都市と国

世界のイスラム国家数

世界に存在するイスラム諸国の数とその特性についての議論は、単に数を数えるだけでは済まされない複雑な問題である。イスラム国家とは何かという定義から始まり、その地理的分布、人口、政治体制、宗教的実践の違いなど、多面的な観点から検討する必要がある。この記事では、イスラム諸国の数をめぐる議論を多角的に分析しながら、現代世界におけるイスラム国家の実態とその重要性を明らかにしていく。


イスラム国家の定義:何をもって「イスラム国家」とするのか

「イスラム国家」という語は一般的に、国民の多数がイスラム教徒である国、あるいはイスラム法(シャリーア)を法制度の一部として採用している国家を指す。しかし、国際的に一貫した定義が存在しないため、以下のように分類することができる。

  1. 公式にイスラム教を国教と定めている国

    これらの国々では、憲法などの国家基本法においてイスラム教が国教であると明示されている。例として、サウジアラビア、イラン、モーリタニアなどが挙げられる。

  2. イスラム法(シャリーア)を司法制度に組み込んでいる国

    イスラム法が刑法、家族法、民法の中で活用されている国が該当する。パキスタン、ナイジェリア(北部)、スーダンなどが例である。

  3. 国民の多数がイスラム教徒であるが、世俗主義を採用している国

    インドネシアやトルコなどは国民の多数がイスラム教徒であるが、国家としては世俗主義を掲げており、宗教と政治を明確に分離している。


世界におけるイスラム国家の数

一般的に「イスラム国家」と見なされる国の数は約50か国とされているが、その数は定義の違いや政治的観点によって変動する。ここでは、主に以下の3つの基準から該当国を分類し、最終的な数を提示する。

分類 該当国数 備考
国教としてイスラム教を明記 約27か国 憲法に明示されている国
イスラム法を適用 約35か国 一部適用を含む
イスラム教徒が国民の多数派 約57か国 国教としては未定義の国も含む

最も包括的な定義、すなわち「イスラム教徒が人口の過半数を占める国」という基準で見た場合、現在世界には57か国のイスラム国家が存在する。この数は、1969年に設立された「イスラム協力機構(OIC)」の加盟国数と一致している。


イスラム協力機構(OIC)加盟国

OIC(Islamic Cooperation Organization)は、イスラム教徒の利益を守り、加盟国間の協力を促進することを目的とした国際機関である。2025年現在、OICには57か国が加盟しており、アジア、アフリカ、中東、ヨーロッパにまたがって広く分布している。

以下に、OIC加盟国の代表的な地域別の分類を示す。

アジア(中東・中央アジア・南アジアを含む)

  • サウジアラビア

  • イラン

  • イラク

  • パキスタン

  • インドネシア

  • マレーシア

  • バングラデシュ

  • アフガニスタン

  • ウズベキスタン

  • カザフスタン など

アフリカ

  • エジプト

  • モロッコ

  • アルジェリア

  • チュニジア

  • スーダン

  • セネガル

  • マリ

  • ナイジェリア(人口の約半分がイスラム教徒)

  • ニジェール

  • ソマリア など

中東

  • ヨルダン

  • シリア

  • レバノン

  • クウェート

  • バーレーン

  • カタール

  • アラブ首長国連邦

  • オマーン

  • イエメン など

ヨーロッパ

  • トルコ

  • アルバニア

  • ボスニア・ヘルツェゴビナ(イスラム教徒の割合が高い)


人口規模と分布

世界のイスラム教徒の人口は約20億人に達し、世界人口の4分の1近くを占めている。最大のイスラム国家はインドネシアであり、2億人以上のイスラム教徒が暮らしている。以下に、主なイスラム国家とそのイスラム教徒人口(概算)を示す。

国名 イスラム教徒人口(概算)
インドネシア 約2億3000万人
パキスタン 約2億2000万人
インド(国家としては非イスラム) 約2億人(少数派だが世界3位)
バングラデシュ 約1億7000万人
ナイジェリア 約1億人(南部はキリスト教徒)
エジプト 約1億人
トルコ 約8500万人
イラン 約8500万人
エチオピア 約4000万人(国教ではない)
アルジェリア 約4300万人

政治的体制とイスラムの位置づけ

イスラム国家の政治体制は一様ではなく、王制、共和制、軍事政権、民主主義体制までさまざまである。特に注目すべきは、以下のような体制の違いである。

  1. 神権政治(イスラム神権主義)

    例:イランでは、最高指導者が宗教指導者であり、国家の法制度はシャリーアに基づいている。

  2. 王政とイスラムの結合

    例:サウジアラビアでは国王がイスラムの守護者としての地位を有し、イスラム法が法体系の基礎となっている。

  3. 世俗主義国家

    例:トルコは建国以来、世俗主義を基本とし、憲法上は宗教から独立した国家を維持しているが、近年はイスラム的要素が強まっている。


現代世界におけるイスラム国家の意義

イスラム国家は、単に宗教的な枠組みにとどまらず、地政学的、経済的にも世界に大きな影響を及ぼしている。石油資源を多く持つ中東諸国は国際エネルギー市場における中心的存在であり、また、イスラム金融(シャリーア準拠金融)の発展はグローバル経済にも波及効果をもたらしている。


結論:57という数の意味

最も広く認識されている基準では、世界には57か国のイスラム国家が存在するとされている。この数は、OICの加盟国数に基づいており、世界の地域的バランス、人口構成、政治体制の多様性を象徴している。イスラム国家という枠組みは、今後の国際社会においても文化的・宗教的対話の鍵を握る存在であり、正確な理解と継続的な研究が求められている。


参考文献

  • Pew Research Center: The Future of the Global Muslim Population (2021)

  • Organisation of Islamic Cooperation (OIC) Official Website

  • CIA World Factbook

  • 国際連合開発計画(UNDP)報告書(2024年版)


日本の読者の皆様には、こうした多様なイスラム国家の姿を知ることを通じて、国際社会における宗教的・文化的な共存の理解を深めていただければ幸いである。

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