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客観式テストの種類と特徴

種類別に見る客観式テストの特徴、利点と欠点

客観式テスト(objective tests)は、明確な正解が存在する問題形式を用いる評価方法であり、教育現場や資格試験、採用試験など、幅広い領域で活用されている。主観による採点のばらつきを防ぎ、公平性を保つために重要な役割を果たしているが、その一方で、すべての学習成果を適切に測定できるわけではないという批判も存在する。本稿では、客観式テストの主要な種類を解説し、それぞれの特徴、利点、そして欠点について科学的かつ体系的に考察する。


1. 多肢選択式(Multiple Choice Questions:MCQs)

特徴

多肢選択式問題は、受験者に複数の選択肢を提示し、その中から最も適切な答えを選ばせる形式である。通常、正答は1つだが、場合によっては複数正解が存在することもある。

利点

  • 迅速な採点が可能:機械による自動採点が容易である。

  • 広範な内容のカバー:短時間で多くの知識領域を測定できる。

  • 客観性の確保:採点において主観的判断が介在しにくい。

  • 診断的使用が可能:間違った選択肢(ディストラクター)の分析によって、受験者の誤解を特定できる。

欠点

  • 推測の影響:受験者が答えを推測して正答する可能性があり、実際の知識レベルを正確に反映しないことがある。

  • 作問の難易度:良質な問題を作成するためには高度な技術と時間を要する。

  • 高次認知能力の評価が困難:記憶や理解に偏り、分析、創造、評価といった高次思考を測定するには限界がある。


2. 正誤判定式(True/False Questions)

特徴

ある命題に対して「正しい」または「誤っている」のどちらかを選択させる形式である。

利点

  • 短時間で大量に出題可能:非常に多くの項目を短時間で確認できる。

  • 作成が容易:単純な文を基に作成できる。

  • 採点が単純:自動採点が非常に容易である。

欠点

  • 推測率の高さ:2択であるため、無作為に選んでも50%の確率で正解する可能性がある。

  • 表現の微妙な違いによる混乱:わずかな言い回しの違いで意味が変わり、誤答を誘発することがある。

  • 深い理解の評価が困難:表面的な知識しか測れない場合が多い。


3. 穴埋め式(Completion Type)

特徴

文中の空欄に適切な語句や数値を補充させる形式である。

利点

  • 単純な知識だけでなく、理解を問える:文脈に応じた適切な用語の選択を求める。

  • 推測による正答の可能性が低い:選択肢が提示されないため、正確な知識が要求される。

  • 問題作成の柔軟性:自由度の高い出題が可能。

欠点

  • 採点の主観化リスク:表現の揺れにより正答とみなすべきか判断が必要になる場合がある。

  • 受験者の表記ミスに対して厳しい:誤字や表現違いを厳格に扱うと、真の理解度を正しく評価できないことがある。


4. マッチング式(Matching Type)

特徴

2つのリスト(例えば用語と定義)を提示し、それぞれ正しい組み合わせを作成させる形式である。

利点

  • 関連知識の確認に適している:項目間の関係性を問うことで、単純な記憶以上の理解を測定できる。

  • 効率的な出題:一問で多数の知識項目をチェックできる。

  • 採点が簡単:明確な正誤基準が設定できる。

欠点

  • リストの不均衡による混乱:リスト間の要素数が異なると、受験者に不要な混乱を与えることがある。

  • 単純暗記に依存しがち:深い思考を促すには工夫が必要。


5. 順序付け式(Ordering Type)

特徴

与えられた項目を、時間、手順、重要度などの基準に基づき、正しい順番に並べ替えさせる問題形式である。

利点

  • 因果関係やプロセスの理解を問える:単なる知識暗記以上の学習成果を評価可能。

  • 作問者の意図が明確に伝わる:解答プロセスに論理的な一貫性を求めることができる。

欠点

  • 採点が煩雑になる場合がある:部分点付与の基準を明確に定める必要がある。

  • 受験者に負担がかかる:項目数が多い場合、整理と理解に時間を要する。


客観式テストに共通するメリットとデメリット

共通するメリット

  • 大規模テストへの適用が可能:多人数を対象とした試験に向いており、短時間で結果が得られる。

  • コスト効率が高い:一度作成すれば繰り返し利用でき、採点コストも低減できる。

  • 標準化が容易:条件を統一できるため、比較的公正な評価が可能。

共通するデメリット

  • 表面的知識に偏るリスク:理解・応用・分析といった高次の学習成果を十分に測ることが難しい。

  • 学習スタイルの偏り:受験対策が過度に問題形式に最適化され、深い学習がおろそかになる危険性がある。

  • 創造性や表現力の評価には不向き:自由な思考や発想を問うには適さない。


表:客観式テストの種類別比較

種類 特徴 主な利点 主な欠点
多肢選択式 選択肢から正答を選ぶ 自動採点可、広範囲カバー 推測リスク、作問困難
正誤判定式 正誤を判断 短時間大量出題、作成容易 推測率高、深い理解測定困難
穴埋め式 空欄に記入 推測困難、柔軟な出題可能 採点主観化リスク、表記ミス問題
マッチング式 用語と定義などを組み合わせる 関連知識測定効率的、採点簡単 リスト設計難、暗記依存
順序付け式 項目を正しい順に並べ替え プロセス理解測定、論理性評価可能 採点煩雑、負担大

結論

客観式テストは、その公平性、効率性から、教育、採用、資格試験など多くの領域で重要な役割を担っている。特に、知識の幅広い定着度を測定するには極めて有効である。しかしながら、測定できる学習成果には限界があり、特に高次の認知能力や創造性、批判的思考力といった領域を評価するには適さないことが指摘されている。したがって、客観式テストは、記述式テストや実技試験など他の評価方法と組み合わせて使用されるべきであり、学習者の多面的な成長を適切に捉えるための工夫が求められる。


参考文献

  • Nitko, A. J. (2001). Educational Assessment of Students. Merrill Prentice Hall.

  • Haladyna, T. M. (2004). Developing and Validating Multiple-Choice Test Items. Lawrence Erlbaum Associates.

  • Popham, W. J. (2008). Classroom Assessment: What Teachers Need to Know. Pearson.

日本の読者にとって、本稿が客観式テストをより科学的かつ批判的に理解する一助となることを願っている。

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