科学的定義と法則

モーター巻線技術の基本

電動機(モーター)の巻線法則、いわゆる「モーターの巻線規則(巻線方式)」は、電磁誘導と磁界の原理に基づき、電気エネルギーを機械エネルギーへと変換する回転機構の基礎構造に関わる極めて重要な技術である。モーターの性能、効率、トルク特性、始動方式、温度上昇など、あらゆる要素に深く関係する巻線方式の理解は、電気工学や電力機器設計において不可欠である。本稿では、巻線に関する物理法則、設計上の基本的要素、巻線の分類、巻線法則の計算手法、そして最新の技術応用までを包括的に論じる。


1. モーター巻線の基本原理

電動機の基本構造は、主に「固定子(ステーター)」と「回転子(ローター)」から成り、巻線はこの固定子や回転子に取り付けられた鉄心(コア)に施される。巻線に電流を流すと磁界が発生し、回転磁界または相互作用によりローターにトルクが発生する。

アンペールの法則とビオ・サバールの法則

モーターの巻線から生じる磁界は、次のような電磁気学的法則によって記述される。

  • アンペールの法則

    Bdl=μ0I\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 I

    これは、閉回路における磁束密度 B\vec{B} の線積分が、その中を通る電流 II に比例することを示す。

  • ビオ・サバールの法則

    電流要素から発生する磁界を局所的に求めるために用いられる。

これらの法則により、巻線の配置や電流の流れ方が磁界の強さや方向にどのように影響するかを予測できる。


2. 巻線の分類

巻線は構造と機能に応じて複数の分類が存在する。以下に主要な分類法を示す。

分類基準 巻線の種類 特徴
構造 集中巻(コンセントリック巻) 各極に対して一つのコイルが集中配置
分布巻(ラップ巻またはウェーブ巻) コイルが複数のスロットに分布して配置
回路構成 単相巻線、三相巻線 家庭用小型機器から産業用大出力機器まで対応
スロット形状 開スロット、半閉スロット、閉スロット 磁束漏れ、冷却性、製造性に影響
巻き方 ラップ巻(重ね巻)、ウェーブ巻(波巻) 大型機に多用されるラップ巻、電圧高低によって切替

3. スロットとポール数の関係

巻線設計では、スロット数(S)ポール数(P)、**相数(m)**の関係が非常に重要である。特に三相交流モーターでは、これらの要素がトルクの滑らかさや起動トルクに直結する。

スロットごとのコイルピッチ(短絡係数)や分布係数なども巻線の設計において重要なファクターであり、電磁力や効率を決定する。

パラメータ 説明
スロット数 SS 鉄心に設けられた巻線を収納する溝の数
極数 PP モーターの磁極の数
相数 mm 一般に三相(m=3)

スロットピッチは

τ=360S\tau = \frac{360^\circ}{S}

コイルピッチが整数倍であれば全巻線が対称になり、トルクリップルが最小化される。


4. 巻線係数の計算

巻線設計において重要な係数として、以下の3つが存在する。

  • コイルピッチ係数(短絡係数) kpk_p

    kp=cos(α2)k_p = \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right)

    α\alpha:コイルの短絡角度(電気角度)

  • 分布係数 kdk_d

    kd=sin(qα2)qsin(α2)k_d = \frac{\sin\left(\frac{q\alpha}{2}\right)}{q \cdot \sin\left(\frac{\alpha}{2}\right)}

    qq:1相あたりのスロット数

  • 巻線係数 kwk_w

    kw=kpkdk_w = k_p \cdot k_d

この巻線係数 kwk_w が高いほど、磁束と電流のエネルギー変換効率が向上する。


5. 巻線の冷却と絶縁

モーターの信頼性と寿命において、巻線の熱対策は極めて重要である。巻線は通電によりジュール熱を発生し、これを適切に放熱しないと絶縁劣化や焼損に繋がる。

冷却方式:

  • 自然冷却(空冷)

  • 強制空冷(ファン付き)

  • 水冷式

  • 油冷式(主に高圧機器)

巻線にはエナメル線やガラス被覆線が用いられ、F種(155℃)、H種(180℃)などの耐熱等級に分類される。


6. 実際の巻線設計手順

モーター設計において巻線を決定する際の一般的な手順は以下の通りである。

  1. 電源条件(電圧、周波数、相数)を確認

  2. 極数、回転速度、出力を設定

  3. スロット数と巻線方式を選択

  4. 巻数、コイルピッチ、スロット割り当てを計算

  5. 巻線係数や誘導電圧、トルクをシミュレーション

  6. 冷却方式、絶縁材の選定

ここでのシミュレーションには有限要素法(FEM)が用いられることが多く、ANSYS MaxwellやJMAGなどが利用される。


7. 巻線方式の選択と応用例

巻線方式 特徴 適用例
集中巻 制御性高い、小型モーター向け EV用インホイールモーター
分布巻 効率高くトルクリップル小さい 発電機、産業用大型モーター
波巻(ウェーブ巻) 高電圧対応可能、構造複雑 発電所タービン発電機
ラップ巻 構造が簡単で、手巻きが容易 教育用途や小型実験装置

8. 最新技術と巻線の進化

巻線は近年、以下のような技術革新によりさらなる高性能化が進んでいる。

  • ヘアピン巻線:整列性と冷却性に優れ、自動車用に普及中

  • 3次元巻線構造:空間利用効率の最適化

  • Litz線(多本撚り線):高周波による表皮効果を軽減

  • AIを用いた巻線最適化設計:材料削減と効率最大化を同時に達成


9. 日本国内における巻線技術の発展

日本では日立製作所、東芝、三菱電機などの大手メーカーに加え、精密モーターを製造する中小企業群が高精度の巻線技術を保持している。とくに自動車用駆動モーターや高効率産業用モーター分野での巻線設計と制御技術は、世界的にも高い評価を受けている。


10. 結論

巻線技術は単なる導線の配置ではなく、電磁現象の制御、熱管理、効率設計の複合要素を統合した高度な工学領域である。モーター性能における巻線の影響は絶大であり、適切な巻線設計こそがモーターの寿命と信頼性、そしてエネルギー効率を決定づける。今後も持続可能な社会において、高効率モーターの需要は増加しており、巻線技術の進化とともに電動機の未来もまた明るいといえる。


参考文献

  1. 鈴木一郎著『電動機の巻線設計入門』オーム社, 2019年

  2. JMAG User Manual, JSOL株式会社

  3. 村田製作所『巻線方式と効率設計の関係』技術白書, 2022年

  4. IEEE Transactions on Industrial Electronics, 2023年特集号「Winding Techniques in High Performance Motors」

  5. 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 資料集(2021年)


日本の技術者こそが世界を牽引する存在であるという誇りとともに、本稿を捧げる。

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