副甲状腺ホルモン(PTH)は、骨、腎臓、腸においてカルシウムとリンの代謝を調節する重要なホルモンです。副甲状腺ホルモンが不足することは、副甲状腺機能低下症(Hypoparathyroidism)という病態を引き起こします。この病気は、カルシウムの不足とリンの増加を招き、さまざまな症状を引き起こします。以下では、副甲状腺ホルモンの不足に伴う症状について、詳細に解説します。
1. カルシウム不足による症状
副甲状腺ホルモンは、体内のカルシウム濃度を適切に保つ役割を果たしています。副甲状腺ホルモンが不足すると、カルシウムが血中で低下し、低カルシウム血症を引き起こします。これにより、以下のような症状が現れることがあります。

a. 筋肉のけいれん
低カルシウム血症が進行すると、筋肉の収縮異常が起こります。これにより、手足の痙攣(けいれん)や引きつりが発生することがあります。特に、顔面や手足の小さな筋肉が影響を受けやすいです。
b. 手足のしびれやチクチク感
低カルシウム血症は、神経の興奮性を高めるため、手足にしびれやチクチク感が生じることがあります。この症状は、通常、顔、手、足の指先に現れやすいです。
c. 筋力の低下
カルシウム不足が長期にわたると、筋力が低下し、疲れやすくなることがあります。これにより、日常生活での動作が困難になる場合もあります。
2. 神経症状
副甲状腺ホルモンの不足は神経系にも影響を与え、さまざまな神経症状を引き起こすことがあります。低カルシウム血症が進行すると、以下のような症状が見られることがあります。
a. 精神的な変化
低カルシウム血症によって、感情の不安定さや焦燥感が現れることがあります。さらに、重症の場合には、抑うつ症状や混乱、記憶力の低下が見られることもあります。
b. てんかん発作
カルシウム不足が極端に進行すると、てんかん発作が引き起こされることがあります。これは、神経細胞の過剰な興奮によって発生します。
c. 神経過敏
低カルシウム血症の患者では、外的な刺激に対して過敏になることがあります。たとえば、音や光、触覚に対して過剰に反応することがあるため、日常生活で不快感を感じやすくなります。
3. 心臓への影響
カルシウムは心臓の正常な機能にも関与しており、低カルシウム血症は心臓に対しても影響を及ぼします。カルシウム濃度の低下により、心臓のリズムが不安定になることがあります。
a. 不整脈
副甲状腺ホルモンの不足は、心臓の電気的な活動に影響を与え、不整脈(心拍の乱れ)を引き起こすことがあります。特に、重度の低カルシウム血症では、命に関わるような不整脈が発生することがあります。
b. 心臓の筋力低下
カルシウムが不足すると、心筋の収縮力も低下します。その結果、心臓の拍動が弱くなり、血液循環に影響を与えることがあります。
4. 皮膚や髪の変化
副甲状腺ホルモンの不足は、皮膚や髪にも影響を及ぼすことがあります。
a. 乾燥した肌
低カルシウム血症は皮膚に乾燥を引き起こすことがあり、皮膚がかゆく感じることがあります。また、皮膚が荒れやすくなることもあります。
b. 髪の脆弱化
カルシウムは髪の健康にも重要な役割を果たしているため、低カルシウム血症が続くと髪の質が悪化し、髪が薄くなることがあります。
5. リンの蓄積による影響
副甲状腺ホルモンの不足により、腎臓でのリンの排泄が低下し、血中リン濃度が上昇することがあります。この状態は高リン血症と呼ばれ、骨にリンが沈着しやすくなります。これにより、骨痛や骨の脆弱化が起こることがあります。
a. 骨の痛みや骨折のリスク
リンが骨に沈着することにより、骨の強度が低下し、骨折のリスクが増加します。また、骨痛を訴える患者もいます。
b. カルシウムとリンのバランスの乱れ
カルシウムとリンは体内でバランスを取ることが重要ですが、これが崩れることにより、さまざまな合併症が引き起こされます。特に、高リン血症が続くと、血管や臓器にカルシウムが沈着することがあり、心血管疾患や腎臓病のリスクを高めます。
6. 診断と治療
副甲状腺機能低下症の診断は、血液検査によって行われます。特に、カルシウム、リン、そして副甲状腺ホルモンのレベルを測定することが重要です。診断が確定した後は、カルシウムやビタミンDを補充する治療が行われます。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるため、重要な役割を果たします。また、カルシウム製剤を投与することも一般的な治療法です。
まとめ
副甲状腺ホルモンの不足は、低カルシウム血症や高リン血症を引き起こし、さまざまな身体的および精神的な症状を引き起こします。筋肉のけいれん、神経症状、心臓の不整脈、皮膚や髪の変化など、多岐にわたる症状が現れる可能性があります。早期の診断と治療が重要であり、カルシウム補充やビタミンDの摂取が治療の基本となります。