左下腹部の痛みの原因:完全かつ包括的な医学的解説
左下腹部の痛みは、日常的に見られる症状の一つであり、年齢、性別、健康状態を問わず多くの人々に発生する可能性があります。この部位には消化器系、生殖器系、泌尿器系、筋骨格系など、複数の臓器が存在しており、それぞれの異常が痛みとして現れる可能性があります。本記事では、左下腹部の痛みに関連する主要な原因を医学的・生理学的観点から詳細に分析し、診断および治療に向けた理解を深めます。

消化器系疾患による痛み
1. 憩室炎(けいしつえん)
左下腹部の痛みで最も頻繁に見られる原因の一つが、結腸、特に下行結腸またはS状結腸に発生する憩室炎です。憩室とは、腸の壁の一部が袋状に突出した状態を指し、これが炎症を起こすと、強い局所的な痛みと発熱、吐き気、便秘あるいは下痢を伴います。
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診断方法:腹部CT検査、血液検査(炎症反応の確認)
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治療法:軽度の場合は抗生物質と食事制限、重度の場合は入院・手術が必要になることもあります。
2. 過敏性腸症候群(IBS)
腸に構造的異常が見られないにも関わらず、慢性的な腹痛や膨満感、排便異常(便秘または下痢)を伴う疾患です。ストレスや食生活の乱れが引き金となることが多く、左下腹部に限局した痛みを訴えるケースも少なくありません。
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特徴:食後や緊張時に悪化しやすい。
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治療法:食生活の改善、ストレス管理、プロバイオティクス、薬物療法(抗けいれん薬や下剤、整腸薬など)
3. 便秘
長期的な便秘により、S状結腸に便が滞留すると、圧迫されて痛みが出ることがあります。便塊が神経や血管を圧迫することで、局所的な痛みを引き起こします。
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診断法:問診、X線検査
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治療法:水分摂取の増加、食物繊維の摂取、運動、便秘薬の使用
泌尿器系による原因
4. 尿管結石
左側の尿管に結石が詰まると、非常に激しい痛み(疝痛)が左下腹部から腰、鼠径部にかけて放散します。突然始まり、波のように強弱を繰り返すのが特徴です。
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症状:血尿、吐き気、頻尿や排尿困難を伴うことがある。
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診断法:尿検査、CTスキャン、超音波
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治療法:鎮痛薬、自然排石の促進、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
5. 膀胱炎・尿路感染症
女性に多く見られる膀胱炎も、左下腹部に痛みを感じさせることがあります。特に排尿時の灼熱感、頻尿、血尿を伴う場合は要注意です。
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診断法:尿検査、尿培養
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治療法:抗生物質の服用、水分摂取の増加
婦人科的要因(女性の場合)
6. 卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)や卵巣のう腫茎捻転
左側の卵巣に嚢腫(液体の詰まった袋状構造)が形成されると、腫瘍が大きくなった場合や茎捻転(嚢腫が自らねじれる状態)によって強い痛みが発生します。
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症状:吐き気、嘔吐、失神、腹膜刺激症状
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診断法:経膣超音波検査、血液検査(腫瘍マーカー)
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治療法:経過観察、もしくは手術による嚢腫摘出
7. 子宮内膜症
子宮内膜が本来の子宮腔以外の部位に存在する状態で、特に卵巣や骨盤腹膜に発生すると、月経周期に合わせて激しい痛みを生じます。左側に病変があれば、左下腹部痛として感じられます。
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特徴:月経困難症、不妊症
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治療法:ホルモン療法、鎮痛薬、腹腔鏡手術
筋骨格系・神経性の要因
8. 筋肉痛・筋膜炎
腹筋や腰の筋肉に過度な緊張や損傷が生じると、左下腹部にも関連痛として現れることがあります。姿勢の悪化や運動後の筋肉疲労が原因になることが多いです。
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症状:動作時に痛みが強くなる、押すと痛い(圧痛)
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治療法:安静、温熱療法、マッサージ、消炎鎮痛薬
9. 坐骨神経痛や神経圧迫
腰椎や骨盤周辺の神経が圧迫されると、関連する神経支配領域に放散痛が出現します。これが左下腹部に表れることもあります。
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診断法:MRI、神経伝導検査
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治療法:理学療法、ブロック注射、外科的手術
その他の重要な疾患
10. 鼠径ヘルニア(脱腸)
腹壁の弱い部分から腸や脂肪組織が飛び出す状態で、左側の鼠径部に発生した場合、左下腹部にも不快感や痛みが放散します。
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診断法:身体検査、超音波検査
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治療法:外科手術(ヘルニア修復術)
11. 腸閉塞
腸の内容物が正常に通過できなくなり、激しい腹痛、吐き気、腹部膨満などを引き起こします。左側の大腸に閉塞が生じると、左下腹部に痛みが集中します。
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治療法:絶食と点滴管理、重症例では緊急手術が必要
表:左下腹部痛の主な原因と特徴
分類 | 疾患名 | 症状の特徴 | 主な診断法 | 治療法 |
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消化器系 | 憩室炎 | 圧痛、発熱、便秘または下痢 | CT検査、血液検査 | 抗生物質、食事制限、手術 |
消化器系 | 過敏性腸症候群 | 慢性の腹痛、排便で軽減 | 除外診断、問診 | 食生活改善、薬物療法 |
泌尿器系 | 尿管結石 | 激しい痛み、血尿、頻尿 | CT、尿検査 | 鎮痛、自然排石、ESWL |
婦人科系 | 卵巣嚢腫 | 下腹部の鈍痛、嚢腫捻転で激痛 | 超音波検査 | 経過観察、手術 |
筋骨格系 | 筋膜炎、坐骨神経痛 | 動作による痛み、放散痛 | MRI、触診 | 安静、理学療法、ブロック注射 |
その他 | 鼠径ヘルニア、腸閉塞 | 膨満感、嘔吐、圧痛 | 身体検査、X線、CT | 手術、保存的治療 |
緊急受診が必要な症状
左下腹部痛が以下のような症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります:
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激しい痛みが突然始まる
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高熱、寒気を伴う
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血便や血尿が見られる
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吐き気・嘔吐が続く
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意識障害やふらつきがある
結論
左下腹部の痛みは、単なる筋肉疲労から重篤な内臓疾患まで、非常に幅広い原因によって引き起こされます。そのため、自己判断による市販薬の使用や放置は避けるべきです。原因を特定し、適切な対処を行うためには、症状の詳細な観察と速やかな医療機関での診断が重要です。特に繰り返す痛みや、日常生活に支障をきたす場合は、専門医による評価が必須です。早期発見・早期治療が、健康な生活を取り戻す鍵となります。