各国の経済と政治

徴兵制を導入する国々

世界には、多くの国々が何らかの形で兵役(軍事サービス)を義務付けており、その形態や期間、適用範囲は国によって大きく異なる。以下では、2025年現在で徴兵制(義務的軍事服務)を導入している国々を、制度の厳格さ、期間、性別の適用、宗教的・良心的拒否権の有無などの観点も交えて、包括的かつ詳細に解説する。


現在も徴兵制を実施している主な国々

徴兵制は特に、安全保障上の脅威に直面している国々や、歴史的に軍事力を重視してきた国家体制で維持されていることが多い。以下に、2025年時点で徴兵制度を維持している代表的な国々を分類して紹介する。

1. 韓国(大韓民国)

  • 対象年齢:18歳から28歳の男性(女性は志願制)

  • 服務期間:陸軍18ヶ月、海軍20ヶ月、空軍21ヶ月

  • 特徴:北朝鮮との軍事的緊張が続いていることから、極めて厳格な徴兵制度が維持されている。

  • 良心的兵役拒否:代替服務制度あり(36ヶ月間の矯正施設勤務)

2. 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)

  • 対象年齢:17歳から男性は強制、女性は選抜制

  • 服務期間:最大で10年間(短縮制度あり)

  • 特徴:世界でも最も厳格かつ長期にわたる兵役制度。実質的に全人民軍。

3. イスラエル

  • 対象年齢:18歳以上の男女(ただしアラブ系市民や超正統派ユダヤ人は一部免除)

  • 服務期間:男性32ヶ月、女性24ヶ月(2024年に延長改定)

  • 特徴:中東地域の安全保障上の理由により、女性にも義務が課されている世界でも数少ない国。

  • 代替制度:良心的兵役拒否者には市民奉仕制度あり

4. ロシア連邦

  • 対象年齢:18歳〜27歳の男性

  • 服務期間:12ヶ月

  • 特徴:志願兵制との並立。ウクライナ情勢により2022年以降強化傾向。

  • 拒否制度:一部代替サービスが可能

5. スイス

  • 対象年齢:18歳以上の男性

  • 服務期間:245日間の基本訓練+定期召集

  • 特徴:永世中立国でありながら、全国民による民兵制を維持

  • 代替制度:兵役拒否者には390日の民間奉仕義務

6. トルコ

  • 対象年齢:20歳から41歳の男性

  • 服務期間:6ヶ月(志願による12ヶ月選択もあり)

  • 特徴:宗教・民族的な要因で多様な対応。代替制度は限られる。

7. ギリシャ

  • 対象年齢:19歳以上の男性

  • 服務期間:陸軍12ヶ月、海・空軍12ヶ月

  • 特徴:近隣国トルコとの緊張が徴兵制維持の要因

8. イラン

  • 対象年齢:18歳以上の男性

  • 服務期間:24ヶ月

  • 特徴:イスラム法に基づく厳格な制度。大学進学や就職に影響する。

9. フィンランド

  • 対象年齢:18歳以上の男性(女性は志願制)

  • 服務期間:165日、255日、347日(部隊ごとに異なる)

  • 代替制度:良心的兵役拒否には364日間の民間サービスが用意されている

10. ノルウェー

  • 対象年齢:18歳以上の男女(世界初の完全男女平等徴兵制)

  • 服務期間:12ヶ月

  • 特徴:実際の召集率は全体の15%程度にとどまるが、制度上は義務

11. オーストリア

  • 対象年齢:18歳以上の男性

  • 服務期間:6ヶ月(代替として9ヶ月の社会奉仕も可能)

  • 特徴:国民投票により徴兵制を維持(2013年)


その他、徴兵制度が存在する国の一覧

以下の表に、現在も徴兵制を実施している国々の一部をリストアップする。

国名 服務対象 服務期間 特徴
ベラルーシ 男性 12ヶ月 ロシアに近い制度
エジプト 男性 最大36ヶ月 教育・家庭状況で期間に差あり
シリア 男性 18ヶ月以上 内戦下でも制度を維持
ベトナム 男性 24ヶ月 国土防衛のための厳格制度
シンガポール 男性 24ヶ月 国家防衛の柱と位置付けられる
ブラジル 男性 12ヶ月 実際には志願が大多数
アルジェリア 男性 12ヶ月 2001年に一時廃止されたが再導入
チュニジア 男性 12ヶ月 実質的な召集率は非常に低い
ウズベキスタン 男性 12ヶ月 一部代替金での免除制度あり
カザフスタン 男性 12ヶ月 軍事教練を学校教育に組み込む傾向

徴兵制度の特徴的な側面

性別に関する適用範囲

徴兵制度は伝統的に男性にのみ適用されてきたが、ノルウェーやイスラエル、スウェーデンなどでは女性にも義務が課されている。特にノルウェーは世界初の完全な男女平等の徴兵制を導入した国家である。

宗教的・良心的拒否と代替制度

多くの民主国家では、良心的拒否者に対して民間奉仕や社会奉仕制度といった代替案が用意されている。一方で、北朝鮮やイランなど一部の国家では拒否そのものが刑罰の対象になる場合もある。

兵役回避と社会的制裁

韓国やイランなど一部の国では、兵役を回避した者に対して公務員就任、海外渡航、大学進学の制限などが課される。特に韓国では芸能人の兵役問題が社会問題になることもある。


徴兵制の現在と未来

近年、経済発展や少子化、軍の近代化に伴い、多くの国が徴兵制から志願兵制へと移行している。ドイツやフランス、イタリアなどはすでに徴兵制を廃止し、プロフェッショナルな軍隊に転換している。一方、地政学的緊張が存在する地域では徴兵制が再評価される傾向もあり、例えばリトアニアやスウェーデンでは一度廃止した徴兵制を再導入している。


結論

徴兵制は、国家の安全保障戦略や歴史的文脈、国民意識、人口構造に深く関わる制度であり、単なる軍事訓練にとどまらず市民としての義務や国家意識を形成する手段ともなっている。世界的には志願兵制への移行が進む一方、戦略的に徴兵制を維持・強化している国々も数多く存在し、徴兵制度は今後も世界各地で議論の対象であり続けるだろう。


参考文献

  • International Institute for Strategic Studies (IISS). The Military Balance 2024.

  • GlobalSecurity.org – “Countries with Mandatory Military Service”

  • 国際連合開発計画 (UNDP) 報告書 2023年版

  • 世界兵役制度レビュー(World Conscription Review, 2024)

  • 各国防衛省公式ウェブサイト(韓国国防部、スイス国防省、ノルウェー軍など)

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