医学と健康

リウマチ熱の完全ガイド

リウマチ熱 (Rheumatic fever) に関する完全かつ包括的な解説

リウマチ熱は、A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)による感染、特に喉の感染症(急性咽頭炎や扁桃炎)に続いて発症することが多い自己免疫性疾患です。主に小児や若年成人に見られるこの疾患は、心臓、関節、皮膚、神経系など、さまざまな臓器に影響を与える可能性があり、その長期的な合併症としてリウマチ性心疾患が特に問題となります。リウマチ熱は世界中で見られますが、特に発展途上国において多くの症例が報告されています。この記事では、リウマチ熱の病態生理、症状、診断方法、治療法、予防策について詳しく解説します。

1. リウマチ熱の病態生理

リウマチ熱は、A群β溶血性連鎖球菌による咽頭感染後に発症する免疫系の異常反応として説明されます。感染が引き金となり、免疫系が誤って自己の組織を攻撃する自己免疫反応が引き起こされます。この免疫反応によって、細菌の細胞壁に含まれる成分と似た構造を持つ人体の組織(特に心臓、関節、皮膚、神経系)が標的となります。

リウマチ熱は、感染後の2~4週間で発症することが多いですが、発症までの期間は個人差があります。リウマチ熱を引き起こす細菌は、通常、急性咽頭炎や扁桃炎の原因となりますが、この感染症に対して適切な抗生物質治療が行われない場合、免疫系の異常反応が発症するリスクが高まります。

2. リウマチ熱の症状

リウマチ熱の症状は多岐にわたり、急性期には関節、皮膚、心臓、神経系に影響を与えます。最も特徴的な症状としては以下が挙げられます。

(1) 関節症状

リウマチ熱では、関節に急性の炎症が生じることがあります。この症状は「移動性関節炎」として知られ、最初に膝や足首など大きな関節に炎症が現れ、その後、他の関節に移動することが特徴です。関節は腫れ、痛みを伴い、発赤や熱感を伴うこともあります。関節症状は通常数週間内に治癒しますが、治療が遅れると慢性化する可能性もあります。

(2) リウマチ性心疾患

リウマチ熱の最も重要な合併症はリウマチ性心疾患であり、心臓の内膜(心内膜)や弁に損傷を与えることがあります。心臓弁膜に炎症が生じ、これが繰り返されることで、弁の変形や機能不全を引き起こす可能性があります。最も影響を受けやすいのは、僧帽弁や大動脈弁です。リウマチ性心疾患は、特に成人期に心不全や不整脈を引き起こす原因となることがあります。

(3) 神経系の症状(舞踏病)

神経系に関する症状は、「舞踏病」(Sydenham’s chorea)として知られ、リウマチ熱の後に発症することがあります。これは、手足が無意識に動く不随意運動を特徴とする病態であり、特に小児に多く見られます。舞踏病は通常、数か月以内に回復しますが、症状が長引くこともあり、精神的な影響を及ぼすこともあります。

(4) 皮膚症状

リウマチ熱に関連した皮膚症状として、「紅斑」(erythema marginatum)が挙げられます。これは、皮膚に赤い斑点が現れ、周囲が白くなっている特徴的な発疹です。紅斑は通常、体幹や四肢に現れ、長時間続かないことが多いです。

3. リウマチ熱の診断

リウマチ熱の診断は、臨床症状や病歴に基づいて行われますが、確定診断にはいくつかの基準が設けられています。最も広く使用されているのは「ジョーンズ基準」(Jones Criteria)で、これは次の2つのカテゴリーを基に診断されます。

(1) 主徴候(Major Criteria)

  1. 心臓病(リウマチ性心疾患)

  2. 移動性関節炎

  3. 舞踏病

  4. 紅斑

  5. 皮下結節(皮膚の下にしこりが現れる)

(2) 副徴候(Minor Criteria)

  1. 発熱

  2. 関節痛

  3. 心拍数の増加

  4. 血液検査での異常(急性期反応、例えばC反応性タンパク質の上昇)

診断は、主徴候と副徴候を組み合わせて評価されます。感染歴や前回の咽頭感染症の有無も重要な診断要素となります。

4. リウマチ熱の治療

リウマチ熱の治療は、症状を軽減し、リウマチ性心疾患やその他の合併症を予防することを目的としています。

(1) 抗生物質療法

リウマチ熱の治療において最も重要なのは、A群β溶血性連鎖球菌による感染の治療です。これにより、炎症反応を抑制し、合併症を予防することができます。ペニシリンが最も一般的に使用される抗生物質であり、感染症の再発を防ぐために、数週間にわたり投与されることがあります。

(2) 抗炎症薬

リウマチ熱の症状(特に関節炎)を軽減するために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンが使用されることがあります。これらの薬剤は炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。

(3) ステロイド療法

重症例や心疾患が関与する場合、ステロイド薬(プレドニゾロンなど)が使用されることがあります。ステロイドは炎症を強力に抑制し、心臓や神経系の障害を防ぐために重要です。

5. リウマチ熱の予防

リウマチ熱は予防が可能な疾患であり、最も効果的な方法は早期の喉の感染症の治療です。A群β溶血性連鎖球菌による咽頭感染症に対して、抗生物質(通常はペニシリン)を早期に投与することで、リウマチ熱の発症を防ぐことができます。

また、再発予防のために、リウマチ熱にかかった後は、長期間にわたりペニシリンを予防的に服用することが推奨されることがあります。特に、リウマチ熱の再発を防ぐためには、学校や集団生活における感染予防策も重要です。

6. 結論

リウマチ熱は、急性咽頭炎に続いて発症する自己免疫性疾患で、関節、心臓、皮膚、神経系に広範な影響を及ぼします。早期発見と適切な治療が予後を大きく改善します。リウマチ熱を予防するためには、喉の感染症に対する適切な抗生物質治療が不可欠であり、再発予防にも継続的な注意が必要です。

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