人工透析(ガンギョウこうき)の実施は、腎不全の進行を遅らせ、命を救うために欠かせない治療方法の一つです。しかし、長期間にわたる透析には、身体にさまざまな影響を及ぼす可能性があり、そのデメリットや副作用についても理解しておくことが重要です。この記事では、人工透析の悪影響に焦点を当て、透析によって引き起こされる可能性のある問題について詳しく説明します。
1. 透析による体への負担
透析は、体外で血液をろ過する過程で行われますが、この過程には体に一定の負担がかかります。特に、血液が透析器を通る際に発生する圧力変動や、血液量が一時的に減少することが体にストレスを与えます。このため、透析治療を受ける患者は、以下のような問題に直面することがあります。

1.1 低血圧
透析治療中に血液が体外に引き出されるため、急激に血液量が減少し、一時的に低血圧(血圧が著しく低くなる状態)が発生することがあります。これが引き起こす症状として、めまいや立ちくらみ、頭痛、倦怠感などが報告されています。低血圧が長期間続くと、心臓への負担が増し、心疾患を引き起こすリスクが高まります。
1.2 血液の凝固
透析中に血液が器械内で過剰に接触し、凝固することがあります。これにより、透析の効率が低下し、血液の循環に問題を生じる可能性があります。凝固を防ぐためには抗凝固薬が使われますが、この薬剤の使用により出血のリスクが高まることがあります。
2. 心血管系への影響
人工透析の患者において、心血管系の病気が頻繁に見られます。透析を受けている患者は、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患のリスクが高いことがわかっています。これは、透析が血管に与える影響や、腎機能が低下することによって生じる血液の粘度の変化が原因です。
2.1 動脈硬化
腎機能が低下すると、体内でのカルシウムとリンの代謝が乱れ、血管壁にカルシウムが沈着することがあります。この状態が進行すると、動脈硬化を引き起こし、血流が阻害されるため、心臓や脳への血流が減少します。透析を受ける患者は、この動脈硬化による心血管疾患を予防するための治療が必要となります。
2.2 心不全
透析患者の多くは、心不全のリスクが高いとされています。これは、透析によって体内の水分バランスが急激に変化し、心臓に過剰な負担がかかるためです。透析中の水分除去が過剰である場合、心不全を引き起こす原因となることがあります。
3. 骨・筋肉への影響
人工透析は腎臓の機能を補う役割を果たしますが、腎臓が行う重要な役割の一つに骨の健康を保つことがあります。腎不全により、この機能が失われるため、骨密度が低下し、骨折のリスクが高まります。また、透析中のリンやカルシウムのバランスが崩れることにより、骨の健康に悪影響を及ぼします。
3.1 骨粗しょう症
透析患者では、骨密度が低下しやすく、骨粗しょう症のリスクが高まります。特にリンの蓄積が原因となることがあり、骨に沈着したリンが骨をもろくし、骨折を引き起こしやすくします。
3.2 筋肉の衰弱
透析患者は、筋肉の萎縮や弱化を経験することがあります。これは、長期にわたる腎不全による栄養不足や、体内の水分バランスの変化、また透析に伴う過度の疲労が原因です。筋肉の弱化は、生活の質を低下させ、日常的な動作に支障をきたすことがあります。
4. 免疫系への影響
腎不全患者は、免疫機能が低下していることが多く、感染症にかかりやすくなる傾向があります。透析中に感染が発生すると、感染症の治療が困難になることがあります。また、透析に使用される器械や針による感染リスクも存在します。
4.1 感染症
透析中に血液を引き出すため、針を使用する際に細菌が体内に侵入することがあります。これが感染症を引き起こし、特に血液感染症(菌血症)や透析に使用する血管への感染が問題となることがあります。
4.2 慢性の疲労感
透析を定期的に受けることで、患者は慢性的な疲労感を感じることがあります。この疲労感は、免疫系が弱まり、身体の自然治癒力が低下することに関係しています。また、透析を受けるたびに身体が消耗し、その回復に時間がかかるため、日常的な疲労感が慢性化することがあります。
5. 精神的な影響
人工透析を受ける患者は、肉体的な症状だけでなく、精神的なストレスや不安も抱えることが多いです。透析治療は長期間にわたるため、患者は病気に対する不安や生活の質の低下、社会的な孤立感を感じることがあります。透析患者の心理的なサポートは、治療の効果を高めるためにも重要です。
5.1 不安・抑うつ
長期間の透析治療は、患者に精神的な負担を強いることがあり、特に抑うつ症状が現れることがあります。透析を受けることで、生活が制約され、仕事や家庭での役割が果たしにくくなることが原因となります。
5.2 社会的孤立
透析治療を受けるために病院に通うことが多いため、患者は社会的なつながりを失いがちです。これは、孤立感や精神的な疲れを引き起こす要因となり、治療へのモチベーションを低下させることがあります。
6. 透析の将来的な展望
透析は、腎不全患者にとって命をつなぐ治療法ですが、改善の余地が残されています。今後、透析技術の進歩や新しい治療法の登場により、透析に伴う副作用や影響を最小限に抑えることができるようになることが期待されています。また、腎移植や再生医療の進展も、透析に代わる新しい治療方法として注目されています。
結論
人工透析は、腎不全患者にとって非常に重要な治療法ですが、その過程で身体に与える影響を無視することはできません。透析の悪影響を理解し、適切な対策を講じることが、患者の健康管理において不可欠です。透析を受けている患者には、医師や看護師と連携して、生活習慣の改善や合併症の予防に取り組むことが求められます。