悪性吸収症の原因とその影響
悪性吸収症(または吸収不良症候群)は、消化管が栄養素を正常に吸収できない状態を指します。この疾患は、身体が必要とするビタミン、ミネラル、脂肪、タンパク質、炭水化物などの栄養素を適切に吸収できないため、様々な健康問題を引き起こします。悪性吸収症の原因は多岐にわたりますが、主なものを以下に詳述します。

1. 小腸の疾患
小腸は、栄養素の吸収が行われる主な部位であり、ここに問題が発生すると吸収不良が起こります。小腸に関連する病気が悪性吸収症の最も一般的な原因の一つです。
・セリアック病(グルテン過敏症)
セリアック病は、グルテンを含む食品(小麦、大麦、ライムなど)を摂取した際に免疫系が小腸の内壁を攻撃し、炎症を引き起こす自己免疫疾患です。この疾患が進行すると、小腸の絨毛(栄養吸収を担当する細かい突起)が損傷し、栄養素の吸収が難しくなります。これにより、鉄分不足やビタミンB12欠乏症など、さまざまな栄養素の不足が引き起こされます。
・クローン病
クローン病は、消化管の任意の部分に慢性的な炎症を引き起こす疾患で、特に小腸に影響を与えることが多いです。この疾患によって、腸壁が傷つき、栄養素の吸収能力が低下します。クローン病は、腹痛、下痢、体重減少、栄養失調などの症状を伴い、治療が遅れると悪性吸収症を引き起こす可能性があります。
・腸内感染症
細菌やウイルス、寄生虫などの腸内感染も悪性吸収症の原因となることがあります。これらの病原体が小腸に感染すると、腸の内壁が炎症を起こし、栄養素の吸収に障害をもたらします。特に、慢性の腸内感染症や繰り返しの感染がある場合、吸収不良が慢性化することがあります。
2. 膵臓の問題
膵臓は消化酵素を分泌し、脂肪やタンパク質を消化する役割を担っています。膵臓に障害があると、消化酵素が十分に分泌されず、栄養素の吸収が難しくなります。
・膵炎
膵炎は膵臓の炎症で、急性または慢性に分けられます。慢性膵炎では膵臓が長期間にわたり損傷を受けるため、消化酵素の分泌が減少し、脂肪などの吸収に支障をきたします。膵炎の患者は、消化不良、下痢、体重減少などの症状が現れます。
・膵臓がん
膵臓がんもまた、悪性吸収症の原因となることがあります。がんが膵臓の消化酵素の分泌を妨げることで、栄養素の吸収に影響を与えることがあります。特に、膵臓がんが進行すると、吸収不良や体重減少が顕著に現れることが多いです。
3. 肝臓の問題
肝臓は胆汁を生成し、脂肪の消化に重要な役割を果たします。肝臓に問題がある場合、胆汁の分泌が減少し、脂肪の消化と吸収が難しくなります。
・肝炎
肝炎は肝臓の炎症で、ウイルス性のものが一般的です。慢性肝炎が進行すると、肝臓の機能が低下し、胆汁の分泌に支障をきたします。これにより、脂肪の吸収不良が生じ、体重減少や栄養失調が引き起こされることがあります。
・肝硬変
肝硬変は、肝臓の長期的な損傷により肝機能が著しく低下する状態です。肝硬変が進行すると、胆汁の分泌が減少し、消化不良が起こるため、栄養素の吸収が難しくなります。
4. 内分泌疾患
ホルモンは消化過程にも重要な役割を果たしており、内分泌系の異常があると、栄養素の吸収に影響を与えることがあります。
・甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの分泌が不足するため、消化器系の運動が遅くなり、栄養素の吸収が遅れることがあります。これにより、便秘や栄養吸収不良が引き起こされることがあります。
・糖尿病
糖尿病は、インスリンの分泌異常や作用不良によって血糖値が高くなる病気です。糖尿病が進行すると、消化管の運動にも影響を与え、栄養素の吸収が低下することがあります。
5. 薬物の影響
薬物も悪性吸収症の原因となることがあります。特に、以下の薬物は吸収不良を引き起こすことがあります。
・抗生物質
抗生物質は、腸内フローラを乱し、腸内の正常な細菌バランスを崩すことがあります。これが長期間続くと、腸内での栄養素の吸収が障害されることがあります。
・抗酸化薬(例:プロトンポンプインヒビター)
プロトンポンプインヒビター(PPI)などの薬剤は胃酸の分泌を抑えることで、カルシウムやビタミンB12の吸収に影響を与えることがあります。これが長期的に続くと、吸収不良を引き起こす可能性があります。
結論
悪性吸収症は、消化管や膵臓、肝臓、内分泌系、さらには薬物など、さまざまな要因によって引き起こされます。症状には体重減少、下痢、腹痛、栄養失調などがあり、これらが長期間続くと健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。早期の診断と適切な治療が重要です。悪性吸収症が疑われる場合は、専門医による検査と治療を受けることが必要です。