炎症性唾液腺疾患：原因、症状、診断と治療法
唾液腺は、口腔内で重要な役割を果たす腺であり、唾液を分泌することで食物の消化を助け、口腔内を清潔に保つ働きをしています。しかし、これらの腺が炎症を起こすことがあり、これを「唾液腺炎」と呼びます。唾液腺炎は、急性または慢性の状態で発症し、その原因はさまざまです。この記事では、唾液腺炎の原因、症状、診断方法、治療法について詳細に解説します。
1. 唾液腺炎の種類
唾液腺炎は、炎症を引き起こす唾液腺の種類によって分類されます。人間には3つの主要な唾液腺があり、それぞれに特徴的な疾患があります。
1.1. 顎下腺炎（下顎下唾液腺炎）
顎下腺は、口腔内で最も大きな唾液腺であり、炎症を引き起こすことがよくあります。顎下腺炎は、細菌やウイルスの感染によって発症し、急性の痛みや腫れを引き起こします。さらに、口の中が乾燥し、飲食が困難になることがあります。
1.2. 耳下腺炎（耳下唾液腺炎）
耳下腺は、耳の前方に位置する唾液腺で、最も頻繁に感染症を引き起こす腺です。耳下腺炎は、ウイルスや細菌、特にムンプスウイルス（おたふく風邪）によって引き起こされることが多いです。耳下腺炎は、顔面の腫れや痛み、発熱を伴うことが特徴です。
1.3. 舌下腺炎（舌下唾液腺炎）
舌下腺は舌の下に位置する唾液腺であり、顎下腺と同様に感染症を引き起こすことがあります。舌下腺の炎症は、口の中の痛みや腫れ、場合によっては発熱を伴います。
2. 唾液腺炎の原因
唾液腺炎の原因は多岐にわたります。主な原因には以下のものがあります。
2.1. 細菌感染
細菌感染が唾液腺炎の最も一般的な原因です。最も一般的な細菌は、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌です。これらの細菌は、口腔内の細菌が唾液腺に侵入することで感染を引き起こします。特に、唾液の分泌が少ない状態（脱水症状や長時間の禁食など）では、細菌が繁殖しやすくなります。
2.2. ウイルス感染
ウイルス感染も唾液腺炎の原因となります。最も知られているのは、ムンプスウイルスによる耳下腺炎です。ムンプスは、主に小児に感染し、顔の腫れや発熱が特徴です。また、風疹ウイルスやサイトメガロウイルスなども唾液腺に感染を引き起こすことがあります。
2.3. 石の形成（唾石症）
唾液腺内に唾石が形成されることがあります。唾石は唾液の流れを妨げ、唾液腺に圧力をかけ、炎症を引き起こします。唾石は、唾液腺内でカルシウムが結晶化することによって形成されます。これにより、腫れや痛みを伴うことがあります。
2.4. 自己免疫疾患
自己免疫疾患により、免疫システムが誤って唾液腺を攻撃し、炎症を引き起こすこともあります。代表的な疾患にはシェーグレン症候群があります。この病気は、唾液腺を含む外分泌腺を侵す自己免疫疾患で、慢性的な乾燥口や目の乾燥を引き起こします。
2.5. 薬剤の影響
一部の薬剤は唾液腺に悪影響を与えることがあります。例えば、抗ヒスタミン薬や抗うつ薬などは、唾液分泌を減少させ、唾液腺の炎症を引き起こすことがあります。
3. 唾液腺炎の症状
唾液腺炎の症状は、感染の原因や唾液腺の位置によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。
3.1. 腫れ
唾液腺が炎症を起こすと、その部分が腫れます。顎下腺炎では顎の下に腫れが現れ、耳下腺炎では頬や耳の前に腫れが現れます。
3.2. 痛み
炎症による痛みは、唾液腺炎の特徴的な症状です。食事や水分摂取の際に痛みが強くなることがあり、これが患者にとって非常に不快な症状となります。
3.3. 発熱
感染が原因である場合、発熱が伴うことが多いです。発熱は、体が感染と戦っているサインです。
3.4. 乾燥感
唾液腺が正常に機能しないと、口内が乾燥し、飲み込みや会話が困難になることがあります。特に、唾液分泌が低下することで、口内の乾燥感が強くなります。
3.5. 唾液の濃縮
唾液腺が炎症を起こすと、唾液の質が変化することがあります。唾液が粘り気を持ち、通常のように口の中を潤すことができなくなります。
4. 唾液腺炎の診断
唾液腺炎の診断は、主に以下の方法で行われます。
4.1. 症状の確認
医師は患者の症状を詳細に聞き、病歴やリスク要因を確認します。腫れや痛み、発熱などの症状は、唾液腺炎を疑う重要な手がかりとなります。
4.2. 視診と触診
唾液腺の腫れや痛みを確認するために、医師は顔や首周りを視診し、触診を行います。腫れがどの程度か、痛みがどの場所に感じられるかを確認します。
4.3. 超音波検査
超音波検査は、唾液腺の状態を詳しく確認するために使用されます。唾石の有無や腫れの程度、感染の広がりなどを評価するのに有用です。
4.4. 血液検査
血液検査を行い、感染を示唆するマーカー（白血球数やCRP値など）の上昇を確認することがあります。自己免疫疾患が疑われる場合は、抗体検査も行われることがあります。
4.5. 唾液の培養
細菌感染が疑われる場合、唾液を採取して培養検査を行い、感染を引き起こしている細菌を特定することがあります。
5. 唾液腺炎の治療法
唾液腺炎の治療は、原因に応じて異なります。治療法には以下のような方法があります。
5.1. 抗生物質
細菌感染が原因である場合、抗生物質が処方されます。これにより、感染を抑え、症状の改善が期待できます。
5.2. 抗ウイルス薬
ウイルス感染が原因の場合