研究と調査

大学研究論文の書き方

大学での研究活動において、質の高い「大学レベルの研究論文(学術レポート)」を作成することは、学生としての基礎的かつ不可欠な能力である。研究とは単なる情報の寄せ集めではなく、特定のテーマに基づいて問題を設定し、適切な方法で情報を収集・分析し、自らの主張や結論を明確に提示する論理的かつ構造的な作業である。本稿では、大学における研究論文作成のプロセスを、実践的かつ理論的に解説し、研究を遂行するために必要な知識・技術・態度について包括的に述べる。


1. テーマ設定の重要性と戦略

研究は「問い」から始まる。つまり、何について、なぜ調べるのかを明確にすることが出発点である。テーマは、自身の関心と社会的・学術的意義が交差する領域に設定することが望ましい。あまりに広範で抽象的なテーマでは分析が困難になり、逆に狭すぎれば研究の展開が限定されるため、適度なスコープのバランスが重要である。

テーマ設定の例

不適切なテーマ 修正された具体的なテーマ
教育について 日本の中学校におけるICT導入が学習成果に与える影響
環境問題 東京23区における家庭ごみ分別制度の実態と住民意識
食文化 現代の若者における伝統食の継承と意識の変化

テーマ設定においては、先行研究の調査が不可欠であり、自らのテーマがすでに研究され尽くしていないか、またはどのような切り口で新たな価値を加える余地があるのかを検討する。


2. 先行研究の調査と資料収集

テーマを決定した後、次に行うべきは先行研究や信頼性の高い文献の調査である。ここでの目的は、既存の知見を把握し、自分の研究がどのような文脈に位置づけられるのかを明確にすることである。

資料収集における主な情報源

  • 学術論文(CiNii、J-STAGEなどのデータベース)

  • 学術書・専門書(図書館や大学の蔵書を活用)

  • 政府・自治体の統計資料

  • 国際機関の報告書(例:国連、OECD)

  • 信頼性の高い新聞記事・調査レポート

論文を執筆する際には、インターネットの情報を安易に利用するのではなく、その出典の信頼性、著者の専門性、発行元の中立性などを厳密に検討する必要がある。WikipediaやSNS投稿は原則として引用すべきではない。


3. 問題設定と仮説の構築

単に情報を羅列するだけでは研究とは言えない。収集した知識をもとに、自分の研究課題に対して具体的な問い(リサーチ・クエスチョン)を立て、さらにそれに対する予測的な答えとして仮説を設定する。この仮説は、研究の方向性を明確にし、後の分析の指針となる。

例:

  • 問題設定:「中学生におけるスマートフォン利用と学力の関係はあるか?」

  • 仮説:「スマートフォンの利用時間が長い生徒ほど、成績は低い傾向がある。」

仮説はあくまでも予測であり、必ずしも正しい必要はない。むしろ、検証を通して否定されることにも学術的意義がある。


4. 研究方法の選択と設計

仮説を検証するためには、適切な研究方法を選定し、それに基づいて実施計画を立てる必要がある。研究方法は大きく分けて「定量的研究」と「定性的研究」の2つがあり、それぞれに適した手法が存在する。

主な研究方法の比較

分類 方法 特徴 用途例
定量的研究 アンケート調査、統計分析 数値に基づいた客観的分析 意識調査、因果関係の検証
定性的研究 インタビュー、参与観察、文献解釈 深層的な理解や事象の解釈 文化研究、行動の意味づけ

例えば、若者のSNS利用の動機を探る場合は定性的手法が有効であり、SNS利用時間とストレスの関係を検証したい場合は定量的手法が適している。


5. データ収集と分析

研究計画に基づいて実際にデータを収集する段階に入る。アンケート調査であれば、質問項目の設計やサンプリング方法(無作為抽出・層化抽出など)を丁寧に検討し、信頼性と妥当性を担保する必要がある。

データ分析においては、ExcelやSPSS、Rといった統計ツールを活用することで、効率的かつ精密な解析が可能となる。定性的データについては、KJ法や内容分析などを用いて、カテゴリーごとに意味を抽出・整理する作業が求められる。


6. 結果の整理と考察

分析結果は図表などを活用して視覚的に示すことで、読者に分かりやすく伝えることができる。以下に、典型的な結果の提示方法の一例を示す。

表:SNS利用時間と学力の関係(仮想データ)

利用時間(1日) 平均偏差値(5教科)
1時間未満 67.3
1〜2時間 64.8
2〜3時間 61.0
3時間以上 58.1

このような数値的傾向を示した上で、結果の意味するところを「考察」として掘り下げる必要がある。考察では、仮説との整合性、先行研究との比較、研究の限界、今後の課題などを論じる。


7. 文章構成と論理展開

大学の研究論文は、明確な論理構成と客観的な記述が求められる。一般的な構成は以下の通りである。

  1. 序論:研究の背景、目的、仮説、意義

  2. 先行研究のレビュー

  3. 研究方法

  4. 結果

  5. 考察

  6. 結論

  7. 参考文献

主観的な表現(「私はこう思う」「〜と思われる」)は避け、根拠のある記述と論拠の提示が必須である。段落ごとに一つの主張を展開し、それを支える証拠を提示するという形式を守る。


8. 引用と参考文献の書き方

他者の知見やデータを利用する際は、必ず出典を明示することが学術的倫理である。無断引用(盗用)は重大な不正行為として厳しく処罰されるため注意が必要である。

引用形式の例(日本語論文の場合)

  • 脚注方式:「田中(2020)は、ICT導入が学力に影響を与えると述べている¹)」

  • 参考文献リスト方式:

参考文献 田中太郎(2020)『現代教育とICT』東京大学出版会 文部科学省(2022)『令和3年度全国学力・学習状況調査報告書』

学術的に信頼される文献・資料のみを参照し、その情報をどのように解釈・活用したかを明示することが重要である。


9. 推敲・校正と提出

最終稿の作成においては、文章の誤字脱字や文法ミスを修正するだけでなく、論理の飛躍や曖昧な表現を見直し、読み手にとって明解で一貫性のある内容となっているかを確認する。友人や指導教員に事前に読んでもらい、客観的なフィードバックを受けることも有効である。

また、提出形式(フォント、行間、余白、ページ番号、表紙の有無など)については、所属学部の規定を厳守しなければならない。


結論

大学における研究論文の作成は、単なる課題提出を超えた学問的営みであり、知識の体系的理解、批判的思考力、論理的表現力を総合的に鍛える実践である。その過程は容易ではないが、適切なステップを踏み、着実に実行すれば、誰でも質の高い研究を成し遂げることができる。テーマの選定から資料収集、分析、考察、表現に至るまで、各段階を丁寧に構築し、自らの問いに真摯に向き合うことが、真の学術的成長につながるのである。

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