高尿酸血症や痛風、腎機能障害などの疾患の診断や管理において中心的な役割を果たすのが「尿酸(尿酸値、または英語でUric Acid)」の血液検査である。本稿では、「尿酸値検査(尿酸検査、血清尿酸検査)」の目的、測定方法、正常値の範囲、臨床的意義、関連疾患、検査結果の解釈、ならびに検査前後における注意事項などを、科学的根拠に基づき詳細かつ包括的に解説する。最新の研究成果と臨床的活用例も紹介し、日本人の健康管理における尿酸値の重要性を明らかにする。
尿酸とは何か:代謝産物としての意義
尿酸はプリン体(核酸の構成成分であるプリン塩基)の代謝によって生成される終末産物である。プリン体はDNAやRNAの材料として必要不可欠であるが、細胞の代謝・再生過程により常に分解され、その最終生成物として尿酸が生じる。肝臓で代謝された尿酸は血中に放出され、最終的には主に腎臓を通じて尿中に排泄される(約70%)、残りは消化管から排泄される(約30%)。
尿酸値検査の目的と臨床的有用性
尿酸値検査の主な目的は以下の通りである:
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高尿酸血症(Hyperuricemia)の診断
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痛風(Gout)の診断および治療効果のモニタリング
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腎機能障害の評価(尿酸が蓄積するため)
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代謝異常症の評価(例:メタボリックシンドロームとの関連)
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抗がん剤治療前のベースライン評価(腫瘍崩壊症候群のリスク)
また、最近の研究では、尿酸が酸化ストレスや動脈硬化、高血圧などとも関連することが指摘されており、生活習慣病の予防においても重要視されている。
検査方法と測定原理
尿酸値は一般に血液検査で測定される。検査には以下のような手順が取られる:
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採血:空腹時(通常は朝)の静脈血を採取する。特に食後のプリン体摂取による値の変動を避けるため、検査前の食事制限が推奨される。
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血清分離:遠心分離機により血清を分離する。
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化学測定法:尿酸オキシダーゼ法などの酵素法を用い、自動分析装置で定量する。
表1に、代表的な尿酸測定法の概要を示す。
| 測定法 | 原理 | 特徴 |
|---|---|---|
| 酵素法(尿酸オキシダーゼ法) | 尿酸 → アラントイン + 過酸化水素 反応を利用 | 高精度・標準的な方法 |
| 比色法 | 化学反応により発色し、吸光度を測定 | 比較的簡便だが、干渉因子に弱い |
| 酵素電極法 | 酵素反応により生成されるH₂O₂の電気信号を測定 | 即時検査やPOCT(Point-of-Care Testing)に適用 |
尿酸の正常値とその基準
尿酸の正常値は性別および年齢によって異なるが、一般的には以下の範囲が採用されている(日本臨床化学会のガイドラインに基づく):
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男性:3.6 ~ 7.0 mg/dL
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女性:2.5 ~ 6.0 mg/dL
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小児:2.5 ~ 5.5 mg/dL
なお、閉経後の女性では尿酸値が上昇する傾向があり、男性と同等になることもある。
高尿酸血症と痛風の関係性
高尿酸血症とは、血中尿酸濃度が上記基準よりも高い状態を指し、以下の3種類に分類される:
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産生過剰型:プリン体の代謝異常や核酸分解が過剰な状態(例:白血病、化学療法)
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排泄低下型:腎機能低下、アルコール摂取などにより尿酸の排泄が不十分
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混合型:上記両方の要因を持つ
痛風は、血中尿酸が過飽和状態に達し、関節内に尿酸塩結晶として沈着することで急性の炎症反応を引き起こす疾患である。特に足の親指の付け根(第一中足趾関節)に好発し、激烈な痛みと腫れを伴う。尿酸値検査は、痛風の診断および再発予防のための治療効果判定に不可欠である。
尿酸値が高くなる原因:日常生活との関連
尿酸値の上昇には以下のような因子が関与している:
| 因子 | 詳細説明 |
|---|---|
| 食事 | レバー、干物、ビール、魚卵などプリン体を多く含む食品の過剰摂取 |
| アルコール | エタノールの代謝過程で乳酸が生成され、尿酸の排泄が妨げられる |
| 肥満 | インスリン抵抗性の増加が尿酸排泄を低下させる |
| 薬剤 | 利尿薬、シクロスポリン、アスピリンなどが尿酸排泄を阻害することがある |
| 遺伝要因 | 家族性高尿酸血症の存在(特に若年男性に多い) |
| ストレス・脱水 | 血中尿酸濃度の一時的な上昇を招く場合がある |
尿酸値が低すぎる場合の意義(低尿酸血症)
尿酸が異常に低い場合(2.0 mg/dL未満)、以下のような病態が疑われることがある:
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ショウジョウバエ型腎症(ファンコーニ症候群)
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シアノーゼ型心疾患
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遺伝性低尿酸血症(例:尿酸トランスポーター異常)
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過剰な点滴、利尿薬投与
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肝疾患(代謝機能の低下)
低尿酸血症自体が深刻な症状を引き起こすことは稀であるが、潜在する基礎疾患の兆候である可能性があるため、見逃すべきではない。
検査前後の注意事項と生活習慣への提言
検査前の注意点:
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検査前日および当日は過度な飲食やアルコール摂取を避ける
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8時間以上の空腹状態で採血することが望ましい
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サプリメント(特にビタミンCやプリン体含有物質)は一時中止する
検査後の生活指導:
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プリン体の少ない食事(例:野菜、乳製品、精白米)を心がける
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適度な運動(体重管理のため)を継続する
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水分摂取量を増やし、尿量を確保する(1日2L以上が目安)
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必要に応じて薬物療法(フェブキソスタット、アロプリノールなど)を検討
日本における尿酸と生活習慣病の疫学的関係
日本人における疫学調査(例:JPHC Study)では、尿酸値が高い人ほど高血圧、脂質異常症、糖尿病の発症リスクが上昇することが示されている。また、2010年代以降、**高尿酸血症は「第四の生活習慣病」**とも呼ばれ、厚生労働省の健康日本21でも予防が推奨されている。
結語:尿酸検査の臨床的意義と将来の展望
尿酸値検査は、単なる痛風診断のための手段にとどまらず、全身の代謝・腎機能・循環器疾患のリスク評価において極めて有用なバイオマーカーである。日本人においては遺伝的要素や食文化の影響も相まって、高尿酸血症の有病率が増加傾向にある。したがって、日常的な健康診断における尿酸値の把握と、それに基づく早期介入が不可欠である。
将来的には、遺伝子解析や腸内細菌との関連研究などを通じて、より個別化された尿酸管理が可能になると期待されている。
参考文献:
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日本痛風・核酸代謝学会編『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』2018年
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厚生労働省「健康日本21(第二次)」高尿酸血症関連目標
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Feig DI et al., “Uric acid and cardiovascular risk.” N Engl J Med. 2008.
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Tanaka K et al., “A prospective study of serum uric acid and the risk of stroke in Japanese men.” Stroke. 2000.
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日本腎臓学会編『慢性腎臓病診療ガイドライン』2023年版
