幕府時代のムアタジラ派(イバスィ派)の研究
ムアタジラ派は、アッバース朝時代に特に影響力を持ったイスラム教の神学的および哲学的な学派の一つです。この学派は、個々の信仰の自由や倫理的な問題、そして神学的な解釈において革新的な理論を提唱しました。ムアタジラ派の発展とその影響は、アッバース朝の政治、宗教、そして学問に深い足跡を残しました。本記事では、ムアタジラ派の起源、発展、主要な教義、そしてその影響について詳細に述べます。
ムアタジラ派の起源
ムアタジラ派は、8世紀から9世紀にかけて、アッバース朝の時代に興隆しました。その名の由来は、アラビア語の「イタジャラ」(避ける、拒絶する)にあります。この学派は、特に「人間の自由意志」と「神の絶対的な権限」というテーマにおいて独自の立場を取っていたことから、その名前が付けられました。
ムアタジラ派の創始者は、アリ・イブン・アビー・タリブに近い神学者たちであり、特にアッバース朝時代の宗教的緊張が高まる中で、信仰の自由と個人の判断力の重要性を強調しました。彼らは、伝統的なアラビアの神学を批判し、論理的な思考と哲学的な議論を基盤にした新たなアプローチを採用しました。
ムアタジラ派の教義
ムアタジラ派の最も特徴的な教義は以下の通りです:
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人間の自由意志と責任
ムアタジラ派は、人間には自由意志があり、神から与えられた選択の自由に基づいて行動すると信じていました。彼らは、善悪の判断が人間自身に委ねられていると考え、神が人間に道徳的責任を課していると主張しました。 -
神の正義
神の行動は常に正義に基づくものであり、神は決して不正を行わないという教義が強調されました。ムアタジラ派は、神が世界を創造した理由やその管理方法について深く考察し、神の正義に対する信念を体系化しました。 -
神の属性の理論
ムアタジラ派は、神の属性(例えば知恵や力)について哲学的に考察し、神の存在を人間の理性で理解できる範囲に収めようとしました。彼らは、神の属性がその本質と完全に一致しているとし、神の属性を形而上学的に解釈しました。 -
聖書の解釈における理性の重要性
ムアタジラ派は、イスラム教の聖典であるコーランを解釈する際に、理性と論理を用いることを強調しました。彼らは、単なる伝承や権威に基づく解釈を拒絶し、論理的な思考を重視しました。 -
永遠性の理論
ムアタジラ派は、コーランの言葉が創造される以前から存在していたと信じ、神の言葉(コーラン)は永遠であり、時間的な制約を受けないと考えました。この見解は、他の宗派との論争を引き起こしました。
ムアタジラ派の影響と衰退
ムアタジラ派は、アッバース朝の宗教的および政治的環境において大きな影響を与えました。特に、アッバース朝のカリフたちは、ムアタジラ派の教義を支持し、法的および行政的な改革においてその影響を受けました。彼らの哲学的な議論は、後のイスラム学や哲学の発展に大きな影響を与えました。
しかし、ムアタジラ派の影響力は次第に衰退しました。10世紀には、ムアタジラ派の教義に対する批判が強まり、特にアシュアリ派などの神学派が台頭する中で、ムアタジラ派の教義は徐々に主流から外れていきました。特に、ムアタジラ派の「人間の自由意志」の考え方が、神の全能を強調する他の派閥に対して弱点と見なされ、学問的にも政治的にも孤立を深めていきました。
ムアタジラ派の遺産
ムアタジラ派の教義は、現代イスラム学問においても一定の評価を受けています。特に、理性の使用や人間の倫理に対するアプローチは、近代のイスラム哲学や神学に影響を与えました。また、ムアタジラ派の自由意志に関する議論は、現代における倫理的・宗教的自由の問題にも関連しています。
ムアタジラ派の理論は、現代のイスラム世界における思想的復興の一因となっており、特に近代的な解釈や改革を求める思想家たちにとっては、その思想が再評価されることが多くなっています。
結論
ムアタジラ派は、アッバース朝時代における重要な神学的および哲学的な学派であり、その思想は、自由意志、倫理、神の正義に関する議論において深い影響を与えました。その教義と議論は、後のイスラム哲学における重要な基盤を築き、現代の思想にも影響を与え続けています。ムアタジラ派の衰退は、その過激な立場と他の学派との対立に起因しますが、その影響は今なおイスラム思想において色濃く残っています。
