壊血病(エスカーボート、英:Scurvy)は、ビタミンC(アスコルビン酸)の不足によって引き起こされる疾患であり、かつては航海時の長期間にわたる食料の不均衡が原因で多くの船員に発生しました。この疾患は現代医学の進歩によりほとんど見られなくなりましたが、栄養素の重要性を理解するうえで依然として注目されています。壊血病は、ビタミンCが人体にとってどれほど重要であるかを示す一例であり、この栄養素が欠乏することが体内でどのような影響を及ぼすかを学ぶうえで非常に有益です。
壊血病の原因とビタミンCの役割
ビタミンCは水溶性ビタミンで、体内で合成することができないため、食物から摂取する必要があります。ビタミンCはコラーゲンの合成に欠かせない成分であり、コラーゲンは皮膚、血管、軟骨、骨、歯などの組織の重要な構成成分です。ビタミンCが不足すると、これらの組織の修復や維持が困難になり、最終的に壊血病という病気が発症します。

具体的には、ビタミンCが不足すると、血管壁が脆弱になり、出血しやすくなります。これが原因で、皮膚にあざができやすくなり、歯茎からの出血や歯の脱落などが見られるようになります。また、コラーゲンが正常に合成できないため、傷の治りが遅くなり、免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。
壊血病の症状
壊血病の症状は、ビタミンCの不足が進行するにつれて徐々に現れます。初期段階では、倦怠感や食欲不振、体重減少が見られ、さらに進行すると以下のような症状が現れます:
- 歯茎の腫れと出血:ビタミンC不足により、歯茎の健康が損なわれ、腫れや出血が生じます。最終的には歯が抜け落ちることがあります。
- 皮膚の異常:血管が脆弱になるため、容易にあざができ、出血しやすくなります。皮膚に小さな赤い斑点(紫斑)が現れることもあります。
- 関節痛と筋肉痛:コラーゲンが不足することで、関節や筋肉に痛みが生じることがあります。
- 貧血:ビタミンCは鉄の吸収を助ける役割も果たしているため、その不足は貧血を引き起こす原因となります。
- 免疫力の低下:ビタミンCは免疫系の正常な働きに重要であり、欠乏すると感染症にかかりやすくなります。
- 傷の治癒の遅延:コラーゲンの合成が不十分なため、傷が治りにくくなることがあります。
壊血病がさらに進行すると、死に至ることもありますが、現代の栄養状態ではビタミンCの摂取が容易なため、この病気が命を脅かすことは稀です。
壊血病の歴史
壊血病は、航海時代において長期間の船旅によって多くの船員が患った病気として有名です。17世紀から18世紀にかけて、航海に出る船員たちは新鮮な果物や野菜を摂取する機会がほとんどなく、ビタミンCの摂取が不足していました。このため、長期間の航海中に壊血病が多発しました。
しかし、18世紀半ばにイギリス海軍の外科医ジェームズ・リンドが実験を行い、壊血病の予防法としてレモンやオレンジなどの柑橘類が効果的であることを発見しました。この発見が、壊血病の予防に果たす役割を大きく変え、その後の航海医学に大きな影響を与えました。リンドの研究は、ビタミンCの重要性を明らかにし、その後の壊血病の予防策につながりました。
現代における壊血病
現代社会では、新鮮な果物や野菜が手に入りやすく、ビタミンCの不足による壊血病はほとんど見られません。とはいえ、極端な食生活や栄養失調、アルコール依存症、精神的な疾患などの影響で、ビタミンC不足が原因で壊血病を発症することがあるため、依然として注意が必要です。
現代の壊血病の患者は、特に栄養が偏った食事を続けている人々や、長期間にわたるダイエットや食事制限を行っている人々の中で見られます。また、老年層や貧困層では食事が不規則になりがちで、ビタミンCの摂取が不足しやすいこともあります。
壊血病の予防と治療
壊血病の予防には、ビタミンCを十分に摂取することが最も重要です。ビタミンCを多く含む食物としては、以下のようなものがあります:
- 柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツなど)
- ベリー類(イチゴ、ブルーベリー、ラズベリーなど)
- ピーマンやブロッコリー、キャベツなどの野菜
- キウイフルーツ
- トマト
ビタミンCは水溶性であり、熱に弱いため、過剰に加熱することは避け、できるだけ生で食べることが推奨されます。また、加熱する場合でも、短時間で調理し、栄養損失を最小限に抑えることが大切です。
治療方法としては、ビタミンCを十分に摂取することが第一です。ビタミンCの摂取により、壊血病の症状は迅速に改善します。軽度の壊血病の場合、食事の改善だけで回復が見込まれますが、重度の症例では、医師によるビタミンCの注射やサプリメントの投与が必要になることもあります。
結論
壊血病は、ビタミンCの不足によって引き起こされる疾患であり、その予防と治療は比較的容易です。現代においては、バランスの取れた食生活を維持することが最も重要であり、特にビタミンCを多く含む食品を積極的に摂取することが推奨されます。壊血病の歴史は、栄養学の発展と共に重要な教訓を提供し、現代医学においてもその意義を失うことはありません。