メネトリエ病(Ménétrier病):病態、原因、診断、治療法についての包括的な解説
1. メネトリエ病とは?
メネトリエ病(Ménétrier病)は、胃粘膜の異常な肥厚を特徴とする稀な疾患であり、特に胃の大弯部に影響を及ぼします。この病気は「肥厚性胃炎」や「肥厚性胃症候群」とも呼ばれ、過剰な粘液分泌、胃酸の低下、タンパク質喪失を伴うことが特徴です。
フランスの病理学者ピエール・メネトリエ(Pierre Eugène Ménétrier)によって1888年に初めて報告され、この病態が彼の名前を冠することになりました。メネトリエ病は成人に発症することが多く、特に中年男性に多く見られますが、小児にも発症することがあります。
2. 病態生理学(メネトリエ病のメカニズム)
メネトリエ病の主な病理学的特徴は、胃粘膜の異常な増殖による肥厚と、胃腺の顕著な変性です。この疾患では、以下のような病態が進行します。
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胃粘膜の肥厚
- 胃の大弯部に特に影響を及ぼし、粘膜の顕著な肥厚が認められます。
- 内視鏡では「脳回状」のような外観を呈することが特徴的です。
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粘液分泌の増加と胃酸分泌の低下
- 粘液を産生する杯細胞(Goblet細胞)の増殖により、胃内腔に大量の粘液が蓄積します。
- 胃酸を分泌する壁細胞(Parietal cell)が減少し、結果として胃酸分泌が著しく低下します(低酸症)。
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タンパク質喪失性胃腸症(Protein-losing gastropathy)
- 胃粘膜の透過性が異常に増加し、アルブミンなどの血清タンパク質が胃内へ漏出するため、低アルブミン血症が生じます。
- 浮腫(むくみ)を伴う低タンパク血症が患者の主な症状となります。
3. メネトリエ病の原因と危険因子
メネトリエ病の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
原因・危険因子 | 説明 |
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サイトカイン(TGF-α) | 上皮成長因子(EGF)と類似のサイトカインであるTGF-α(Transforming Growth Factor-alpha)の異常な発現が、胃粘膜の過剰増殖を引き起こすと考えられています。 |
ヘリコバクター・ピロリ感染 | 一部の患者ではH. pylori感染が関与しており、除菌治療によって症状が改善するケースがあります。 |
自己免疫疾患との関連 | メネトリエ病は自己免疫機序が関与している可能性があり、特に自己免疫疾患を持つ患者に発症するケースが報告されています。 |
ウイルス感染(小児型) | 小児に発症するメネトリエ病の一部はサイトメガロウイルス(CMV)感染と関連していることが示唆されています。 |
4. メネトリエ病の症状
メネトリエ病の症状は、疾患の進行度や患者の体質によって異なりますが、以下のような症状が典型的です。
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消化器症状
- 上腹部痛(特に食後に悪化)
- 食欲不振(体重減少を伴うことが多い)
- 悪心・嘔吐
- 下痢
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タンパク質喪失による全身症状
- 低アルブミン血症による浮腫(特に下肢に顕著)
- 倦怠感
- 栄養不良
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出血性病変(まれ)
- 胃粘膜のびらんや潰瘍による出血
- 黒色便(メレナ)
5. 診断方法
メネトリエ病の診断には、臨床症状、内視鏡検査、組織学的検査、および画像診断が用いられます。
診断方法 | 目的・所見 |
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内視鏡検査 | 胃粘膜の著しい肥厚と脳回状の外観が特徴的。 |
生検(病理組織検査) | 胃腺の萎縮と粘液細胞の増殖を確認。 |
血液検査 | 低アルブミン血症(血清アルブミン値の低下)が見られる。 |
画像検査(CT、MRI) | 胃の肥厚を評価し、腫瘍との鑑別に使用。 |
ヘリコバクター・ピロリ検査 | H. pylori感染がある場合は、除菌治療が検討される。 |
6. 治療法
メネトリエ病の治療は、患者の症状や病態に応じて異なります。軽症例では対症療法が主体となりますが、重症例では外科的治療が必要になることもあります。
① 薬物療法
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸分泌を抑え、胃粘膜の炎症を軽減する。
- 抗ヒスタミン薬(H2ブロッカー):胃酸分泌を抑制し、胃粘膜を保護する。
- TGF-α受容体拮抗薬(セツキシマブ):成長因子の過剰作用を抑える新しい治療法として期待されている。
- 栄養管理(高タンパク食):低タンパク血症を改善するため、タンパク質を補充する食事療法が重要。
② ヘリコバクター・ピロリの除菌治療
H. pylori感染が確認された場合は、抗生物質とPPIを用いた除菌療法を行う。
③ 外科的治療(胃切除)
- 重症例や薬物療法に反応しない場合、胃の一部を切除する手術(部分胃切除術)が行われる。
- 低アルブミン血症が重度で栄養補給が困難な場合は、全摘術が検