急性咽頭炎(きゅうせいいんとうえん)、すなわち急性のどの炎症は、季節の変わり目や免疫力の低下時に非常に多く見られる症状であり、日本においても日常的に診療される疾患の一つである。この病態は単なるのどの痛みだけにとどまらず、発熱、嚥下困難、倦怠感など多くの全身症状を伴い、日常生活に大きな支障をもたらすこともある。そのため、急性咽頭炎に対する正確な理解、適切な予防法、早期治療の知識が極めて重要である。
急性咽頭炎とは
急性咽頭炎とは、咽頭、つまりのどの後方部分に急性の炎症が起こる病気である。一般的にはウイルスや細菌が原因で引き起こされるが、アレルギー、煙草の煙、化学物質の吸入など、非感染性の要因によっても発症する場合がある。特に冬季には空気の乾燥とウイルスの活性化により患者数が急増する。
主な原因
急性咽頭炎の原因は多岐にわたるが、以下のように大別される。
| 原因の種類 | 主な病原体または要因 | 特徴 |
|---|---|---|
| ウイルス性 | ライノウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど | 全体の約70%を占める。自然軽快が多い。 |
| 細菌性 | A群β溶血性連鎖球菌(GAS)、肺炎球菌、インフルエンザ菌など | 発熱が高く、扁桃の膿、リンパ節腫脹などが特徴的。抗菌薬が有効。 |
| 非感染性 | 喫煙、乾燥、声の使い過ぎ、アレルギー、胃食道逆流症(GERD)など | 慢性的にのどを刺激する環境要因によるもの。 |
特にA群β溶血性連鎖球菌(GAS)による咽頭炎は、「溶連菌感染症」として知られ、早期診断・治療が重要である。適切な治療を怠ると、リウマチ熱や糸球体腎炎といった合併症のリスクがある。
症状
急性咽頭炎の症状は多岐にわたるが、代表的なものは以下の通りである。
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のどの痛み(咽頭痛)
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嚥下時の痛み(嚥下困難)
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発熱(特に細菌性では高熱になることが多い)
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全身倦怠感
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頭痛
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食欲不振
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咳や鼻水(特にウイルス性で多い)
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声のかすれ(喉頭炎を伴う場合)
また、扁桃が腫れて白苔(はくたい)や膿が付着している場合には、細菌性の可能性が高い。
診断方法
診断は通常、以下の方法に基づいて行われる。
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問診・視診:患者の訴えや症状、咽頭の赤みや腫れ、扁桃の状態などを観察。
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咽頭培養検査:綿棒で咽頭をこすり、病原菌を培養して同定する。
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迅速抗原検査:特にGASに対しては迅速検査キットが広く使われ、数分で結果が出る。
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血液検査:白血球数やCRP(炎症反応)の上昇を確認するため。
治療法
治療は原因によって大きく異なる。
ウイルス性咽頭炎の治療
ウイルス性咽頭炎は自然軽快することが多いため、対症療法が中心となる。
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解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
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うがい薬(ポビドンヨード、クロルヘキシジンなど)
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吸入治療(加湿器、蒸気吸入)
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安静と水分補給
抗菌薬は効果がないため、安易に使用すべきではない。
細菌性咽頭炎の治療
細菌性の場合は抗菌薬が必要となる。
| 抗菌薬の種類 | 主な適応 | 使用期間 |
|---|---|---|
| ペニシリン系 | GAS感染 | 通常10日間 |
| セフェム系 | ペニシリンアレルギーがある場合など | 7~10日間 |
| マクロライド系 | 他の抗菌薬が使用できない場合 | 耐性菌の増加に注意 |
また、抗菌薬による治療中も、解熱鎮痛薬やうがいによる補助療法が重要である。
合併症と注意点
急性咽頭炎が重症化または適切に治療されない場合、以下のような合併症を引き起こす可能性がある。
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扁桃周囲膿瘍:咽頭痛が急激に悪化し、開口障害が現れる。
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リウマチ熱:心臓や関節に炎症を起こす自己免疫性疾患。
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急性糸球体腎炎:血尿やむくみ、高血圧を伴う。
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中耳炎や副鼻腔炎:特に小児では頻繁に併発する。
これらの重篤な合併症を予防するためにも、早期診断と適切な治療が欠かせない。
予防方法
急性咽頭炎を予防するためには、日常生活における以下のような工夫が有効である。
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手洗い・うがいの励行:特に外出後や食事前、トイレ後には必ず行う。
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マスクの着用:冬季や人混みの中では感染防止に効果的。
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室内の加湿:湿度40~60%を保つことで咽頭粘膜を保護。
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栄養バランスの取れた食事:ビタミンC、A、亜鉛など免疫力を高める栄養素を摂取。
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適度な運動と睡眠:免疫機能を正常に保つ。
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禁煙:煙草は咽頭粘膜を傷つけ、炎症を助長する。
日本における疫学と医療の現状
日本では、急性咽頭炎は年間を通じて見られるが、特にインフルエンザ流行期に増加する傾向がある。厚生労働省の統計によれば、外来患者のうち約10%がのどの痛みを主訴としており、小児から高齢者まで幅広い年齢層に影響を与えている。
日本の医療現場では、咽頭迅速抗原検査の普及により、細菌性とウイルス性の鑑別が迅速かつ的確に行われており、抗菌薬の適正使用にもつながっている。
また、近年はCOVID-19との鑑別が非常に重要視されており、咽頭痛を訴える患者に対しては、抗原検査やPCR検査を行う施設も多い。
結論
急性咽頭炎は一般的ながらも油断のならない疾患である。その発症原因や症状は多様であり、原因に応じた正確な診断と治療が不可欠である。日本における医療体制では、早期発見と対症療法、抗菌薬の適正使用が徹底されつつあり、合併症の予防にも役立っている。今後は、感染症対策とともに、生活習慣の改善によって罹患率をさらに低下させることが期待される。
参考文献:
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厚生労働省「感染症発生動向調査」
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日本耳鼻咽喉科学会『咽頭炎診療ガイドライン』
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国立感染症研究所「細菌性咽頭炎に関する疫学情報」
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日本化学療法学会「抗菌薬の適正使用に関する指針」

