内耳の障害によるめまい(Vertigo caused by labyrinthine disturbances)
内耳の障害は、めまいやバランスの乱れを引き起こす一般的な原因となります。めまいは、しばしば「回転感」や「フワフワ感」として表現され、これが生活の質に大きな影響を及ぼすことがあります。特に内耳に関連する障害は、めまいの原因として多くのケースで見られ、その中でも最も一般的なものは「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」や「メニエール病」などです。この記事では、内耳の障害によるめまいについて、原因、症状、診断方法、治療法などを詳細に解説します。
1. 内耳の構造と機能
内耳は、耳の奥に位置する非常に重要な器官で、聴覚とバランスの維持に関わる役割を果たしています。内耳は大きく分けて「蝸牛(かぎゅう)」と「前庭(ぜんてい)」という2つの主要な部分に分かれています。蝸牛は音の信号を処理し、前庭は体の平衡感覚を管理します。前庭には、耳石器(じせきき)や半規管(はんきかん)という構造が含まれており、これらが身体の位置や動きを感知し、脳に信号を送ることで平衡を保つ役割を担っています。
2. 内耳の障害によるめまいの原因
内耳の障害が原因となるめまいは、様々な疾患や状態から発生します。主な原因としては以下のものがあります。
2.1 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、内耳の前庭にある半規管内の耳石(小さなカルシウムの粒)が異常に動き、めまいを引き起こす状態です。BPPVは、特定の頭の位置を取ることで発症し、通常は数秒から数分間続きます。このめまいは、身体の動きに関連して突然起こるため、患者は日常生活で困難を感じることが多いです。
2.2 メニエール病
メニエール病は、内耳における液体の異常な蓄積が原因となり、聴力低下や耳鳴り、さらに激しいめまいを引き起こす疾患です。メニエール病の特徴的な症状は、突発的な回転性のめまい、耳の詰まり感、そして聴力の低下です。発作は数時間から数日にわたって続くことがあり、発作の間に症状が繰り返されることがあります。
2.3 前庭神経炎
前庭神経炎は、内耳の前庭神経が炎症を起こし、突然の強いめまいを引き起こす疾患です。この状態は通常、風邪やウイルス感染症の後に発症することが多いです。前庭神経炎は、めまいが持続的であり、数日から数週間にわたって続くことがあります。
2.4 ラボリント症(Labyrinthitis)
ラボリント症は、内耳の中にある蝸牛と前庭が炎症を起こし、聴力とバランスに影響を与える病態です。これはウイルスや細菌によって引き起こされることが多く、感染症が原因となることがあります。ラボリント症は、突然のめまいに加えて、聴力低下や耳鳴りを伴うことが特徴です。
2.5 突発性難聴
突発性難聴は、原因が不明のまま突然聴力が低下する状態ですが、内耳の障害が関与している場合もあります。めまいが発症することもあり、患者の生活に大きな影響を与えます。
3. 内耳の障害によるめまいの症状
内耳に関連するめまいの症状は、疾患や障害によって異なりますが、一般的な症状として以下のものがあります。
-
回転性めまい: まるで周囲が回転しているように感じること。BPPVやメニエール病でよく見られます。
-
不安定感: 立っているときや歩いているときにフラフラしたり、足元が不安定に感じたりすること。
-
耳鳴り: めまいと一緒に耳鳴りが生じることがよくあります。特にメニエール病で多く見られます。
-
聴力低下: メニエール病やラボリント症では、めまいとともに聴力が低下することがあります。
4. 診断方法
内耳の障害によるめまいの診断は、詳細な病歴の聴取と、いくつかの診断テストを通じて行われます。以下は代表的な診断方法です。
4.1 耳鼻咽喉科での診察
医師は、患者の症状や発症時期、引き金となる動作を詳しく聞き取ります。また、耳や目、神経系の検査を行い、めまいの原因を特定します。
4.2 前庭機能検査
前庭機能検査では、目の動きや体のバランスを測定し、内耳の障害の有無を確認します。眼振(がんしん)テストなどが行われることがあります。
4.3 MRIやCTスキャン
MRIやCTスキャンは、脳や内耳の構造に異常がないかを確認するために使用されます。これにより、腫瘍や血管の異常など、他の疾患が原因である可能性を排除します。
5. 治療法
内耳の障害によるめまいの治療は、原因となる疾患や症状の重症度によって異なります。以下は一般的な治療法です。
5.1 薬物療法
めまいの発作を抑えるために、抗めまい薬や抗ヒスタミン薬、または抗不安薬が処方されることがあります。メニエール病や前庭神経炎の場合、ステロイド薬が使用されることもあります。
5.2 リハビリテーション
良性発作性頭位めまい症(BPPV)では、特定の頭の位置を取ることで耳石を元に戻す治療法(エプレー法など)が行われます。また、前庭リハビリテーションも、めまいの予防と改善に役立つ場合があります。
5.3 手術
薬物療法やリハビリが効果を示さない場合、メニエール病や他の内耳の障害に対して手術が検討されることがあります。内耳の一部を取り除く手術や、迷走神経を刺激する手術が行われることがあります。
6. まとめ
内耳の障害によるめまいは、生活に深刻な影響を与えることがあります。しかし、適切な診断と治療によって、多くの患者は症状の改善が可能です。めまいの原因となる疾患には、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎、ラボリント症などがあります。もしめまいを感じた場合は、早期に専門医を受診し、原因を特定して適切な治療を受けることが重要です。
