心臓の電気的異常、いわゆる「心臓の電気活動の乱れ」や「不整脈」は、心臓が正常に機能するために必要な電気的な信号の伝達がうまくいかないことによって引き起こされます。心臓の電気的な異常が生じる原因はさまざまであり、個々の患者により異なりますが、以下に主な原因を挙げていきます。
1. 心筋の病気
心筋は、心臓の筋肉であり、電気的信号を受け取って収縮を引き起こす役割を持っています。心筋が病気によって損傷を受けると、電気的信号の伝達が乱れることがあります。例えば、心筋梗塞(心臓発作)や心筋症(心筋が弱くなる疾患)などがその原因です。これらの病気によって心筋がダメージを受けると、正常なリズムが崩れ、心室や心房で異常な電気的活動が生じることがあります。

2. 高血圧
高血圧は、心臓や血管に大きな負担をかけます。長期間にわたる高血圧は、心筋に肥厚を引き起こし、これが心臓の電気的な伝達に悪影響を与える可能性があります。特に心室肥大が進行すると、不整脈のリスクが高まります。また、高血圧は冠動脈の動脈硬化を引き起こし、これが心筋への血流を減少させることにもつながります。
3. 心臓弁膜症
心臓弁膜症は、心臓の弁(心房と心室を分ける弁や、心室間で血液を流す弁)が正常に機能しなくなる疾患です。この状態では、血液の流れに乱れが生じ、心臓の電気的活動にも影響を与えることがあります。特に僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症は、不整脈を引き起こす原因となることがあります。
4. 甲状腺疾患
甲状腺ホルモンは心臓の働きにも深く関わっています。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)や甲状腺機能低下症(橋本病など)は、心臓のリズムに影響を与え、電気的な異常を引き起こす可能性があります。特に甲状腺機能亢進症は、頻脈(心拍数が速くなる)を引き起こしやすく、甲状腺機能低下症は徐脈(心拍数が遅くなる)を引き起こすことがあります。
5. 電解質の異常
血液中の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)の異常も心臓の電気的な活動に大きな影響を与えます。特にカリウムの不足や過剰は、心臓の電気的信号に異常をきたし、致命的な不整脈を引き起こすことがあります。カリウムは心筋の収縮に重要な役割を果たしているため、その濃度が不安定になると、心臓のリズムに異常を来すことがあります。
6. 薬物の影響
いくつかの薬物、特に抗生物質や抗不整脈薬、利尿剤、抗精神病薬などは、心臓の電気的な活動に影響を与えることがあります。これらの薬物は、心臓の電解質バランスを乱したり、心臓の電気的信号を遮断したりすることがあります。薬剤による不整脈は、特に高齢者や基礎疾患がある患者で多く見られます。
7. 自律神経系の影響
自律神経系は、心臓のリズムを調整する役割を果たしています。ストレスや不安、過度の疲労、カフェインの摂取などが自律神経系に影響を与え、心臓のリズムを乱すことがあります。特に交感神経が過剰に働くと、心拍数が速くなり、迷走神経が過剰に働くと、心拍数が遅くなることがあります。
8. 遺伝的要因
遺伝的な要因も心臓の電気的異常に関与することがあります。例えば、長QT症候群やブルガダ症候群など、遺伝的に心臓の電気的な活動に異常をきたす疾患があります。これらの疾患は、通常、突然死を引き起こすことがあり、早期に発見し適切な治療を行うことが重要です。
9. 心臓の過剰な負荷
運動過多や肥満などによる心臓への過剰な負荷も、心臓の電気的な異常を引き起こすことがあります。過度の運動や過剰な体重は、心筋を疲労させ、心臓のリズムを乱す可能性があります。特に肥満は、高血圧や糖尿病といった他のリスク要因を引き起こすため、心臓に対する負担が増加します。
10. アルコールや薬物の乱用
アルコールやドラッグ(特にコカインやアンフェタミン)は、心臓に直接的な影響を与え、電気的異常を引き起こすことがあります。これらの物質は心拍数を急激に増加させることがあり、異常なリズムを生じることがあります。アルコールによる不整脈は、特に「心房細動」などのリズム異常を引き起こしやすいとされています。
まとめ
心臓の電気的な異常、つまり不整脈は、さまざまな原因によって引き起こされます。心筋の病気、高血圧、甲状腺疾患、薬物の影響、遺伝的要因など、多くの要因が心臓のリズムに影響を与えます。これらの原因は、患者の健康状態や生活習慣によって異なるため、正確な診断と適切な治療が重要です。心臓に異常を感じた場合は、早期の専門医による評価が必要です。