胃の細菌感染、通称「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」は、世界中で広く見られる感染症の一つです。この細菌は、胃の粘膜に感染し、胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんの原因になることがあります。本記事では、ピロリ菌の症状、感染経路、診断方法、治療法について詳しく解説します。
ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリは、胃の粘膜に定着し、そこに炎症を引き起こします。人間の胃内に生息する数少ない細菌の一つであり、胃酸に耐える特性を持っています。ピロリ菌が感染すると、胃の粘膜が傷つき、胃酸が直接胃壁に作用することによって、さまざまな胃の病気を引き起こします。

ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌は主に人から人への接触によって感染します。口から口へ、または汚染された食物や水を介して感染することが多いとされています。特に衛生状態が悪い環境や、衛生管理が不十分な食物を摂取することで感染のリスクが高まります。日本でも、衛生状態が改善される以前は、ピロリ菌に感染している人が多かったとされています。
ピロリ菌の症状
ピロリ菌に感染しても、すぐに症状が現れるわけではありません。しかし、感染が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。
1. 胃痛や胃もたれ
ピロリ菌が胃の粘膜を刺激すると、胃痛や胃もたれが発生することがあります。これらの症状は、食後や空腹時に悪化することが多いです。
2. 胸やけ
胃酸が逆流して食道に達することで、胸やけや酸っぱい口の中に感じることがあります。これもピロリ菌感染のサインの一つです。
3. 吐き気や嘔吐
進行した感染症の場合、胃の粘膜がかなり傷つき、吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。
4. 食欲不振
ピロリ菌感染が進行すると、食欲が低下し、体重が減少することがあります。これは、胃の痛みや不快感が食事を摂ることを妨げるためです。
5. 消化不良
消化機能が低下するため、食後に腹部の膨満感やガスの溜まりやすさを感じることがあります。
6. 黒い便
胃潰瘍や出血を伴う場合、便が黒くなることがあります。これは、出血が消化管で消化され、黒くなるためです。
ピロリ菌による合併症
ピロリ菌が引き起こす最も深刻な病気は、胃炎や胃潰瘍ですが、これらが進行すると、以下のような合併症を引き起こすことがあります。
1. 胃潰瘍
ピロリ菌は胃の粘膜に炎症を起こし、その炎症が進行すると潰瘍が形成されることがあります。潰瘍が進行すると、出血や穿孔(胃壁が破れて内容物が漏れ出す状態)を引き起こし、緊急の治療が必要になることがあります。
2. 胃がん
ピロリ菌感染は、胃がんの発症リスクを高めることが知られています。長期間にわたる慢性的な炎症が、がん細胞の発生を促すとされています。日本では、胃がんの主な原因の一つとしてピロリ菌感染が挙げられています。
3. 貧血
ピロリ菌による胃潰瘍や出血が続くと、鉄分の吸収が悪くなり、貧血を引き起こすことがあります。
ピロリ菌の診断方法
ピロリ菌に感染しているかどうかを診断するためには、いくつかの検査方法があります。
1. 血液検査
ピロリ菌に対する抗体が血液中に存在するかを調べることで、過去に感染したことがあるかどうかを確認できます。ただし、現在の感染を直接確認することはできません。
2. 呼気テスト(尿素呼気試験)
尿素を含む飲料を摂取し、呼気中に二酸化炭素の変化があるかどうかを測定する検査です。ピロリ菌が尿素を分解する過程で発生する二酸化炭素を検出することで、感染の有無を確認できます。
3. 内視鏡検査
内視鏡を使って胃内を直接観察する方法です。胃粘膜の状態を確認し、ピロリ菌の感染が確認できる場合があります。また、内視鏡検査では、胃潰瘍や出血の有無も同時にチェックできます。
4. 生検
内視鏡検査中に胃の一部を採取し、ピロリ菌の有無を調べる方法です。これにより、ピロリ菌の感染の有無を高精度で確認することができます。
ピロリ菌の治療法
ピロリ菌の治療は、抗生物質と胃酸分泌を抑制する薬の併用が基本となります。以下は、一般的な治療法です。
1. 抗生物質
ピロリ菌を殺菌するために、複数の抗生物質を組み合わせて使用します。一般的に、アモキシシリンやクラリスロマイシンなどが使われます。治療は通常、1週間程度行われます。
2. 胃酸分泌抑制薬
プロトンポンプインヒビター(PPI)などの胃酸分泌を抑える薬を服用することで、胃粘膜の回復を促進します。これにより、抗生物質が効果的に作用しやすくなります。
3. 治療後の再検査
治療が終了した後、ピロリ菌が完全に排除されたかどうかを確認するために、再度検査を行うことがあります。再発を防ぐためには、治療が適切であったかどうかを確認することが重要です。
ピロリ菌の予防法
ピロリ菌の感染を予防するためには、以下の点に注意することが重要です。
1. 衛生的な生活習慣を守る
手洗いや食事前の衛生管理を徹底することで、ピロリ菌の感染リスクを減少させることができます。特に、外食時や飲み水に注意が必要です。
2. 食品の衛生管理
食材が清潔であることを確認し、調理時に十分な加熱を行うことが大切です。また、生水を避けることが推奨されます。
3. 定期的な健康チェック
ピロリ菌に感染しているかどうかを定期的にチェックすることも予防につながります。特に、胃の不調を感じた場合は早期に検査を受けることが大切です。
まとめ
ピロリ菌は、胃の健康に深刻な影響を及ぼす細菌です。感染している場合、胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんのリスクを高める可能性があります。早期に診断し、適切な治療を受けることが重要です。また、衛生的な生活習慣や定期的な検査を行うことで、予防にもつながります。