1. はじめに
物理学や数学における「ベクトル(または「ベクター」)」は、方向と大きさを持つ量として定義されます。スカラー量が単に大きさだけを持つのに対し、ベクトル量はその大きさに加え、特定の方向を持っているため、空間内の位置や運動、力の状態を記述するのに重要な役割を果たします。この記事では、ベクトルの基本的な概念からその計算方法、さらには応用例までを幅広く取り上げ、理解を深めていきます。
2. ベクトルの定義
ベクトルは、2つ以上の数値を組み合わせた順序付けられた数の集合として考えることができます。ベクトルは通常、矢印で表され、矢印の長さがその大きさ(絶対値)を、矢印の向きがその方向を示します。

例えば、物理学では速度、加速度、力などがベクトル量です。これらの量は大きさと方向を持ち、時には空間内でその位置や移動の具象的な表現を求められます。
3. ベクトルの表記方法
ベクトルは通常、太字で書かれたり、矢印(→)で記号化されます。例えば、ベクトルを v や v と書きます。さらに、3次元空間での位置ベクトル r の場合、その成分として (x,y,z) を使って表現されることがあります。すなわち、位置ベクトルは次のように書かれます:
r=(x,y,z)
また、2次元の場合には、v=(vx,vy) という形で記述します。
4. ベクトルの基本演算
4.1 ベクトルの加算
2つのベクトル a=(a1,a2,a3) と b=(b1,b2,b3) が与えられた場合、それらの加算は各成分ごとに行われます。すなわち、次のように計算されます:
a+b=(a1+b1,a2+b2,a3+b3)
ベクトルの加算は、幾何学的には、1つのベクトルの終点からもう1つのベクトルの始点を始めるような形で行われ、結果として得られるベクトルが二つのベクトルの和を表します。
4.2 ベクトルのスカラー倍
ベクトル a=(a1,a2,a3) をスカラー k と掛け算した場合、その結果は次のように計算されます:
ka=(ka1,ka2,ka3)
この演算では、ベクトルの大きさがスカラー k の値に比例して伸び縮みし、方向は変わりません。
4.3 ベクトルの内積
ベクトルの内積(またはドット積)は、2つのベクトル a=(a1,a2,a3) と b=(b1,b2,b3) に対して、次のように計算されます:
a⋅b=a1b1+a2b2+a3b3
内積はスカラー量を生成し、二つのベクトルがどれだけ同じ方向を向いているかを測る指標となります。内積がゼロの場合、2つのベクトルは直交(垂直)しています。
4.4 ベクトルの外積
ベクトルの外積(またはクロス積)は、2つのベクトルが張る平面に垂直なベクトルを求める操作です。次のように計算されます:
a×b=ia1b1ja2b2ka3b3
ここで、i,j,k は単位ベクトルです。外積の結果は新たなベクトルであり、このベクトルは2つの元のベクトルに直交します。
5. ベクトルの応用例
5.1 物理学におけるベクトル
物理学では、力、速度、加速度、運動量など、様々な現象がベクトル量で表現されます。例えば、運動の法則(ニュートンの運動法則)では、質量と加速度を掛け合わせて力を求める式 F=ma があります。この式では、力 F と加速度 a はベクトル量として表現されています。
5.2 コンピュータグラフィックスにおけるベクトル
コンピュータグラフィックスでもベクトルは重要な役割を果たします。3Dモデリングや画像処理において、ベクトルを用いて物体の位置、回転、スケーリングを表現することが一般的です。例えば、光の反射や屈折の計算では、ベクトルの内積や外積を用いて方向を求めます。
5.3 空間解析とベクトル
空間解析やCAD(コンピュータ支援設計)では、点、直線、平面の位置関係をベクトルを使って表現します。例えば、2つのベクトルが作る角度を求めることで、物体の配置や角度を正確に計算することができます。
6. ベクトルの重要性と結論
ベクトルは単に数学的な抽象概念にとどまらず、物理学や工学、コンピュータ科学など、多くの分野で実際的な応用がなされている重要なツールです。ベクトルの理解は、現代の科学技術の基盤を構成しており、その計算方法や応用範囲を把握することは、さまざまな問題解決に役立ちます。
ベクトル演算の基本をしっかりと理解し、その後の応用へと繋げていくことで、より深い洞察を得ることができるでしょう。