妊娠中の母親から胎児へ感染する可能性のある病気は、母体の健康を守ることと同様に、胎児の健全な発育にとっても重要な問題です。これらの病気は、感染が母体から胎児に直接または間接的に伝播することで、胎児に深刻な影響を与える可能性があります。以下では、妊娠中に母親から胎児に感染しやすい5つの病気について、症状、感染経路、予防方法、そして治療法を包括的に説明します。
1. トキソプラズマ症
概要
トキソプラズマ症は、単細胞寄生虫である「トキソプラズマ・ゴンディ」が原因となる感染症です。この病気は、猫の糞便を介して感染することが多く、土壌や生肉を通じても広がります。妊婦が感染すると、胎児に深刻な影響を与える可能性があります。

感染経路
妊婦が感染する主な経路は、猫の糞便や汚染された土壌、加熱不十分な肉を摂取することです。感染した妊婦は、症状がほとんどない場合もありますが、胎盤を通じて胎児に感染が広がることがあります。
胎児への影響
胎児がトキソプラズマに感染すると、目の疾患や脳の障害、聴力障害、または発達遅滞などの重篤な後遺症を引き起こすことがあります。早期に診断され、適切な治療を受ければ、症状の進行を防ぐことができますが、妊娠中期以降に感染するとリスクが高くなります。
予防方法
- 猫のトイレの掃除は他の人に頼むか、手袋を使用して行う。
- 加熱処理が不十分な肉を避ける。
- 野菜や果物はよく洗ってから食べる。
2. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
概要
HIVは、免疫系を攻撃するウイルスで、エイズ(後天的免疫不全症候群)の原因となります。HIVに感染した妊婦が適切な治療を受けずに出産を迎えると、胎児にウイルスが感染する可能性があります。
感染経路
HIVは、血液や体液を介して伝播します。妊婦から胎児への感染は、主に妊娠中、出産時、または授乳時に起こります。特に出産時の血液の接触や、母乳を通じてウイルスが移行することが多いです。
胎児への影響
HIVに感染した母親から生まれた赤ちゃんは、未治療であれば感染する確率が高く、免疫力が低下することにより、様々な感染症や健康問題に悩まされることになります。HIV感染は治療で管理可能ですが、感染が広がると生命に関わる可能性があります。
予防方法
- 妊娠中にHIV検査を受け、必要に応じて抗レトロウイルス薬を服用する。
- 出産時に帝王切開を選択することがある。
- 授乳を避けるか、母乳に代わる乳児用ミルクを使用する。
3. サイトメガロウイルス(CMV)
概要
サイトメガロウイルス(CMV)は、ヘルペスウイルス科に属するウイルスで、世界中で広く感染しています。多くの人は感染しても無症状ですが、妊婦が初めて感染すると胎児に重大な影響を及ぼすことがあります。
感染経路
CMVは、唾液や尿、血液、母乳、または性行為を通じて伝播します。妊婦がこれらの体液に触れることで感染する可能性があります。
胎児への影響
CMVに感染した妊婦が胎児にウイルスを伝播した場合、先天性サイトメガロウイルス感染症を引き起こし、聴力障害、視力障害、精神発達遅滞、さらには死亡に至ることもあります。感染の時期や妊娠の進行具合によって、その影響の程度が異なります。
予防方法
- 妊婦が他人の尿や唾液に接触しないようにする。
- 手洗いをこまめに行う。
- 免疫力が低い妊婦は、感染源となる可能性のある人との接触を避ける。
4. B型肝炎
概要
B型肝炎は、肝臓に影響を与えるウイルス性の疾患で、妊娠中に感染すると胎児への感染リスクが高まります。B型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して伝播します。
感染経路
妊婦がB型肝炎ウイルスに感染していると、出産時に赤ちゃんに感染することがあります。特に、母親の血液や体液が赤ちゃんに直接触れる場合にリスクが高くなります。
胎児への影響
B型肝炎に感染した新生児は、慢性的な肝炎や肝硬変、さらには肝臓癌を発症する可能性があります。感染が早期に発見され、予防接種を受けることで、リスクを大幅に減少させることができます。
予防方法
- 妊婦がB型肝炎の検査を受け、感染が確認された場合は治療を受ける。
- 出産後、赤ちゃんには速やかにB型肝炎ワクチンを接種する。
- 妊婦が感染していない場合は、B型肝炎ウイルスの感染拡大を防ぐための予防策を講じる。
5. 風疹
概要
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる感染症で、妊婦が妊娠初期に感染すると、胎児に重篤な影響を与える可能性があります。
感染経路
風疹は、感染者の咳やくしゃみを通じて空気中に浮遊するウイルスを吸い込むことで感染します。風疹ウイルスは、非常に感染力が高いことで知られています。
胎児への影響
妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、先天性風疹症候群を引き起こし、心疾患、白内障、聴力障害、脳の発達障害など、重篤な先天異常が生じることがあります。また、流産や死産のリスクも増加します。
予防方法
- 妊娠前に風疹ワクチンを接種して予防する。
- 妊婦が風疹に感染しないよう、感染者との接触を避ける。
結論
妊娠中の感染症は胎児に深刻な影響を与える可能性があり、早期に検出し、適切な予防措置や治療を行うことが重要です。妊娠中は、感染症に対する十分な予防と管理を行い、胎児の健康を守ることが大切です。定期的な検診を受け、適切な予防策を講じることで、母子ともに健康で安全な妊娠生活を送ることができます。