一般外科

小児の上昇精巣治療

小児における「上昇精巣(停留精巣)」:原因、診断、治療、合併症に関する包括的考察

小児泌尿器学における上昇精巣は、精巣が陰嚢内に正常に下降せず、鼠径部または腹部に留まる先天的な疾患であり、「停留精巣(undescended testis)」や「陰嚢外精巣」とも呼ばれる。これは新生児の男児において比較的よく見られる先天異常であり、特に早産児においてその発生頻度は高くなる。この記事では、上昇精巣の疫学、原因、病態生理、臨床的評価、診断、治療法、予後および将来的なリスクについて詳細に解説し、科学的根拠に基づく情報を提供する。


疫学と定義

上昇精巣は、新生児男児の約3〜5%に認められるが、満期産児では1〜2%と報告されている。一方、早産児では約30%にまで増加する。多くの場合、生後3ヶ月以内に自然に陰嚢へ下降するが、6ヶ月を超えても下降しない場合は、自然治癒の可能性は低く、医学的介入が必要となる。

上昇精巣には以下のような分類がある:

分類名 説明
真性停留精巣 精巣が腹腔内または鼠径部にあり、下降していない状態
移動性精巣 精巣が一時的に鼠径部に移動するが、手で押すと陰嚢に戻る状態(正常範囲)
上昇精巣(再上昇) 一度陰嚢にあった精巣が成長に伴って再び鼠径部などへ上昇した状態(病的な状態)
消失精巣(消滅精巣) 発生初期で血流障害などにより精巣が萎縮・消失した状態

原因と病態生理

上昇精巣の原因は多因子的であり、以下のような要素が関与すると考えられている:

  • ホルモン異常:胎児期におけるアンドロゲン(特にテストステロン)の分泌異常。

  • 機械的因子:精索が短すぎる、または精巣導帯(gubernaculum)の異常により精巣が下降できない。

  • 遺伝的要因:INSR、HOXA10など特定の遺伝子の異常。

  • 環境ホルモンの影響:内分泌攪乱物質(ダイオキシンやフタル酸エステル類)への胎児期曝露。

  • 早産:胎児の成長が未完成な段階で出産されることにより、精巣の下降が不完全となる。

精巣の下降は、正常な胎児発育の過程で2段階に分けて起こる。最初の「腹腔内移動」と、次の「鼠径管通過と陰嚢への下降」である。これらの段階のいずれかに障害があると、精巣は陰嚢まで到達せず、上昇精巣となる。


臨床所見と診断

視診と触診

診察は新生児期および乳児期において重要であり、以下のようなステップで行われる:

  1. 陰嚢の大きさ、左右差、左右の精巣の位置を観察。

  2. 仰臥位で下腹部および鼠径部を丁寧に触診。

  3. 触知可能であれば、精巣の大きさや弾力性を確認。

  4. 移動性精巣との鑑別(押して陰嚢に戻るかを確認)。

画像診断

  • 超音波検査:精巣が腹腔内にあるか、鼠径部にあるかの同定に有用。

  • MRIまたはCT:まれに腹腔内に精巣が見当たらない場合に施行。

  • 腹腔鏡検査(診断的腹腔鏡):精巣が触知不能な場合、最終診断および治療の一環として行う。


治療

治療の必要性と時期

6ヶ月を過ぎても精巣が陰嚢内にない場合、自然下降の可能性は低く、1歳までに治療を開始すべきである。精巣が高温の腹腔や鼠径部に長期間とどまると、将来的な精子形成障害や精巣癌のリスクが増加する。

治療法

治療法 内容
ホルモン療法 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やGnRHの投与により精巣下降を促す(効果は限定的)
手術療法(精巣固定術) 精巣を陰嚢内に固定する手術。最も標準的で信頼性の高い治療法。通常は全身麻酔で実施される。
腹腔鏡下手術 腹腔内精巣の場合に行われる。診断と同時に治療も可能。
精巣摘出術 精巣が萎縮し、機能していない場合や癌化リスクが高い場合に実施される。

合併症と長期的なリスク

  1. 不妊症

     精巣が高温の腹腔内にあると、精細管の発達が阻害され、精子形成に悪影響を及ぼす。治療が遅れるほど、両側性停留精巣では不妊率が高くなる。

  2. 精巣腫瘍

     未治療の上昇精巣は、将来的に精巣腫瘍、特に精上皮腫(セミノーマ)を発症するリスクが高い。早期の手術によってこのリスクを軽減できる。

  3. 鼠径ヘルニア

     精巣が鼠径部にあると、鼠径管を通じて腹腔内容物が脱出する可能性があり、同時にヘルニア修復が必要になる。

  4. 精巣捻転

     未固定の精巣は捻転のリスクが高く、緊急手術が必要になる。

  5. 心理的影響

     思春期以降、精巣の位置異常が外見や自己認識に影響を与え、心理的ストレスの要因となる可能性がある。


予後とフォローアップ

治療時期が早期であり、適切に陰嚢内に固定された場合、精巣機能の保存率は高く、予後は良好である。ただし、定期的なフォローアップは必要であり、思春期には自己精巣触診の指導も行われるべきである。以下に治療後の管理スケジュールの一例を示す。

年齢 管理内容
1歳 手術後診察(術後1ヶ月・6ヶ月)
3歳 成長に伴う精巣の発達評価
6歳 学童期の心理的ケアの確認
13歳 思春期精巣発育・精子形成の確認
成人 精巣腫瘍のリスクに対する自己検診指導

結論

小児の上昇精巣は、単なる外見の問題ではなく、将来的な生殖能力および悪性腫瘍のリスクに関わる重要な医学的課題である。早期診断と適切な治療によって、多くの合併症を未然に防ぐことが可能である。医療従事者だけでなく、保護者の認識向上も重要であり、定期的な小児検診の中で精巣の位置を確認する習慣が求められる。


参考文献

  1. Hutson, J. M., Li, R., Southwell, B. R., et al. (2015). The regulation of testicular descent and the role of the gubernaculum. Journal of Pediatric Surgery, 50(2), 227–230.

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