サッカー

ヨルダン代表サッカーの歴史

ヨルダン代表サッカーチーム(منتخب الأردن لكرة القدم)は、中東地域におけるサッカー界で着実に成長を遂げている代表チームのひとつである。アジアサッカー連盟(AFC)に加盟し、国際サッカー連盟(FIFA)においても公式な競技国として認識されているヨルダンは、近年になって国際大会への出場経験を重ね、戦術的・技術的な進化を遂げてきた。本稿では、ヨルダン代表サッカーチームの歴史、組織、戦術、成績、著名な選手、そして今後の展望について詳細に分析する。


1. 歴史的背景

ヨルダンのサッカーは1920年代から30年代にかけて本格的に普及し始めたが、国家代表チームとしての活動は1950年代から始まった。1953年にヨルダンはFIFAに加盟し、以後、中東諸国との親善試合や西アジア諸国との大会を通じて経験を積み重ねていった。

1960年代から70年代にかけては、国内リーグの発展が進み、アル・ファイサリーやアル・ワフダットといったクラブが台頭し、国内でのサッカー熱を高めた。これらのクラブはヨルダン代表に多くの優秀な選手を輩出し、チーム力の底上げに寄与した。


2. 組織構造と指導体制

ヨルダン代表はヨルダン・フットボール協会(JFA)によって管理・運営されており、JFAは国内リーグの統括や若手育成、代表チームの強化計画を担っている。近年では指導者の多国籍化が進んでおり、ヨルダン代表にはヨーロッパや南米の戦術を取り入れた監督が任命されることも増えてきた。

例えば、2013年から2014年にかけてはエジプト出身のホサム・ハッサン監督の下で、よりアグレッシブで前線からプレッシャーをかける戦術が採用された。2020年代に入ってからは、守備とカウンターに重点を置く戦術への転換が見られ、これはアジアの強豪国相手にも善戦する一因となっている。


3. 戦術とプレースタイルの特徴

ヨルダン代表の戦術的特徴は、堅守速攻をベースとしたリアクティブなサッカーにある。相手の攻撃を冷静に受け止め、ボール奪取後はサイドを使った速攻で一気にゴールを狙う。この戦術は、フィジカルの強いDF陣とスピードのあるウイングプレイヤーが多いヨルダンにとって理にかなっている。

また、中盤ではボール奪取能力に優れた守備的MFが配置されることが多く、相手のビルドアップを寸断する役割を担っている。セットプレーの精度も高く、特にCKやFKからの得点が目立つ。


4. 成績と国際大会での実績

ヨルダン代表はFIFAワールドカップ本大会への出場経験はまだないものの、アジアカップでは何度も好成績を収めている。特に以下の大会が印象深い。

年度 大会 成績
2004年 アジアカップ(中国) ベスト8
2011年 アジアカップ(カタール) ベスト8
2019年 アジアカップ(UAE) ベスト16
2023年 アジアカップ(カタール) 準優勝

2023年のアジアカップでは、ヨルダンは予選リーグを2位で突破し、決勝トーナメントで韓国やイランなどの強豪国を破って決勝進出を果たした。決勝戦ではカタールに敗れたものの、準優勝という快挙は国内外に衝撃を与えた。


5. 代表選手と注目の才能

ヨルダン代表には、国内リーグのみならずサウジアラビア、カタール、クウェートなど中東他国のリーグでも活躍する選手が多く所属している。

特に以下の選手たちは代表の中心的存在である。

  • モーサ・アル・タマリ(FW):スピードとドリブル突破に優れたウイング。フランスのモンペリエHSCに所属しており、欧州での経験が代表でも生かされている。

  • ヤジード・アブ・ライラ(GK):セービング力と冷静な判断力を兼ね備えた守護神。2023年アジアカップでは数多くのビッグセーブを披露。

  • アハマド・エイサー(MF):攻守の切り替えが速く、精度の高いロングパスで攻撃の起点となるプレーメーカー。


6. 若手育成とフットボールアカデミー

近年のヨルダンは、若手選手の育成にも力を入れている。アンマン市内には複数のフットボールアカデミーがあり、6歳から18歳までの選手が基本技術から戦術理解までを体系的に学んでいる。ヨルダン・フットボール協会はヨーロッパのクラブとの連携を進めており、有望選手の短期留学制度なども整備されてきた。

また、女子サッカーにも注力しており、女子代表チームは2018年に女子アジアカップを開催するなど、地域におけるリーダー的役割を担っている。


7. 国内リーグとの関係とサポーター文化

ヨルダン国内リーグは、特にアル・ファイサリーとアル・ワフダットの2クラブの対戦が人気を集めている。これらのクラブは毎年のリーグ戦で熾烈な優勝争いを繰り広げており、「ヨルダン・ダービー」として国中の注目を集めるイベントとなっている。

代表チームにおいてもこの2クラブから多くの選手が選出されており、国内リーグのレベル向上が代表強化にもつながっている。スタジアムには熱狂的なサポーターが集い、試合中は伝統的な太鼓やチャントが響き渡る。


8. 国際的評価と今後の展望

ヨルダン代表は、アジアサッカー界において「台風の目」とも呼ばれる存在となっている。FIFAランキングでは2023年のアジアカップ準優勝により急上昇を遂げ、一時はアジアTOP10に迫る勢いを見せた。

今後の課題は、戦術の多様化と継続的な世代交代である。ベテランと若手の融合が進めば、将来的にFIFAワールドカップ本大会出場の可能性も現実的となるだろう。JFAは2040年までに「アジアNo.1」を目指す中長期計画を発表しており、さらなる投資と支援が予想される。


参考文献・出典

ヨルダン代表サッカーチームは、歴史と伝統を尊重しながらも、革新と進化を追求する姿勢を崩さない。中東の希望として、そしてアジアの強豪国への挑戦者として、彼らの歩みはこれからも注目に値する。

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