー(バナナ、ヨーグルトと混ぜて)
-
ビーツのディップ(フムスやギリシャ風ディップに)
-
ローストビーツとグレインボウル
-
ボルシチ(ウクライナ風ビーツスープ)
栄養学的視点と安全性
ビーツは以下のような栄養素が豊富に含まれています:
成分 | 含有量(100gあたり) | 効果 |
---|---|---|
食物繊維 | 約2.8g | 整腸作用 |
葉酸(ビタミンB9) | 約109μg | 妊娠中の栄養補助 |
ベタシアニン | 非常に豊富 | 抗酸化・抗炎症作用 |
カリウム | 約325mg | 血圧調整 |
硝酸塩 | 約250〜300mg | 血流改善、運動パフォーマンス向上(参考:Clifford et al., Nutrients, 2015) |
注意点として、ビーツに含まれるオキサレートは腎結石のリスクを高める可能性があるため、腎臓疾患のある方は摂取量に留意が必要です。また、摂取後に尿や便が赤くなる「ビート尿(beeturia)」は無害ですが、驚かないようにしましょう。
結論
ビーツの茹で方は一見シンプルですが、選び方、下処理、加熱方法によって味や栄養価、見た目に大きな違いが生まれます。目的や使用用途に応じて「茹でる」「蒸す」「加圧する」といった方法を選択し、最も理想的な状態でビーツを楽しむことが重要です。
料理とは科学であり、ビーツのような素材でもその扱い方ひとつで美味しさが何倍にもなる。正しく、丁寧に調理されたビーツは、和洋問わずあらゆる料理に調和し、私たちの食卓に色彩と栄養、そして驚きをもたらしてくれます。
参考文献
-
Clifford, T. et al. (2015). “The Potential Benefits of Red Beetroot Supplementation in Health and Disease.” Nutrients, 7(4), 2801-2822. https://doi.org/10.3390/nu7042801
-
United States Department of Agriculture (USDA) FoodData Central
-
日本食品標準成分表2020年版(八訂)