子どもが「正しいこと」や「間違っていること」を認識し始める時期についての理解は、発達心理学において長い間議論されてきました。一般的に、子どもは生まれてすぐには倫理的な判断を下すことはありませんが、発達と共に「良いこと」や「悪いこと」、さらには「社会的に受け入れられる行動」と「受け入れられない行動」を理解し始めます。これらの認識が形成される過程は、心理学者によっていくつかの段階に分けられています。この記事では、子どもがどのようにして「正しい」や「間違っている」を学んでいくのかを、発達段階に沿って詳しく説明していきます。
1. 乳児期(0~2歳):基本的な認識の始まり
乳児期において、赤ちゃんはまだ倫理的な判断をする能力を持っていません。しかし、この時期は、物理的な世界についての基本的な理解を始める時期でもあります。例えば、親や養育者が赤ちゃんに対して与える「快・不快」の反応(例えば、抱っこされることで安心感を得たり、空腹で不快を感じたりする)から、赤ちゃんは基本的な感情的な学習を始めます。

この段階では、「良い」や「悪い」という倫理的な意味ではなく、単純に「快」や「不快」を感じることによって、将来的な道徳的認識への第一歩を踏み出します。つまり、赤ちゃんは直接的な道徳的判断はしませんが、環境の中で自分にとって快適であること、または不快であることを学びます。
2. 幼児期(2~4歳):道徳的感覚の芽生え
2歳を過ぎると、子どもは言葉を使って自分の感情を表現できるようになり、社会的なルールを学び始めます。ここで重要なのは、子どもが「自分の行動が他者にどのように影響を与えるか」を認識し始めることです。例えば、幼児は他の子どもが泣くのを見ると、何らかの感情的な反応を示します。それは、他者の痛みや悲しみを感じ取る力の成長の兆しです。
この時期の子どもは、親や周囲の大人からの指示や強制的な教育を通じて、「良いこと」と「悪いこと」の区別を学びます。例えば、「おもちゃを取らないこと」「友達とシェアすること」など、簡単な社会的規範を学び始めます。ただし、この時期の子どもはまだ自分の行動が他者に与える影響を完全に理解しているわけではなく、道徳的判断は感情的な反応が強いため、必ずしも理性的な判断に基づくものではありません。
3. 学童期(6~12歳):規則と責任感の理解
学童期に入ると、子どもはますます自分の行動が他者に与える影響を理解し、社会の規範に従うことを学びます。この時期の子どもは、「正しい行動」と「間違った行動」の基準が社会的にどのように定義されているかを学び始めます。また、道徳的な判断は少しずつ理性的な要素を取り入れ、社会的な期待や規則に基づいて行動することが重要になってきます。
例えば、学校でのルールや家庭でのしつけを通じて、子どもは「ルールを守ることが大切である」ことを学びます。この時期、子どもは他者の視点を理解し、その視点を考慮に入れる能力が向上します。具体的には、友達が不快に感じる行動を避けるために、どのような言動が適切であるかを意識的に考えます。この過程で、子どもは自己中心的な視点から、社会的な視点へと成長します。
4. 思春期(12歳以上):道徳的判断の深化と複雑化
思春期に入ると、子どもはさらに複雑な倫理的な問題について考え始めます。道徳的判断は単純な規則の遵守から、個人の価値観や社会的な状況に基づくものへと変化します。思春期の子どもは、ルールや規範に対して疑問を持つようになり、自己の倫理観を形成し始めます。例えば、「なぜこの規則が必要なのか?」、「自分にとって何が重要か?」という問いを立て、より抽象的なレベルで倫理的な判断を行うようになります。
この時期、子どもは道徳的な問題に対して、より多角的な視点を持つようになります。例えば、環境問題、人権、社会的公正など、社会全体に関わる問題についても考えるようになり、その影響を深く理解するようになります。思春期は、道徳的な成長の最も重要な時期であり、この時期に形成される価値観が、成人後の倫理的な判断に大きな影響を与えると言えるでしょう。
5. 結論
子どもが「正しいこと」や「間違っていること」を感じ、理解し始める時期は、生まれてすぐの乳児期から、思春期に至るまでの成長過程において段階的に進行します。乳児期では快・不快を通じて環境の認識を始め、幼児期から学童期にかけて社会的規範を学び、思春期には自らの倫理観を確立していきます。したがって、子どもが「正しい」「間違っている」と感じる能力は、一度に形成されるものではなく、時間をかけて発達していくものです。
親や教育者は、子どもの発達段階に応じた支援を行い、道徳的な教育を行うことが重要です。子どもが自分の行動が他者に与える影響を理解し、社会的なルールを守ることの重要性を認識するためには、日常的な接し方や教育方法が大きな役割を果たすことになります。