ハンマーリウマチ（急性リウマチ熱）についての完全かつ包括的な解説
急性リウマチ熱（ハンマーリウマチ）は、主に子供や若年成人に見られる自己免疫疾患であり、グループA β-溶血性連鎖球菌（Streptococcus pyogenes）による咽頭感染が引き金となって発症することが多い病態です。この疾患は心臓、関節、皮膚、神経系など多くの臓器に影響を及ぼす可能性があり、その後に慢性的なリウマチ性心疾患を引き起こすことがあるため、早期の診断と適切な治療が極めて重要です。
急性リウマチ熱の原因とメカニズム
急性リウマチ熱は、グループA β-溶血性連鎖球菌による咽頭炎がきっかけとなります。この細菌に感染した後、通常は喉の痛みや発熱などの典型的な症状が現れます。しかし、この感染症が適切に治療されない場合、免疫系が誤って自己の組織を攻撃するようになります。これは「分子模倣」のメカニズムによるもので、細菌の表面抗原と人体の特定の組織（特に心臓、関節、神経系の細胞）の抗原が似ていることが原因です。
免疫系がこれらの抗原を自己の組織として認識し、抗体を生成します。結果として、心臓、関節、皮膚、神経に炎症を引き起こし、これが急性リウマチ熱の特徴的な症状を引き起こすことになります。
症状と診断
急性リウマチ熱の症状は多岐にわたります。典型的な症状としては、以下のものがあります：
- 発熱: しばしば急性の発熱が見られ、通常は39度以上の高熱が続きます。
- 関節炎: 特に膝、肘、足首などの大関節に対称的な炎症が現れることが多いです。これを「移動性関節炎」とも呼び、関節の炎症は数日から数週間で移動することがあります。
- 心炎: 急性リウマチ熱の最も深刻な合併症の1つであり、心臓の内膜や心臓の弁が炎症を起こします。これが進行すると、リウマチ性心疾患を引き起こし、心不全や弁膜症などの慢性疾患に繋がることがあります。
- 舞踏病（ハンチントン病様症状）: 神経系への影響により、体の不随意運動が現れることがあります。特に顔や四肢に不規則な動きが見られることが特徴です。
- 皮膚症状: リウマチ疹（erythema marginatum）や、硬直性皮膚症状（subcutaneous nodules）が見られることがあります。
急性リウマチ熱を診断するためには、まず患者の臨床症状を評価し、血液検査で炎症マーカーの上昇や、連鎖球菌感染に関連する抗体（例えばASO:抗ストレプトリジンO）を測定することが必要です。また、心炎の有無を確認するために心エコー検査を行うこともあります。
治療
急性リウマチ熱の治療は、感染の拡大を防ぐため、また自己免疫反応を抑制するための薬物療法が中心となります。具体的な治療法には以下のものがあります：
- 抗生物質: グループA β-溶血性連鎖球菌による感染を早期に治療するために、ペニシリンやアモキシシリンなどの抗生物質が使用されます。これにより、再感染を防ぎ、急性リウマチ熱の進行を予防します。
- 抗炎症薬: 関節炎や心炎の症状を抑えるため、アスピリンやNSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）が使われることがあります。また、重症例ではコルチコステロイドが使用されることもあります。
- リウマチ性心疾患の管理: 心炎が進行している場合は、心不全の管理や、場合によっては手術による弁の修復が必要になることもあります。
予防
急性リウマチ熱の予防は、グループA β-溶血性連鎖球菌感染の早期発見と治療にかかっています。咽頭炎を引き起こした場合には、抗生物質を早期に投与し、感染の広がりを防ぐことが重要です。また、リウマチ熱の発症後は、再発を防ぐために長期にわたって抗生物質の予防的投与が推奨されることがあります。
長期的影響とリウマチ性心疾患
急性リウマチ熱を発症した後の最も重要な長期的な影響は、リウマチ性心疾患（RHD）です。リウマチ性心疾患は、リウマチ熱による心炎が進行することにより、心臓弁が損傷を受け、弁膜症や心不全が発生する疾患です。これらの状態は患者の生活の質を著しく低下させ、重症の場合には生命を脅かすこともあります。
リウマチ性心疾患は、リウマチ熱を繰り返し発症した場合に特にリスクが高くなります。そのため、急性リウマチ熱の早期発見と適切な治療、さらには再発予防が極めて重要です。
まとめ
急性リウマチ熱は、適切に治療されないと深刻な後遺症を残す可能性がある疾患ですが、早期の診断と治療によって、その予後は大きく改善することができます。重要なのは、グループA β-溶血性連鎖球菌による咽頭感染を早期に発見し、適切な抗生物質治療を行うことです。また、リウマチ熱による心炎や神経症状の管理も不可欠であり、再発予防として長期的な抗生物質投与が重要となります。
急性リウマチ熱の予防と早期治療に取り組むことが、リウマチ性心疾患やその他の重篤な合併症の予防に繋がります。